シリーズでお伝えしている「佐賀人十色」今回は佐賀市に住む世界でもめずらしい写真家の男性。撮影しているのは今年も刈り取りシーズンを終えたあの農作物、佐賀ではごくあたり前の光景です。

カメラを構える一人の男性そのレンズの先には…
撮影しているのは「麦」です。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「金色に輝いている中に青々している麦が1本だけある。これもなんかまたドラマチックでいいのかな」

佐賀市在住の平野はじめさん。5月、その姿は刈り取り時期を迎えた麦畑にありました。すると…

【地元の農家(八木さん)】
「何をされているのか、何が気になって撮られているのか」
【川浪記者】
「彼は麦を撮影するカメラマン」
【地元の農家(八木さん)】
「専門のですか?すげー!。麦を専門にというのはなかなか。しかもこの(近い)距離で。どこに魅力があるのか…」

どうしても気になって話しかけることに。

【地元の農家(八木さん)】
「なんか麦専門で写真を撮られていると聞いて」
【麦グラファー 平野はじめさん】
「自分、麦グラファーこと平野はじめといいます」

“麦グラファー”こと“平野はじめ”麦グラファーとは「麦」と「フォトグラファー」をかけあわせた造語で去年12月、商標登録されました。
名前の通り、平野さんは世界でも珍しい「麦」を撮影する写真家です。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「麦の生命力、麦ってなんか人っぽい。生き生きとしているというか、麦にも表情があるというか」

平野さん曰く、ノギの部分がシュンと立っているものは“美人”と“イケメン”です。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「最近は佐賀の方でもはるか二条という大麦の品種が入ってきて、はるか二条って背丈がサチホゴールデンに比べて低くて倒れにくいので…」

麦への愛情に加え農家顔負けの麦の知識、話し出すとなかなか止まりません。
子どものころから何かを形に残すことが好きだった平野さん。佐賀の麦のようにのびのびと育つと思いきや…
バンドの写真学校に息苦しさを感じ高校を中退。その後はバンド活動に明け暮れ20代になるとフリーのデザイナーとして活動していました。しかし…

【麦グラファー 平野はじめさん】
「これが本当にやるべきこと、これで将来食って行きたいかと考えたときに違和感を覚えた」

北米での様子写真にのめり込んだのは10年ほど前、カメラを片手に自分探しへ出かけた北米でした。がむしゃらにシャッターをきり目の前に広がる一瞬一瞬をカメラに収めました。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「帰国したときに挫折ではないが、何を撮っていいのかわからない時期がずっと続いた、その時に出会ったのが“麦”で」

帰国した平野さんを待っていたのはふるさと佐賀の麦畑、これまで素通りしていた光景を見てただただ美しいと感じシャッターを切りました。

そのとき撮影した写真がこちら。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「ぼーっとしてなんとなくシャッターを切った作品だが、今となってはすごく思い入れのある作品。“佐賀ってこういう風に美しいんだよ”というところを表現したかった『Sweet Home SAGA』というタイトルにした」

普段は広告写真のほか舞台写真や建築写真などを撮るプロの写真家として活動するほか、企業向けのカメラ講習などを仕事としています。転機は去年、初めて応募した世界最大級の写真コンテスト、日本部門で1位つまり最優秀賞を受賞しました。
受賞作のタイトルは『PHOENIX』県内で行われた野焼きの様子をドローンで撮影したもので、平野さんはこの作品を“奇跡の一枚”と話します。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「この作品は瞬間的な作品で、誰かが意図的に燃やして作られたものではないし、本当に偶然」

麦の撮影を始めて今年で7年目。麦踏みから刈り取り野焼きまでほぼ毎日麦畑に通い、撮影枚数は約7万枚にのぼるといいます。
撮影一方で、平野さんの姿はこんなところにも。

【川浪記者】
「きょうは何をする日ですか?」
【麦グラファー 平野はじめさん】
「きょうはモデルの日。写真を撮ってもらうのでどんな感じになるかすごく楽しみです」

写真家のかたわら4年前からはモデル・タレントとしても活動しています。

【ヘアメイク担当 戸上由起子さん】
「体型のバランスが良い、顔が小さくてスラっとしていて、こういうファッションがすごく似合う。お、かっこいい。どうですか?」

【麦グラファー 平野はじめさん】
「OK!パーフェクトです」

この日は自身の宣材写真のほか、美容専門学校のDMや広報で使う写真の撮影会です。普段の雰囲気とは一変、奇抜な衣装やメイクをまといつつも魅力を十分に発揮していました。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「自分の中で二面性を持ってやっていることなので、良くも悪くも全然違うことをして最終的にどこかでジョイントされるような感じでやっている」

【撮影担当 山口啓さん】
「(平野さんは)カメラをやっているから当たり前ですけど、モデルの気持ちをいつも感じながらやっている、それが上手くインスパイアされて。普通、男性モデルは動けないほとんど」

【麦グラファー 平野はじめさん】
「特徴がある写真が特にお気に入り。こういうのは“ゾンビ麦”と呼んでいる、農家さんとしては出来が悪い麦かもしれないが、私にとっては魅力的」

他にも穂が寄り添っている麦は“家族麦”など麦の中で主役を見つけるのも平野さんの撮影スタイルです。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「麦がきっかけで人生の転機が訪れたり、人とのつながりが得られたり。すごく麦って自分のなかで重要なポジションなのかな」

今後も佐賀を拠点に世界で活躍できるアーティストになりたいと意気込む平野さん。伝えたいのは”地元佐賀を好きになってほしい”という思いです。

【麦グラファー 平野はじめさん】
「自分自身が今まで地元(佐賀)を好きになれていなかった。でも麦があったおかげもそうだし、いろいろな写真を撮ったおかげでちょっとずつ地元を好きになれた。(今後は)麦を軸としてもっと外にアプローチをかけていきたい」