2023年5月18日。沖縄と奄美で梅雨入りの発表があり、本州でも少しずつ雨の季節が近づいてきました。梅雨入りは、大雨に備えて雨の降り方に注意してくださいという合図でもあります。 例年、梅雨の末期から真夏、秋にかけて、大雨や台風が原因で、川の氾濫、土砂崩れが発生するといった気象災害が増加します。 実はあなたの身近な場所にも災害を引き起こす危険が潜んでいるかもしれません。梅雨入りを前に「防災散歩」に出かけて、備えを見直すのはいかがでしょうか?

家族でやってみよう!「防災散歩」ってなに?

「防災散歩」とは、大雨や台風、地震などに備えて、いざという時にどこに避難すればいいのか、また避難場所まで安全に向かうことができるかどうか、自宅や職場などの周りを確認しながら行う散歩のことです。

災害はいつ、どんな時に起きるか分かりません。小さな子どもだけでも避難できるか、お年寄りなど避難に時間がかかる人が一緒でも移動できるかどうかも要チェックポイントになります。家族で避難場所まで散歩してみることで、改めて防災について学べるため、防災散歩は自由研究などにもおすすめです。

「ハザードマップ」と「非常持ち出し用袋」を準備しよう

防災散歩を始める前に、まずは「ハザードマップ」を準備しましょう。

ハザードマップとは土砂災害や河川の氾濫などが発生した時に、どこでどの程度のリスクがあるのか分かりやすくまとめた地図のことで、避難場所や避難経路などを確認することもできます。自治体から配布されている場合もありますが、インターネットでも手軽に見ることができます。国土交通省の「重ねるハザードマップ」では、自宅や職場、学校などの住所を入力するだけで、土砂災害や洪水、高潮など災害の種類ごとにリスクを調べられます。まだ一度もハザードマップを見たことがないという人は、ぜひ確認してみてください。

もう一つ準備したいのは、「非常持ち出用袋」などの避難グッズです。

非常持ち出用袋を自宅の寝室や玄関などに用意しているという人は多いかもしれませんが、実際に持ち運んだ経験があるという人はあまりいないのではないでしょうか?あれもこれもと詰め込みたくなりますが、避難場所まで無理なく持ち運べる重さでないと備えの意味がありません。(私もベッドの近くに準備していますが、実際に持ち上げてみると結構な重さになっていました。)どのくらいの重さなら背負って移動できるか確かめると、備えるべきものの優先順位が付きます。荷物の重さの目安は、自分の体重の20〜30パーセントまでです。例えば、体重50㎏の人なら10〜15㎏以下、70㎏の場合は14〜21㎏以下です。いざというときに走ることができる重さに抑えるようにしておきましょう。

非常持ち出し用袋には、移動する時に両手が空くリュックがおすすめ。
非常持ち出し用袋には、移動する時に両手が空くリュックがおすすめ。

散歩の途中、おなかが空いたら何か食べられるように、備蓄品にもなる缶詰めに入ったパンや賞味期限の長いクッキーなどを持ち歩くのもおすすめです。ピクニック気分を味わえ、子どもたちも楽しみながら散歩できますよ。

最近は様々な種類の防災食が登場している。味見をして楽しみながら備蓄を。
最近は様々な種類の防災食が登場している。味見をして楽しみながら備蓄を。

注目ポイントは?

準備ができたら自宅や職場などを出発地点として、目的地の避難場所や避難所まで、歩いてみましょう。

まず、側溝など大雨のときに水があふれるおそれがある場所アンダーパスのように水が集まりやすく低い土地は非常時にリスクの高まる場所です。マンホールのある場所もよく確認しておきましょう。

大雨で道路が冠水すると、マンホールのふたが空いていることに気付かず、転落してしまうかもしれません。

大雨時、側溝や用水路の様子は気になっても見に行くのは危険。
大雨時、側溝や用水路の様子は気になっても見に行くのは危険。
冠水したアンダーパスで車に乗ったまま身動きが取れなくなるおそれも。
冠水したアンダーパスで車に乗ったまま身動きが取れなくなるおそれも。

近くに川や崖のある場合は遠回りできるルートを考えておく必要があります。

特に中小河川は、大きな河川に比べて大雨になると、短い時間で急激に水位が上昇します。水の流れは想像以上に速く、家屋が流されることもあるほどです。また、大雨や地震によって崖や斜面が突然崩れると、私たちが走って逃げることは到底できません。危険な場所は写真やメモに残しておくと後で振り返ることができ、役に立ちます。

また、ブロック塀や電柱、自動販売機、大きな看板、ガラス、瓦など地震のときに倒れて来ると危険なものも周りにないか確認しておきましょう。往復で別のルートを歩いてみると、違ったリスクが見つかる可能性もあれば、安全に避難できる道を知ることもできるかもしれません。

老朽化したブロック塀や建物などがないか要確認を。
老朽化したブロック塀や建物などがないか要確認を。

災害の記憶を伝える「自然災害伝承碑」

「防災」という視点で散歩をしてみると、普段は目に入らない街の風景が見つかることもあります。

災害の記憶を伝える「自然災害伝承碑」というものをご存じでしょうか。東京都内には1923年の関東大震災に関するもののほか、高潮に関連した碑が多く残されています。

江東区の木場地区には江戸時代に建てられた「波除碑(なみよけひ)」が2つ存在し、当時の被害状況を後世に伝えています。現在、江東区では伊勢湾台風級の高潮にも耐えられるように、堤防と水門が整備されていますが、想定を上回る規模の高潮が発生した場合は浸水することが考えられます。

「津波警告の碑」とあるが、当時は高潮と津波は同様に解釈されていた。
「津波警告の碑」とあるが、当時は高潮と津波は同様に解釈されていた。
1791年、深川・洲崎一帯を襲った高潮により多数の死者・行方不明者が出たことを伝えている。
1791年、深川・洲崎一帯を襲った高潮により多数の死者・行方不明者が出たことを伝えている。

災害はいつ発生するか分かりません。夜間や別の時間帯でも安全に避難できるかどうか、時間を変えて確認してみるのもよさそうです。

本格的な雨の季節前に、家族で話し合いながら改めて身の回りのリスクを確認してみてください。

 

参考:
・岡崎市消防本部 予防課 防災さんぽをやってみよう!
https://www.city.okazaki.lg.jp/1100/1113/1176/p024213_d/fil/kouhou4.pdf
・内閣府ホームページ 特集 災害の記憶を伝える「自然災害伝承碑」
https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/r04/105/special_02.html
・江東区高潮ハザードマップ
https://www.city.koto.lg.jp/470601/documents/03hm_surge_japanese.pdf

 

写真・文=片山美紀

片山美紀
気象予報士
大阪府出身。大学卒業後、放送局での勤務を経て気象予報士、気象キャスターに。街歩きをしながらお天気ネタを探すのが趣味。空を眺めようと上を向きがちです。NHK総合「首都圏ネットワーク」などに出演中。