電気街、オタクの聖地、そしてアイドルの街。さまざまな顔を持つ秋葉原には多種多様な人々が集まるだけに、この街に流れる音楽も実に個性的だ。今回はあらゆる文化の集合地点アキバで、ライブカルチャーの中心として長きに渡り愛されてきた『CLUB GOODMAN』を紹介しよう。   ※TOP画像提供:『CLUB GOODMAN』

コロナ禍で一度閉店するも、すぐに復活!

オープンの翌年から『CLUB GOODMAN』で働き続けている池尾さん。
オープンの翌年から『CLUB GOODMAN』で働き続けている池尾さん。

秋葉原の『CLUB GOODMAN』がコロナ禍で閉店というニュースが届いたのが2020年夏のこと。東京中の音楽ファンに衝撃が走った。その後、無事に復活となり安堵したアーティストや音楽好きは少なくなかったはずだ。ストアマネージャー・サウンドエンジニアの池尾さんは当時をこのように振り返る。

「2020年の春にはコロナ禍のなかで既に店は開けていなかったんですよ。それで当時の親会社、池部楽器店の意向もあり、一度閉店ということになりました。会社という母体があるライブハウスが閉店するとは思われてなかったみたいで、驚いた方も多かったかもしれません。そんななか、今入っているビルのオーナーの方が手を挙げてくださって、ライブハウスを引き継いでくれるという形になったんです。創業者の株式会社池部楽器店の初代社長、池部春彦さんの志を継いで俺がやりますという男気のある方で、閉店した2カ月後の2020年10月にはリニューアルオープンという形になりました」

ほかにもクラウドファンディングやライブの配信を積極的に行うなど、ここ数年は試行錯誤を繰り返してきた。オーナー、スタッフ、出演者、そして応援するファン。さまざまな人の頑張りがあり、秋葉原のライブ文化はコロナ禍をサバイブしたのだ。

店内にはクラウドファンディングの協力者のネームプレートが貼られている。
店内にはクラウドファンディングの協力者のネームプレートが貼られている。

楽器屋、リハスタ、そしてライブハウスが揃う貴重な空間

有名アーティストも度々このステージに上がり、熱狂を生み出してきた。
有名アーティストも度々このステージに上がり、熱狂を生み出してきた。

『CLUB GOODMAN』はかなり特殊なスタイルのライブハウスだ。大きなリハーサルスタジオが併設されており、イケベ楽器の地下にあるため機材だけでなく、なんなら楽器もすぐに購入できてしまう。実は筆者も15年以上前に『CLUB GOODMAN』に出させてもらったことがあり、リハスタもよく活用させてもらった。一番お金がない時代だったが上階のイケベ楽器では1年ローンでギターも購入し、そのギターは今も使い続けている。同じようなエピソードを持つミュージシャンもたくさんいるだろう。音楽関連の施設が一箇所に集まるこのスタイル、ありそうでほかでは見たことがない。1996年の『CLUB GOODMAN』オープン前からリハスタはあったというから、かなり昔から秋葉原の音楽の中心だったことがわかる。

「音楽に関連する施設を一つの場所でやりたい。買った人が練習をして発表をする、それを一つの場所にしたいという想いが、最初の理念として初代社長にはあったようです。今も『ライブ当日にリハスタが空いてたらライブ前に入らせて』なんて声も普通に聞きますね」と池尾さん。

ライブハウスの下階にあるリハーサルスタジオ『STUDIO GOODMAN AKIBA』。地元の人に使ってもらえるようにと、学生割引などもある。
ライブハウスの下階にあるリハーサルスタジオ『STUDIO GOODMAN AKIBA』。地元の人に使ってもらえるようにと、学生割引などもある。

「地下2階のリハーサルスタジオはコロナ禍で一度閉めてしまいました。けれどまた開きたいということで、オーナーに相談して再開することに。今は『CLUB GOODMAN』のスタッフが営業しています。コロナ禍で閉めていた時期が長かったので、スタジオを復旧させるのが大変でしたね。自分たちでペンキを塗ったりしました。今もPAやブッキングの人が受付したりしているんです。大昔の「新宿JAM」のように小さなリハスタが付いたライブハウスはあるかも知れないですが、これだけたくさんの部屋があるのは珍しいですね」

