シェアオフィス建設予定地で、お世話になっている藤田健臣さん(右)と談笑する山本卓さん=佐賀市富士町大野地区

 俳優、テレビ局ディレクターという異色の経歴を持つ男性が佐賀市富士町の活性化に奔走している。佐賀県地域おこし協力隊の山本卓さん(36)は、山で働く人たちに話を聞き「佐賀の豊かさ」をネットで発信してきた。任期が終わる2022年3月末に向け、起業するなど町内定住の準備を進めている。

 山本さんは大阪府出身。2000年に俳優としてデビューし、NHKの大河ドラマ「平清盛」、映画「半次郎」などに出演。主宰した劇団で海外公演も行ったが、アルバイトをして関心があったテレビ番組の制作会社に15年入社した。

 情報番組のディレクターとして事件事故の取材を担当。昼夜を問わず全国を駆け回る激務に加え、人の不幸を期待するような現場の空気に自らがすり減るような違和感を次第に感じるようになった。

 19年5月に立ち寄った移住促進イベントで、佐賀県の担当者から聞いた自然の中で暮らす話に心を動かされた。少年時代にボーイスカウトに取り組み、キャンプが大好きだった。「10代から突っ走り続けた。ゆっくり過ごしたくなった。お金やモノで得られない豊かさが佐賀にあると思った」。1カ月後に会社を辞め、同年9月に来佐した。

 ディレクター時代に培った映像技術を生かし、ネットメディア「佐賀のお山の100の仕事」で情報を発信。山で生き生きと働く人たちを取材する中、仕事の面白さがよみがえってきた。今年1月、動画製作などを行う会社を設立した。

 都市で暮らす友人から、自然豊かな地方に憧れつつ仕事や生活様式の変化を恐れて踏み切れないと聞いた。「まずはお試し、2拠点生活を体験できるシェアオフィスをつくろう。コロナ禍で在宅勤務が増えるなど働き方が変化し需要はあるはず」−。公私で親しい建築士の藤田健臣さんに相談したところ、土地探しや電柱設置、設計など手厚く応援してくれた。東京のウェブメディア「AM」編集長の金井茉利絵さん、佐賀未来創造基金、県など支援の輪が広がり、建設費の一部をクラウドファンディングで集めた。

 同町大野に22年3月完成を目指すシェアオフィス・コワーキングスペース「音無テラス」は木造平屋建て約90平方メートル。約10人が日帰りで利用するオフィスやキッチンスペース、湖が眺められるテラスを設ける。「多くの方の協力でここまで来ることができた。今度は私が東京や福岡で働く人をお手伝いし、地域の方と交流する拠点にもしたい」と抱負を語る。(大田浩司)