サブカルの聖地としての色が強い『中野ブロードウェイ』だが、それはここ20〜30年の話。56年の歴史ある館内には未知の名所がある。 今回は、『中野ブロードウェイ』在住の作家・長谷川晶一さんに、住民目線で館内を案内してもらった。

長谷川晶一 Hasegawa Shoichi

1970年東京都生まれ。ノンフィクション作家。『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)のほか、『詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』(集英社)など著書多数。

長谷川さんの著作『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)1870円。
長谷川さんの著作『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)1870円。

中野ブロードウェイ

地下3階、地上10階建ての『中野ブロードウェイ』。地下1階〜地上4階が商業施設、5階以上は住宅施設だ。

「若い頃、青島幸男が大好きで」
と語るのは、今回の案内役・長谷川晶一さん。かつて“東洋一のビルディング”という謳(うた)い文句で建設された『中野ブロードウェイ』の居住区には、数々の著名人が住んでいた。青島もそのひとり。憧れの人にならい、長谷川さんは、20年ほど前からブロードウェイで暮らしている。まさに、この建物を知り尽くす人物だ。

「まず3階へ向かいましょう」。
すぐ上の2階を通過することに疑問が浮かんだが、理由は簡単。エスカレーターが3階直通なのだ。
「当初、4階まで通して客の動線を作るはずが、当時の技術ではそこまで伸ばせず、こんな中途半端なかたちになったそうです」。

1階の南北に3階直通のエスカレーターが2機。メインストリートからアクセスがいいため、3階は2階より分譲価格が高いらしい。「うっかり乗って混乱する人をひんぱんに見かけます」。
1階の南北に3階直通のエスカレーターが2機。メインストリートからアクセスがいいため、3階は2階より分譲価格が高いらしい。「うっかり乗って混乱する人をひんぱんに見かけます」。

向かった先は1966年の竣工と同時に開業した『明屋(はるや)書店』だ。
「普通の書店でしょう?今でこそサブカルの聖地と言われていますが、1980年くらいまでは普通の商業施設でした。ここは、その名残が残っている」。
そう言うと、長谷川さんは慣れた足取りで本棚を巡る。
「すぐ降りて資料を探せるから、住民として重宝しています」。

次に向かうは時計専門店『ジャックロード』だ。
「時計マニアの間では、『ブロードウェイなら、ほしい時計が必ず見つかる』と言われています」。
今は館内に複数の時計店があるが、その始祖はここだというわけだ。

『明屋書店中野ブロードウェイ店』。「ここでは流行りの調査と資料集めをしています」と長谷川さん。
『明屋書店中野ブロードウェイ店』。「ここでは流行りの調査と資料集めをしています」と長谷川さん。
館内最古参の時計専門店『ジャックロード/ベティーロード』。
館内最古参の時計専門店『ジャックロード/ベティーロード』。

新旧入り乱れる複雑怪奇な世界観

「最近、注目している店も」
と、長谷川さんが足早に向かった先はサブカルコラボショップ『墓場の画廊』。この日は漫画「北斗の拳」の展示中。
「自分の世代直撃の展示が催されるので、気になってしょうがないんですよ」
と、目を輝かせる。

事務所やクリニックが並ぶ4階では、某有名現代アーティストの昭和の飲み屋風オフィスが。
「イイ感じの横丁ができた!って、ぬか喜びさせられました。『オフィスかよ!』って(笑)」

インパクト大の『墓場の画廊』「北斗の拳」の展示棚。(「北斗の拳」©武論尊・原哲夫/コアミックス 1983)
インパクト大の『墓場の画廊』「北斗の拳」の展示棚。(「北斗の拳」©武論尊・原哲夫/コアミックス 1983)
4階は医療フロアを想定し造られた。今は企業の事務所や店舗の倉庫が多くを占める。
4階は医療フロアを想定し造られた。今は企業の事務所や店舗の倉庫が多くを占める。

2階へ降り、『中野名曲堂』へ。定期的にライブも催す演歌専門店でありながら、店主の淹れるコーヒーも名物と、なかなか情報量が多い。
「この階は飲食店街として造られたから、水回りがちゃんとしてるんですよ。執筆の合間の息抜きは、ここです」
と、向かったのは『松栄寿司』。さっそく寿司とビールを頼んだところ、先客のマシンガントークに巻き込まれた。この方、ブロードウェイの名物美容師だ。
「こんなこともよくあります」
と、長谷川さんは涼しい顔。こうして見ると、ブロードウェイの中は多種多様な店が並ぶが、店同士のつながりも強く、言わば小さな“街”であるように感じられた。

