入間川にかかる岩根橋からほど近い県道70号線沿い。アメリカンハウスを彷彿させる横張の下見板の白い外壁が特徴的な『PASTA AND OMURICE 1+2(いちたすに)』。ランチに訪れる客を虜にしているのは、パスタ用のエビとトマトのクリームソースをアレンジしたふわっとろっのオムライス。そして、季節に応じて年に10回ほどラインナップが入れ替わる4種類のパスタだ。

珠玉のオムライスとパスタを作る男「失敗ばかりの人生だ」と語る

エビとトマトのクリームソースを火にかける高田さん。その堂々たる身のこなしは、どこからどう見ても生粋のシェフに見えるのだが……。
エビとトマトのクリームソースを火にかける高田さん。その堂々たる身のこなしは、どこからどう見ても生粋のシェフに見えるのだが……。

ランチの名物はエビとトマトクリームのオムライス1100円。ソースは、バターにパルメザンチーズのコクも相まって濃厚な味わいのトマトの中に、エビのだしが力強く活きる。ライスは、トマトソースとバルサミコ酢であくまでさわやかに。エビはプリッと、卵はふわっと。食感と味わいが、それぞれがしっかり役割を果たしていてコントラストが絶妙な、癖になるオムライスだ。

なのにオーナーシェフの高田清さんは、40代の半ばまで「みそ汁さえ自分で作ったことがなかった」という。さらには「失敗ばかりの人生」とまで口走るのだ。

ジョンソンタウン時代の面影も残るという店内。テーブルやベンチソファは自家製だ。
ジョンソンタウン時代の面影も残るという店内。テーブルやベンチソファは自家製だ。

オープンは2016年の12月。それまではお隣の入間市でカフェとして5年間、同様にイタリアンを提供していた。場所は、入間基地に隣接したジョンソンタウン。かつて基地が米軍に接収されていた時代に建てられたアメリカンハウスが軒を連ね、現在は個性的な雑貨屋や飲食店が入居する。そもそも高田さんはそこで、ミュージシャンのマネージメント会社を経営していたという。

カフェを開くに至ったいきさつについて伺うと、「かいつまんで言えば、事業がうまく行かなかった」と語った。「だから最初は、会社として抱えていた若い子らを食べさせるため。しかも稼ぎがないから、妻に代わって炊事をする必要にも迫られて」。かくして高田さんは、慣れない包丁を手に取ることになったというわけだ。

思い出の味を再現したい。40代半ばで突如花開いたシェフとしての才能

ランチパスタの一例プッタネスカ。季節でパスタの種類を変えるのは「お客様が飽きないように。それと、ぼくも飽きちゃうし(笑)」。
ランチパスタの一例プッタネスカ。季節でパスタの種類を変えるのは「お客様が飽きないように。それと、ぼくも飽きちゃうし(笑)」。

「プッタネスカ」は、唐辛子がピリっと効いたパスタ。アルデンテに茹でたスパゲッティを口に運べば、鯛から取っただしの風味、ケッパーの酸味、ブラックオリーブの香り、アンチョビのほどよいコクが重層的に口中に広がる。ルッコラの、ほのかな苦味と肉厚の食感も心地よい。

こうした『1+2』の料理は、どれも高田さんの思い出がルーツだ。

ランチ1品につき1点注文できるサラダセット100円。自家製ごまドレッシングがあまりに美味。
ランチ1品につき1点注文できるサラダセット100円。自家製ごまドレッシングがあまりに美味。

大学卒業後、出身地の神戸から就職で東京に出てきたのは1988年、つまりはバブル入社組。そのころ流行りだしたイタリアンの虜になり、「当時は保険会社の営業をしていたので、接待を名目にありとあらゆる名店を食べ歩いた」という高田さん。運命のいたずらで厨房に立たざるを得なくなった時、湧き上がってきたのは「大好きだったあのイタリアンの味を再現したい」という想いだった。

鮮烈な印象があった広尾の『ラ・ビスボッチャ』のパルメザンチーズのリゾットを皮切りに、挑戦してみたら「これがおもしろい」。記憶の糸を一本一本手繰り寄せていくと、「あれ、自分にはこんな才能があったんだ」と不思議なくらい、次から次へと食材のイメージが浮かんできたという。人間、40代を半ばにして眠っていた能力が開花することもあるのだ。

エビとトマトクリームのオムライス誕生のきっかけは「パスタのソースをご飯にかけて食べたい」という常連の一言。
エビとトマトクリームのオムライス誕生のきっかけは「パスタのソースをご飯にかけて食べたい」という常連の一言。

もちろん、すべてがすべて無手勝流というわけではない。パスタが得意な神戸の友人にアドバイスを求めたり、池尻大橋の『オステリア ボーノ』でトマトソースに感銘を受ければ、再び訪れて身分を明かし、シェフに教えを請うたりしたこともある。

とはいえ「ぼくは師匠について料理を学んだわけじゃないから、あくまで発想は自由。新しいものを生み出すためには変化をいとわない」。これが高田流だ。

レシピは分け与えるもの。どこかの家庭のおふくろの味になったら最高です

オーナーシェフの高田清さん。店名は、奥様がこよなく愛す台湾映画『ヤンヤン 夏の想い出』の原題『A ONE AND A TWO』から。
オーナーシェフの高田清さん。店名は、奥様がこよなく愛す台湾映画『ヤンヤン 夏の想い出』の原題『A ONE AND A TWO』から。

そんな高田さんの根底には、レシピは分け与えるものという発想がある。「何でも教えちゃう。もし、ぼくのレシピを家庭で再現して、それがおふくろの味になったら最高じゃないですか」。

確かにサラダセットのドレッシングの深いコクが印象的だったので、「これ、みそでも使ってるんですか」と尋ねた時には、「アンチョビですよ。ベースはゴマ。それにしょう油、玉ねぎ、りんご、ニンニクでソースを作って……」と、素材から工程に至るまで丁寧に説明してくれていた。

「だって同じ素材を使ったって、ぼくと同じ味にはならない。その人なりの味になる」と。高田さんが作る思い出の名店の味もきっと同じ。高田清という人間を通した味であり、それがまたこの店の個性として人をひきつけているのだろう。

店内奥に借景のように広がる庭。ローズマリーやセージ、バジルといった地植えのハーブは料理にも。テラス席ならペット同伴可。
店内奥に借景のように広がる庭。ローズマリーやセージ、バジルといった地植えのハーブは料理にも。テラス席ならペット同伴可。

「神戸といっても、有馬温泉なんかがある山の方の育ち」という高田さんにとって、どこか故郷に似ている川と山の緑あふれる飯能。そんな「子どものころの情景」の中で、これからも高田さんの思い出が誰かの舌とお腹を満たし、心を楽しませる。そして、それがまた誰かの思い出になってゆくのだ。

ジョンソンタウン時代の思い出も大切に、アメリカンハウスを彷彿させる横張の下見板の白い外壁が特徴的な店舗。
ジョンソンタウン時代の思い出も大切に、アメリカンハウスを彷彿させる横張の下見板の白い外壁が特徴的な店舗。

PASTA AND OMURICE 1+2(パスタ アンド オムライス いちたすに)
住所:埼玉県飯能市飯能319-1/営業時間:11:00〜14:30LO・18:00〜21:00LO/定休日:火・水/アクセス:西武鉄道池袋線飯能駅から徒歩15分

構成=フリート 取材・⽂・撮影=木村雄大