池袋は良くも悪くもわかりづらい。東口、西口側で流れる空気が異なるが、初めて訪れた人を困惑させるのが、東口に『西武池袋本店』があり、西口に『東武百貨店池袋店』があること。慣れてしまえばなんてことないのだが、『ビックカメラの歌』にもある通り「不思議な不思議な池袋」だ。そのカオスっぷりこそ街の真骨頂といえるのだが、近年は“安心して住める街”にも変わろうとしているのだとか。

東口の象徴は『西武池袋本店』と『サンシャイン60』

東池袋を見守るように建つ『サンシャイン60』。
東池袋を見守るように建つ『サンシャイン60』。

前述の通り、東口に直結しているのは『西武池袋本店』。ビックカメラ、ヤマダ電機のビルも向かい合うようにして立ち、東京有数の繁華街としてのにぎわいを創出している。

五差路交差点を渡った先に、『サンシャイン60』に続くサンシャイン60通りがあり、多数の飲食店やアミューズメント施設などが並んでいる。通りには、お笑いライブやメイドカフェの呼び込み、さらにはカワウソを肩に乗っけたカワウソカフェの店員までいて、毎日がお祭りのようだ。

東池袋に高くそびえる『サンシャイン60』ビルは、1978年開業。長く東京の観光スポットとして現役でがんばっている。低層階の商業施設『サンシャインシティ』には、巨大な専門店街「アルパ」、サンシャイン水族館、ナンジャタウン、プラネタリウム満天、古代オリエント博物館、サンシャイン劇場……とお客さんを引きつける楽しみは尽きないが、秩序無用の混沌も感じてしまう。

地上60階の展望台は、2023年4月に「サンシャイン60展望台 てんぼうパーク」としてリニューアル。緑と空に囲まれた、開放感あふれる公園のような展望台に生まれ変わった。

『サンシャイン水族館』で見られる空飛ぶペンギン。
『サンシャイン水族館』で見られる空飛ぶペンギン。

池袋駅東口の待ち合わせ場所の定番といえば、「いけふくろう」。豊島区の形がフクロウの姿形に似ていること、雑司ヶ谷は鬼子母神の民芸品である「すすきみみずく」にちなんだことなどが由来といわれ、1987年の設置以来、駅利用者に広く親しまれている。街中では本家以外にも、さまざまなフクロウを見つけることができる。

街中で最近見かけるかわいい存在といえば、「IKE BUS(イケバス)」。JR九州「ななつ星 in 九州」などを手がけた水戸岡鋭治氏によるデザインで、コンパクトで真っ赤な外観は目を引く。

池袋駅東口のいけふくろう。
池袋駅東口のいけふくろう。
サイズもコンパクトでかわいらしい見た目のIKE BUS。
サイズもコンパクトでかわいらしい見た目のIKE BUS。

大歓楽街はどこまで「住みたい街」になったか?

ひと昔前の池袋は新宿歌舞伎町に勝るとも劣らない歓楽街。東口は『ミカド劇場』、西口は『ロサ会館』や「キャバレーハリウッド」あたりを中心に風俗店が軒を連ねていた。だが豊島区は2014年、「消滅可能性都市」に指定されたのをきっかけに、“暮らしやすい街”を目指しはじめる。その甲斐あってか、近年は以前ほどの毒気を感じなくなってきた(という流れに賛否両論あるのも事実だが)。

さて、本来的な意味で心安らぐスポットをいくつかあげてみる。『ジュンク堂』脇から延びる東通りを進んで途中で折れると法明寺があり、春先の参道は桜が綺麗に咲き誇る。

法明寺。
法明寺。

東通りを抜けると雑司が谷霊園が広がり、夏目漱石や小泉八雲など著名人の墓を見ることができる。雑司が谷鬼子母神堂は寛文4年(1664)の建立で、豊島区内最古の建築物だ。参道にひっそりと佇むしゃれた店『キアズマ珈琲』も合わせて立ち寄りたい。

『キアズマ珈琲』。
『キアズマ珈琲』。

雑司が谷、東池袋、そして大塚方面へと穏やかに走る都電荒川線も、このあたりの空気感とマッチしている。

最近の池袋が暮らしやすい街、というイメージのシンボルとして、南池袋公園とイケ・サンパークに着目したい。2016年に全面リニューアルした南池袋公園はおしゃれなカフェレストランが特徴的で、広々とした芝生で憩う家族連れやカップルの姿は平和そのもの。

