赤い塗料が紫外線に弱いことは看板屋さんやDIY愛好家には周知の事実のはずなのに、それでも、それなのに、一体どうしたことなのでしょう。まちなかの看板の赤い文字が消えてしまう事案が後を絶ちません。 大切なことだからこそ赤で大きく書いたはずなのに、無残にも言葉が途切れてしまった看板を、和歌になぞらえて〈上の句看板〉と名付けてみます。下の句は隠された状態ですが、たいてい決まり文句なので上の句だけでも想像がつくところも百人一首に似ています。

Garage keeper《車庫の番人》
Garage keeper《車庫の番人》

「車庫につき」の後が1行分消えてしまっていますが、続く言葉が「駐車禁止」だということは想像がつきます。ドライバーに向けた注意喚起としての黄色に加え、路側帯ギリギリいっぱいに迫り出すように置かれている様子に、駐車させませんよという強い意思が込められています。

手製の台座をよく見ると自動車のホイールを流用して重石にしているんですね。溶接してから塗装してある様子からただのDIYではないことがわかります。廃品を素材にしたジャンク・アートや自転車の車輪を使ったマルセル・デュシャンのレディメイド(既製品)のオブジェなども連想してしまいます。

それにしても車の部品で駐車禁止看板を作るとは、まるで「もずのはやにえ」のように縄張りを主張しています。

Half finished《途中でやめる》
Half finished《途中でやめる》

これも同じパターンです。「駐車場出入口につき」の後はなんなんですか?と聞き返すのは野暮というものでしょう。

「その男、凶暴につき」みたいな字面と語感で相手を黙らせようという作戦なのでしょうか。これはこれで凄みが利いています。

Someone’s eyes《誰かは不明》
Someone’s eyes《誰かは不明》

防犯ステッカーの歌舞伎の隈取りのイラスト。絵だとわかっていても目が合うとドキッとします。

でも、ここで問題にしたいのはその後のコピーの方です。

「誰か・」で詰まってその先が続かない。

「見てるぞ」とすごんでいるはずの看板も、なんだか助けを呼んでるみたいで頼りない。

誰か・なんとかしてあげてください。

Unfinished《先が読めない》
Unfinished《先が読めない》

これは一体何が起きたのでしょう。住所のようにも見えますが、なぜハイフンから先が消えているのかがわかりませんし、この後に何かが赤い字で書かれていたのだとしてもさっぱり見当がつきません。

先が読めない、とはまさにこのことです。

Owner’s hope《管理人の願い》
Owner’s hope《管理人の願い》

アパートの前の張り紙です。「入居者様以外の」の後がすっかり消えているのですが、なんと書かれていたのでしょう。

入居者様以外の「ゴミ出し厳禁」かもしれないし、「自転車は置かないでください」だったのかもしれませんが、最後は大喜利っぽく整えてみましょう。

入居者様以外の「告白はお断りします 一刻館管理人」。

アパートといえば管理人さん、ということで懐かしのマンガ『めぞん一刻』の響子さんをイメージしてみました。五代君、君には告白する権利がある。あと必要なのは勇気ですぞ。

そして、管理人さんはくれぐれも外に出す看板には安易に赤い文字は使わないで。ペンキなら屋外用の耐光性塗料の赤を使ってください。以上、通行人からのお願いでした。

 

文・写真=楠見清