情報量に溢れる演歌専門CDショップ『中野名曲堂』。
情報量に溢れる演歌専門CDショップ『中野名曲堂』。
『松栄寿司』。長谷川さん「ここで一杯飲みながら原稿のチェックをするんです」。
『松栄寿司』。長谷川さん「ここで一杯飲みながら原稿のチェックをするんです」。

最後に、1階メインストリートへ。長谷川さんにとってブロードウェイとは何か聞いてみると、「魔窟」という答えが。
「長く暮らしていても、まだ何かひそんでいそうな気がする。飽きることなくワクワクできる場所です」。
そう言い残し、案内人はインフォメーション横から静かな居住区へ帰っていった。壁一枚を隔てた喧騒と静寂。それを毎日感じられるカオスビルの住人を、少しうらやましく思うのだった。

渡り廊下から1階メイン通りを見下ろすと、吹き抜けで開放的。かつて“東洋一のビルディング”と称された所以が垣間見える。
渡り廊下から1階メイン通りを見下ろすと、吹き抜けで開放的。かつて“東洋一のビルディング”と称された所以が垣間見える。
地階は食品や生活用品などの店が並び、市場のごときにぎわい。その中に点在する占いの館もブロードウェイ名物だ。
地階は食品や生活用品などの店が並び、市場のごときにぎわい。その中に点在する占いの館もブロードウェイ名物だ。

“ここへ来ればなんでもある混沌の闇鍋” 中野ブロードウェイ店舗案内

3F『明屋書店中野ブロードウェイ店』

“普通の新刊書店”も、ただようサブカル臭

昭和14年(1939)に愛媛県松山市で創業。その後、1966年のブロードウェイ開業と同時に、東京進出1号店としてオープンした。雑誌、小説、漫画、専門書とあらゆるジャンルの書籍が網羅される中、入れ替わり激しいのがオカルトもの。「他のエリアでこの量は有り得ないです」と、店長の木村友泰さんも苦笑い。

●11:00〜20:30、無休。☎03-3387-8451

3F『ジャックロード/ベティーロード』

館内の時計店ブームの先駆的存在

長谷川さん「僕も自分へのごほうびをここで買ったことあるんですよ」。
長谷川さん「僕も自分へのごほうびをここで買ったことあるんですよ」。

1987年創業の館内最古参の時計専門店。海外にもファンが多く、時計フリークにとっての聖地。「コンセプトは“買える時計博物館”。見に来るだけでも大歓迎」と、広報の轡田 昇(くつわだ のぼる)さん。ショーケースに陳列されている高級時計のきらめきにうっとり。そして、値札に踊る数字にハッと息を呑む。

●11:00〜20:30、無休。☎03-3386-9399

3F『墓場の画廊』

ビッグネームとのコラボがアツすぎる

長谷川さん「作家へのブッキング力がすごい!思わず立ち寄る注目スポット!」
長谷川さん「作家へのブッキング力がすごい!思わず立ち寄る注目スポット!」

有名漫画やアニメなどとのコラボショップ。原画鑑賞やグッズ購入、記念撮影などが楽しめ、壁を見やれば作家のサインが。ファン垂涎のスポットだ。「見てくださいよ、これ」と、広報の出口さんが指差すのは、壁掛けの模造紙に書かれたお客の寄せ書き。ファンたちの味ある落書きにニヤリ。

●12:00〜20:00(土・日・祝は11:00から)、無休。☎03-5318-9221

2F『中野名曲堂』

歌手が熱唱する演歌専門CDショップ

長谷川さん「店内の棚や椅子、ステージは店主の朝倉さんのDIYなんですよ」。
長谷川さん「店内の棚や椅子、ステージは店主の朝倉さんのDIYなんですよ」。

1968年の創業時はクラシックのレコードを、その後はジャンル問わず幅広い音楽を取り扱うCDショップだったが、現在は演歌専門。歌手を招き、店内でライブも開催。「年間120人くらいの歌手さんが歌いにきます」と、店主の朝倉寿一さん。お手製のコーヒー200円で一服でき、そのギャップに萌える。

●11:30〜19:00、月休。☎03-3386-6665

2F『松栄寿司』

新鮮ネタに頬緩む創業56年の名店

店主の関本義於(よしお)さんがこの場所で店を始めたのはブロードウェイの開業と同時。「大きめのネタがウチの自慢」とは、妻・文子さん。ここ数年は板場に立ち、寿司を握っている。人気は、その日に仕入れたネタ7種の松栄握り2000円。握りもさることながら、〆の数の子巻が非常に旨し。

●12:00〜19:00ごろ(要問い合わせ)、水休。☎03-3386-3671

『中野ブロードウェイ』詳細

中野ブロードウェイ
住所:東京都中野区中野5-52-15/営業時間:店舗により異なる/アクセス:JR中央線・地下鉄東西線中野駅から徒歩3分

取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2022年11月号より