第三章「真夜中に鳴く」(2)

 

 ――ああ、シロに会ってモフモフしたいなあ……おでこの、お布団を干したような匂いを嗅ぎたい……。

 しかしその機会が、もう二度と巡ってこないことは分かっている。

 ――せめて、もうちょっと仕事に余裕が欲しいよ……。

 実は「猫のいる暮らし」を求め、つい最近、ペット可のマンションに引っ越したばかりなのだが、生憎(あいにく)仕事が忙しくて、なかなかペットショップや譲渡会に足を運べずにいたのだった。

 ――まあ猫の話は置いといて、と。

 眼鏡をかけ直し、まじまじとラジオ局を見る。

 真純は現在、主にスポーツ取材を担当しているが、その前は芸能・文化欄を担当していた。佐賀県内のテレビやラジオの番組は大体把握しているつもりだったが、この番組の存在は知らなかった。

 ――ていうか今の時間って、東京キー局の番組じゃないっけ?

 それとも自分が担当を変わってから、新しく始まったプログラムなのだろうか。いずれにしろ、佐賀のラジオ局で深夜番組が生放送されるのは珍しい。

 正直、真純は新聞記者になるまでラジオを聴いたことが無かった。だけど仕事で触れているうちに、好きになった。音だけの不自由なメディアは、文字と写真だけの新聞とどこか似ているような気もする。

 ――ある種の仲間意識ってやつかな。

 ――新聞もラジオも、不自由だからこその良さって、あるんだよね。

 やがて、オープニングテーマ曲の音量がBGレベルに下げられた。パーソナリティーたちの挨(あい)拶(さつ)が始まるようだ。

 ――少し眠たくなってきたところだけど……。

 何だか面白いことになってきたぞ。

 真純は興味津々で身を乗り出し、ふたりのトークに耳を澄ませた。

 

「こんばんは、もうすぐゴールデンウイークですね。清水アンジェリカです!」

「こんばんは、サケ茶漬けです。サケちゃんって呼んでください!」

「いや、ちょっと!」

 アンジェリカが机に突っ伏した。起き上がりながら、向かって右横のサケ茶漬けこと、酒谷昇太を見る。

「まだそのラジオネームっていうか、芸名、引っ張るつもり? もう二回目なんだし、もはや本名でいいじゃん!」