第一章「怪談ラジオ局」(6)

 

「みっつともどうぞ!」

「え? 全部いいの!?」

 『にじゅうまる』は高級なだけあって、値段的にもなかなか高いのだ。

「母さんも父さんも『もう要らない』って言ってたから、大丈夫だよ」

「……マジで」

 花音は横目で後ろを気にした。

 廊下を挟んで扉の向こう側がリビングだ。基本的に、彼女が来ているときは両親も気を使って出て来ない。その気遣いが嬉しくもあり、少々気まずくもあって、複雑な気分ではあるけれど。

「んじゃ遠慮なく頂きます!」

「ご遠慮なく!」と昇太は敬礼した。

「では花音さま、剥いて差し上げます!」

「ご苦労。ヘタから上手に剥きなさい」

「あ、それ、俺が言おうと思ったのに!」

 悔しそうな昇太に、彼女は「そんなの、小学生でも思いつくわよ」と呆れ顔だ。

 昇太は「そうかなあ」と口を尖(とが)らせながら、高級みかんを剥き始めた。みかんを剥いたり、りんごを切ったりするのはいつも昇太の役目である。

 花音は小学生の時、両手首から先を病気で失っている。精巧な義手を使って、大抵のことは器用にこなしてしまうのだが、昇太とふたりでいるときは「あーしてほしい」「こーしてほしい」と、何かと甘えてくるのだった。

 昇太は「俺は花音ちゃんのお世話係かよ」とぼやきつつ、感謝の目で見つめられると、まんざらでもない気分になってしまう。それを見て「昇太くん、マジでチョロ過ぎ」と笑う彼女であった。

 花音が自分の手のことで愚痴を言うのを、ただの一度も聞いたことがない。

 ハンディキャップに拘泥せず、常に華やかな笑顔で周囲を明るくし、何にでも挑戦することを信条にしている彼女を、昇太は心から尊敬していた。

「出来そうにないことをやっちゃうのが、私なのよね」が、彼女の口癖だ。

 ――俺には、勿(もっ)体(たい)なさ過ぎる彼女だっつーの……。

「早く早く!」

 尊敬してやまない相手が、「あーん」と口を開けている。

「雛(ひな)鳥(どり)かよ」

「七つの子だよ」

 口の中に一粒放り込んでやると、少女は目をぎゅっと閉じて「んーっ!」と言いつつ、ゆっくり味わい……目を開けて昇太を見た。