南池袋公園の芝生でのんびり。
南池袋公園の芝生でのんびり。

2020年にできた「としまみどりの防災公園」(愛称イケ・サンパーク)にはファーマーズマーケットやカフェ、「KOTO-PORT」という小型店舗が並び、そこで目の当たりにできる温かい情景は、池袋の変化と結び付けられる。

池袋東口のカフェ・グルメはバラエティ豊か

繁華街の喧騒に紛れるように、木の温もりが心地いい『皇琲亭』、大正9年(1920)創業の老舗喫茶店『タカセ池袋本店 コーヒーラウンジ』、大正2年(1913)創業の『服部珈琲舎』などが、休み処として訪れる者を迎え入れてくれる。カフェでいえば、「ぽんでパン」が看板商品の『ぽんでCOFFEE』、ギャラリーカフェの『cafe pause』もおすすめだ。

『cafe pause』。
『cafe pause』。

グルメなら、ラーメンの神様と呼ばれた山岸一雄氏の弟子だった飯野敏彦氏が東池袋駅近くに開店させた『東池袋大勝軒 本店』や、「世界一辛いカレー」で知られる『サフラン』、ボリューム満点の多彩な料理が味わえる『キッチンABC』(池袋には東口、西口に1店舗ずつ)へ足を運んでみてほしい。雑司が谷あたりまで足を伸ばせば、『ウチョウテン』の一度食べたらやみつきになるハンバーグランチも待っている。

『キッチンABC』のオリエンタルライス&黒カレー(手前)。
『キッチンABC』のオリエンタルライス&黒カレー(手前)。

1969年から『西武池袋本店』の屋上で営業している『かるかや』の、つけ汁に寄り添う豪快な太麺は、遠方の常連も引きつけるほど。昭和の雰囲気の洋食レストラン『タカセ池袋本店』3階のグリルはしばらく休業していたが、2023年3月7日から営業を再開した。

『かるかや』のボリューム満点、つけうどん。
『かるかや』のボリューム満点、つけうどん。

居酒屋なら、国内外の自慢のクラフトビールを堪能できる『vivo!』や、やきとんが看板メニューの『みつぼ池袋店』。後者はピートロ(ネック)など、あまり聞かないような部位も提供している。

ピリ辛な牛すじ煮込みがおいしい『居酒屋 暁』、東通りの大きなフクロウが描かれた暖簾(のれん)が目印の『〆蕎麦 フクロウ』では、全国の酒蔵から厳選した日本酒や焼酎、最後には毎日手打ちする蕎麦を堪能できる。

本と映画の街でもあります

東池袋一丁目エリアの景観が2020年代に入ってからガラッと変わった。豊島区旧庁舎、及び豊島公会堂の跡地で行われた再開発により、個性の異なる8つの劇場を備える新しい複合商業施設『Hareza池袋』が2020年7月に開業。『WACCA IKEBUKURO』と向かい合うようにして建ち、間に位置する中池袋公園も綺麗に、人が集える場となった。

『Hareza池袋』(奥)。手前が中池袋公園。
『Hareza池袋』(奥)。手前が中池袋公園。

さらには、隣接する『アニメイト池袋本店』が2023年3月にリニューアルオープン。売り場スペースが一気に広くなった。女性向けのアニメ関連ショップが立ち並ぶ「乙女ロード」なども含め、池袋がオタクカルチャーの発信拠点として引き続き存在感を放ちそうだ。

文化面で言えば、映画館と書店の多い街でもある。「シネマサンシャイン池袋」の後継館となる『グランドシネマサンシャイン池袋』、サンシャイン60通りに面した『池袋HUMAXシネマズ』、そして何といっても、池袋における映画文化の原点につながる名画座『新文芸坐』が、東口エリアに密集している。

書店も、日本最大級の売り場面積を誇る『ジュンク堂書店池袋本店』、『西武池袋店』内にある『三省堂書店池袋本店』(撤退した「リブロ池袋本店」の売り場を引き継ぐ形でオープン)をはじめ、くまざわ書店、天狼院書店、新栄堂書店、『古書 往来座』など、新刊書店や古書店が点在しており、「本の街」としての側面も強い。

ジュンク堂書店池袋本店。
ジュンク堂書店池袋本店。
『古書 往来座』。
『古書 往来座』。

劇場、公園、大学が支える池袋西口カルチャー

池袋駅西口のシンボリックな存在といえば、『東武百貨店池袋店』。土日を中心ににぎわい、特に8階の催事場は「大北海道展」などですごい人出となる。

西口からほど近いところにある池袋西口公園は、2019年に装いを新たにした。公園全体を覆うように「GLOBAL RING」が設置され、大型ビジョンを備えた野外劇場「グローバルリング シアター」も誕生した。『池袋ウエストゲートパーク』で描かれた光景とは変わってきている。

