『散歩の達人 日帰り低山さんぽ』より、旅先で気軽に楽しめる散歩コースを紹介。歩行時間や歩行距離も明記しておりますので、週末のお出かけにご活用ください。 小川町の山では官ノ倉(かんのくら)山が有名で、金勝山はどちらかといえば、官ノ倉山に行ったついでに、なんていう人が多いのでは。ガイドブックでもほとんど主が官ノ倉山。 でも、それはなぜなのか? <埼玉県・小川町>
◆散歩コース◆
体力度:★☆☆
難易度:★☆☆
- 登山シーズン 1月〜12月
- 最高地点 290m(官ノ倉峠)
- 登山開始地点 115m(東武竹沢駅)
- 歩行時間 3時間
- 歩行距離 約7km

武蔵国の里山を歩いて、今も息づく風土を体感する
官ノ倉は344m、金勝山は263m。標高はたしかに80m負けている。官ノ倉は山頂手前が急坂で岩場というのも本格的で良いのかもしれない。が、人気はというと金勝山の勝ち。データは地元の人、それもたった2人。実に信頼性のないデータだが、お2人ともこう口をそろえる。
「官ノ倉もいい山ですよ、でもね、金勝山のほうがいいですよ。こちらのほうが楽しめる。実際、登られる方も多いですよ、官ノ倉よりも」
実証は難しい。お2人を信じるしかないが、東武竹沢駅から金勝山に向かうことにした。官ノ倉は、ついで行くかもしれない。
平日の10時前に東武竹沢駅で下車。早朝なら乗降客などはいるのだろうが、今日は皆無。駅前の広場でも同じ。駅の反対側に出て車道を歩いて登山口へ向かった。
と、右手に大きな看板。これは道標とはいえないまさしく看板、大きな文字で「東登山道」とある。民家の脇の道から山路は始まった。
すぐ分岐になり、左手の尾根ルートを選ぶ。最後の民家の脇を上がると土道の尾根道になる。木立の中のゆるやかな道を上がって行く。周りは杉林だが、陽が射しこんでくるので暗くはない。勾配がやや増してくると、名もないピークへ。ベンチだけがあった。ひと休みして、いったん下ってまた上がると白い避難小屋が見えてきた。第一避難小屋と書いてある。中はかなり広い。いわゆる山の避難小屋ではないようだ。
最後のちょっと急な岩場を上がると金勝山の山頂だ。大霧山方面と小川町方面の眺めがいい。麓の勝呂の集落などもよく見える。

これはちょっといい。地元のおすすめは信用できるかもしれない。
すぐ裏金勝山に上がり、「小川げんきプラザ」へ。そこからは日光方面の山々が見えるというが、霞んでいていまひとつ。眼下のホンダの白い工場が目立っている。

茅葺き屋根の吉田家で思わず長居
「げんきプラザ」から南登山道を下り、勝呂にある吉田家住宅へ。今も薪を燃やして茅葺き屋根を燻し続けている生きた古民家だ。八高線の線路を渡って兜川沿いに歩く。なんでも国の重要文化財とのことなので寄っていくことに。


吉田家は茅葺き屋根の大きな家だった。背の高い木戸を開けて入ると、そこは別世界。家の中を煙で燻しているので、中は薄暗い。目が慣れてくると、囲炉裏が2つ。
主に勧められて腰をおろしたら、根が生えたように長居してしまった。予定では1時間以内に出て官ノ倉山へ行こうと思っていたが、2時間を越えてしまった。

1721年(享保6)に建てられた民家で、実年代が判明している家としては埼玉県最古のもの。1988年に国の重要文化財に指定された。寄棟造りの大きな茅葺き屋根の家。広さは200㎡くらい。よくある重要文化財はただ家があるだけ、というのが多いが、ここは薪を燃やして屋根を燻しているという。生きた文化財といえる。
●10:00〜16:30、月・火休(不定あり、訪問前に御確認ください)。JR竹沢駅から徒歩15分 ☏0493-73-0040


お茶を飲んだり主と話したり。とにかく居ごこちがいい。ここにいるだけでいい。これでは帰れなくなると思い、おいとまして官ノ倉方面へ向かったが、案の定、官ノ倉峠に着いたときには日が陰ってきたので、今回はまっすぐ安戸のバス停に下りた。
山歩きメモ
官ノ倉山から小川町駅まで歩くルートもあり。官ノ倉山から石尊山へ進み、クサリ場の急坂を下りて北向不動へ出る。駅までは5㎞近くあるので、土道のあとは舗装路歩きとはいえ所要1時間以上。
アドバイス
さほど危険箇所はないが、官ノ倉峠から官ノ倉山への登りが急坂で、岩場。とくに下る際に注意したい。しっかりとした登山靴を履いていこう。金勝山は危険箇所はあまりない。途中、お店などはない。駅周辺にもない。
太田ホルモン
小川町駅前通りに山アフター向けの名店あり

夕方になると、閑散とした寂しい小川町の通りに灯りが灯る。それは太田ホルモンの赤提灯の灯りである。最近はのれんが新しくなったが、以前は、ややぼろいものだった。しかし味とボリュームは抜群。煮込みや焼き鳥などなど。おすすめ。
●16:00〜22:30、日・第3月休。JR・私鉄小川町駅から徒歩5分 ☏0493-72-1025


取材・文=清野編集工房
『散歩の達人 日帰り山さんぽ 低山をきわめる!』より
清野 明
編集者
散歩の達人ムック『日帰り山さんぽ』シリーズ編集長。1994年、幻の雑誌「探険倶楽部」編を立ち上げる(4号で休刊)。『散歩の達人』では創刊の頃から「東京探険倶楽部」を10年近く連載。昨年から「ニッポン面影散歩」を連載中