「ニッパチ」という言葉がある。2月と8月をひとくくりにして、景気のよくない時期を指す。正月と盆に散財し、財布のひもが固くなるからだという。作家の山口瞳さんは、そんな不振の月に「ヨンゴー」、つまり4月と5月を加える説を唱えている◆働き盛りで大学や高校に上がる子どもがいたとする。〈三月に入学金を払う。入学祝いをする。四月、五月は父親はショックで意気沮そ喪そうしている。ショックどころか、借金の返済で頭が痛い。酒場なんかへ行っていられない。酒場が不景気になる〉◆相次ぐ食料品の値上げで、家計の食費支出の割合を示す「エンゲル係数」が40年ぶりの高水準になったとか。「この数字が高いほど貧しいあかし」と、むかし学校で習い覚えたことを思い返す◆物価高騰の波はこの春から、宅配便などサービス分野にも及び、電気・ガス代もまた値上がり。「ヨンゴー」を何とか乗り切ったら夏が来て、あぁ今度は8月のさびれ時…◆いつか風向きは変わると気楽に構えていても、結局は思うに任せない。ままならぬ世を山口さんは「仮り末代」という言葉でたとえた。仮住まいのつもりが、何となく住み着いてしまう。〈私には、すべての人が、世の中全般が「仮り末代」に思われてくるのである〉。そのエッセー風に叫んでみたい。諸君!この人生、大変なんだ。(桑)