巨大なガラスアトリウムの外観が印象的な『東京芸術劇場』は、池袋西口駅前に落ち着きをもたらす存在。1990年開館、2012年にリニューアルオープンし、音楽・演劇等の公演を上演している。

建築物として合わせて見ておきたいのが『自由学園明日館』。学校としては大正10年(1921)に設立され、校舎は国の重要文化財に指定されている。世界的建築家、フランク・ロイド・ライトが手がけ、見に訪れる価値は大いにある。

『自由学園明日館』の、前庭に臨むシンボリックな窓。
『自由学園明日館』の、前庭に臨むシンボリックな窓。

西池袋3丁目にキャンパスが広がるのは立教大学。レトロ感のあるレンガ造りの建物と現代的な建物が見事に調和している。クリスマスシーズンには大きなクリスマスツリーがキャンパス外からも見え、夜にはライトアップされている。

生涯に何度も引っ越しを繰り返した江戸川乱歩は、立教大学に隣接する場所に住み、そこで生涯を終えた。邸宅と書庫は2002年に立教大学へ譲渡され、見学することが可能だ。

学生街である立教大学周辺は、個性豊かな飲食店が点在している。喫茶なら、1978年創業、立教大学(別名セントポール)の隣りにある『セントポールの隣り』や、ドライフラワーで埋め尽くされた店内がおしゃれな『HANABAR』が異なる魅力を放つ。パリの専門学校で学んだ室内装飾の技術を生かし、店主自ら内装を手がけている『ZOZOI』も他の類のない至上のカフェ空間だ。

『ZOZOI』。店内の本は閲覧自由。
『ZOZOI』。店内の本は閲覧自由。

グルメも、野菜と肉のタレ焼き定食が一番人気、ガッツリ系の定食屋『ランチハウス ミトヤ』、カレーマニアをも唸らせる未知の味『火星カレー』、本場の味を堪能できるマレーシア料理店『マレーチャン』などがおすすめ。

西池袋で30年以上愛されている『マレーチャン』。
西池袋で30年以上愛されている『マレーチャン』。

池袋西口(北)の歓楽街とガチ中華

かつての池袋について「新宿歌舞伎町に勝るとも劣らない」と書いたが、最もヤバめだったのは北口周辺だ。現在、その北口は廃止され、「西口(北)」という不思議な表記となっている。ちなみに、『ルミネ池袋』のある方は「西口(南)」と表記されている。

西口(北)界隈を歩いてみよう。

西口(北)すぐのところには、東口側に通じる地下通路があり、「ウイロード」という愛称が付けられている。女性や子供が通りづらい雰囲気がかつてはあったが、色鮮やかに壁面が描画され、ずいぶんと印象が変わった。

西口交番あたりから横断歩道を渡り、お店の居並ぶ一角(池袋西一番街)に足を踏み入れると、『池袋演芸場』が姿を見せる。マイクを通さない生声で演じられる、出演者との距離感が魅力だ。すぐ隣の入り口から2階に上がると『カフェ・ド・巴里』があり、エスカレーターで店内に入っていくワクワク感がたまらない。店内はベルベット調の椅子やシャンデリアなど、昭和レトロの佇まい。カフェでいえば、ほど近い位置にある『珈琲専門館 伯爵 池袋北口店』もゴージャスな雰囲気でおすすめ。

入り口が隣り合う『池袋演芸場』と『カフェ・ド・巴里』。
入り口が隣り合う『池袋演芸場』と『カフェ・ド・巴里』。

ロマンス通り沿い、味のある外観で存在感を放つ『ロサ会館』は、映画館、ゲームセンター、スポーツ施設などを有する。飲食店もあり、『ロサ会館』の開館と同時にオープンした洋食屋『キッチン チェック』のオムライスはぜひ味わいたいところ。

『ロサ会館』周辺は惹かれるグルメ、居酒屋の宝庫だ。やきとんの名店『千登利』、昭和な大衆酒場『豊田屋』2号店・3号店、うなぎ以外のメニューも豊富な『うな鐵池袋本店』、リーズナブルにたっぷり洋食を食べられる『洋庖丁 池袋店』、懐かしさを覚える味わいの『カレーの家』など、つい誘われてしまう。

