第二章「突然の生放送」(12)

 

「いいね。サケちゃん賛成!」

「決まりだ」

 アンジェリカが上げた左の手のひらを陽一が叩き、鋼鉄製のドアを開けずに(!)出て行ったが、たまたま昇太は見ていなかった。

 

 三時間後、番組が終わって昇太はラジオ局を出た。駅前南口広場側のドアではなく、スタッフ専用の裏口からだ。

 結局、昇太は成り行きで――というかアンジェリカの『命令』により、番組のエンディングまで出演し続けたが、初めてのラジオ生出演はなかなか楽しかった。自分宛てのメールもリスナーからいくつか送られてきたし、中には大切な人を亡くした悲しみに寄り添うメッセージや、就職試験のアドバイスもあった。

 まさに『ラジオは心と心を結ぶメディア』という、陽一とアンジェリカの言葉が実感できる夜だったのだ。

 番組のエンディングテーマが終わると、陽一が拍手をしながらスタジオに入ってきた。「とてもいい番組だった。昇太くん、今夜は君のおかげで盛り上がったよ。ありがとう」とウインクし、アンジェリカは「ま、半分以上あたしのおかげだけどね!」と笑った。

 ふたりとも、「ぜひまたおいで」と誘ってくれたのだった。

 なんだか夢のような一夜だった。

 昇太は裏口から駅前の通路に出て左側を向くと、恐る恐るスタジオ側に回った。本番中に手を振ってくれたリスナーたちに会うのは気恥ずかしいが、帰り道の方向なので仕方がない。

 しかし、スタジオ前には、もう誰もいなかった。少なくとも十人くらいが見学をしていたと思うが、番組が終わった途端に皆帰ってしまったのだろうか。

 リスナーに声をかけられたらどうしよう――とそわそわしていた昇太だったので正直拍子抜けしたが、少々ほっとした気分でもある。

「あれ?」

 スタジオの中が真っ暗だったので少し驚く。

 ついさっきまで煌々(こうこう)と天井灯が光り、机の上にはメッセージや音楽の資料が散乱していた筈だ。だが外から見る限り、電気の消えたスタジオの中は綺麗(きれい)に片付いている。

 ――いつの間に……?

 ついさっきまでラジオの生放送が行われていた余韻は、スタジオの外にも中にも、全く残ってなかった。まるで、何事もなかったかのように。

 昇太は周囲を見回した。駅周辺には誰もいない。