おとといの紙面に、鹿島市で紅梅漬け作りの教室が開かれるというお知らせ記事があった。カリっとした歯ごたえが好きで、実家に帰ると母がよく持たせてくれたのを思い出す◆青梅が出回るころ、夫婦2人の暮らしには余るほど仕込んで、「あの子も好いとっけん」と県外に住む姉にも毎年届けていた。もらう側は勝手なもので、「実はあれ、苦手やったぁ」と笑い話で打ち明けられたのは、母が亡くなった後だった◆往年の名作ドラマ「阿修羅のごとく」にこんな場面がある。久しぶりに集まった実家で4姉妹がおむすびを作る。妹が姉の握った形を見て「あら、三角なの?」。うちでは子ども時分から俵形だったのに、と。姉は言う。「オヨメにゆくと、行った先のかたちになるの」。なじんだ味の記憶を置き忘れて、ひとは大人になっていく◆いつの間にか、あの甘酸っぱい梅は家にあるものではなくなって、たまに店先をのぞいてみる。6月から漬物販売の衛生基準が厳格になり、これまで道の駅や直売所に細々とお手製を並べていた農家は出荷できなくなるという。なつかしい味の記憶はますます遠ざかる◆年とともに、食卓には若いころの好物より、父母が好んだような献立が並ぶようになった。思い出という空腹を満たしている気がする。〈母の日のてのひらの味塩むすび〉鷹羽狩行。(桑)