池袋で古くから本場仕様のタイ料理で胃袋をつかんできた『プリック』も外せない。

西口(北)のすぐ目の前にある『大都会』は、はしご酒に欠かせないせんべろ居酒屋。せんべろでいえば、西口公園の方にある『ふくろ』の店の佇まい、にぎわいも誘われるものがある。

また、池袋西口(北)エリアは、「ガチ中華」を味わえるフードコートがここ数年で増えており、注目を集めている。中国物産店『友誼商店』に併設される形で2019年11月にオープンした『友誼食府』、同ビルの2階には『食府書苑』(2021年6月)、同ビルから徒歩数分圏内には『沸騰小吃城』(2021年9月)などなど、故郷の味に舌鼓を打つ中国人はもちろん、コロナ禍以降は海外旅行ロスの日本人も足を運ぶようになった。

マンガ好きなら一度は訪れたい聖地「トキワ荘」

西口サイドのカルチャーにも触れたい。映画館では、『ロサ会館』内、昭和の香り漂う『シネマ・ロサ』。それから、『ルミネ池袋』の8階には『シネ・リーブル』があり、規模的には東口サイドには劣るものの、居心地のいい空間だと思う。

書店で大きいのは東武7階の『旭屋書店池袋店』。他には、立教大生御用達の『文庫ボックス 大地屋書店』はふらりと立ち寄ってみたくなる街の書店だ。Esola池袋内には『天狼院書店』も新しくできた。ブックカフェだが、同ビルの『本と珈琲 梟書茶房』も新たなにぎわいの拠点となっている。

長崎エリアになるが、多くのマンガ家が住み着いた伝説のアパート「トキワ荘」を再現した『トキワ荘マンガミュージアム』が2020年7月に誕生した。往年のマンガファン垂涎の企画展が実施され、建物2階のベランダの再現度の高さも必見だ。ミュージアムの関連グッズを販売している『トキワ荘通り お休み処』や、町中華『松葉』も合わせて立ち寄りたい。

アニメカルチャーの色が強い東口に比べ、『東京芸術劇場』なども含め、西口で目の当たりにできるカルチャーはレトロでアナログ指向、東口とはまた彩りが異なる。

当時立っていた場所とは少し離れた、南長崎花咲公園内にある『トキワ荘マンガミュージアム』。
当時立っていた場所とは少し離れた、南長崎花咲公園内にある『トキワ荘マンガミュージアム』。

池袋にいるのはこんな人

池袋では多種多様な人を見かける。コスプレしている人や、ゴシックロリータファッションに身を包んだ人。百貨店や劇場ではシックな装いの人もいて、学生街だから学生の姿も多い。歓楽街に一歩足を踏み入れると、妖しさも窺わせる。そうかと思えば、新しくできた公園に顔を出してみると、家族連れがのんびり過ごしている。

共通しているのは、何かを楽しみに、そして何かを期待して池袋を訪れていることだろうか。そして、池袋のごちゃごちゃした感じは、どんな人をも受け入れる。だから、違和感がない。いつまでもおしゃれになれない、洗練されない街にいろんな引き出しがあることを知っていて、そこに居心地のよさを見出している人たちがいる。

東西デッキ、ハリポタ……いつも変化中の池袋

東西で違った顔を見せる街ができあがっていった側面には、東西の行き交いにくさもあった。豊島区は「池袋東口と西口をつなぐウォーカブルなまちづくり」と銘打って、東西デッキ構想案を表明した。デッキ構想が実現すれば、東西の利便性が高まり、池袋の人の流れも大きく変わりそうだ。

「としまえん」跡地に誕生する、ハリー・ポッターの世界を体験できる施設『スタジオツアー東京』が、2023年6月16日に開業することを見据え、西武鉄道の池袋駅もその世界観へ誘うようなイメージにリニューアルされた。開業以降は西武池袋線の始発駅・池袋の人の流れも変化していきそうだ。

とまあ、いい意味でも悪い意味でもカオス。いつの時代も変化中で、いろんなことを言いすぎて何を言いたいのかよくわからないけど、そこが魅力の池袋。これからどんな風に進化、いや深化していくのか、目が離せない。

取材・文=阿部修作(さんたつ編集部) イラスト=さとうみゆき
文責=さんたつ/散歩の達人編集部

散歩の達人/さんたつ編集部
男女8人
大人のための首都圏散策マガジン「散歩の達人」とWeb「さんたつ」の編集部。雑誌は1996年大塚生まれ。Webは2019年駿河台生まれ。年齢分布は26〜55歳と幅広い。