ノンジャンルの音楽が鳴り響くハコとして

バリバリのロックはもちろんアイドルまで、さまざまなミュージシャンに愛される。※画像提供:『CLUB GOODMAN』
バリバリのロックはもちろんアイドルまで、さまざまなミュージシャンに愛される。※画像提供:『CLUB GOODMAN』

『CLUB GOODMAN』は一言で言うなら「いろいろな音」が響いているハコだ。ロックのなかでも、いわゆるオルタナティヴ・ロックといわれるジャンルにとくに強い。

「オルタナをやっていた時代が長かったので、それが今も続いていますね。また場所柄、アイドルのイベントもあります。ほかにもノイズのイベントもやったりしますね。『ノンジャンルであろう』というのはずっとありました。秋葉原という場所で自分たちが面白いと感じるものをやっていこうという想いがあったんですね。あとは母体が楽器屋だったということもあり、海外のアーティストによる楽器のクリニックなどのイベントもあります。とにかくいろいろやってみたいという、それは今も昔も大きくは変わってないんです」。

ステージ前の柵が特徴的。とある有名ミュージシャンのライブで、スタッフが身体を張ってステージを守ろうとしたが、人の力では限界と感じ柵を用意したという。
ステージ前の柵が特徴的。とある有名ミュージシャンのライブで、スタッフが身体を張ってステージを守ろうとしたが、人の力では限界と感じ柵を用意したという。

長い歴史の中では有名アーティストも多数出演している。それでも“出身者”と言えるようなミュージシャンはいないのでは、と謙遜する池尾さん。

「出身アーティストというとあまりいない(笑)。でも、出たことはあるけど……という人は多いですね。サンボマスターもそうだし、それこそ『散歩の達人』で連載をしているトリプルファイヤーも割とうちに出てくれているイメージです。こないだも久しぶりにワンマンライブをやってくれたんですよ。また、ブッキングスタッフの一人が聖飢魔IIの大ファンで、それがこうじて縁もあり、定期的にメンバーの方も出演されています」。

ライブハウスとして、まだまだやれることはある

「今のライブハウスのほうがずっと入りやすい」と池尾さん。
「今のライブハウスのほうがずっと入りやすい」と池尾さん。

最後に「昔に比べたらライブハウス自体が接しやすい存在になっていると思います」と池尾さんは、今のライブハウスについて考察してくれた。

「僕らが店に入った90年代、2000年代の初頭はライブハウスはちょっと行きにくい場所だったかもしれません。今はどこもキレイだし入りにくいということもない。好きなバンドや出演するバンドの情報をしっかり調べてから行けるのもいいですよね。ただ、その分、なぜこのブッキングを組んだのか、どうしてこういう組み合わせにしたのかをお店側が提案できないと。ただただ好きなバンドを見て帰られてしまうということになる。そういう意味でお店の見せ方、考え方で、まだまだやれることはあると思います。そこをしっかりということしかできないのかなとも思っていますね」

90年代とは情報の仕入れ方も音楽の消費の仕方も変わってきている。そのなかで、何を提供できるか。どんな面白いことが表現できるのか。それこそがライブハウスの腕の見せ所というわけだ。

中二階にあるPA卓。天井が低いため、あぐらでこの卓を触るのが『CLUB GOODMAN』スタイル。
中二階にあるPA卓。天井が低いため、あぐらでこの卓を触るのが『CLUB GOODMAN』スタイル。

「お声がけいただいてのイベントも多いし、カレー食べ放題とか酒蔵の人を呼んで利き酒をしたりとか。こんなことやってみたいんだけど……と相談しやすいライブハウスでもあるのかな。検討すると大体やってみようということになりますね(笑)。ゴザを敷いてイベントをやったこともあったし、昔は『漁港』という魚屋さんがやっているバンドのイベントで、子どもが魚に触れられるプールを設置したりもしていましたね」。

カレーイベントの際の様子。こんなイベントも成り立ってしまう包容力も、このハコの面白さだ。※画像提供:『CLUB GOODMAN』
カレーイベントの際の様子。こんなイベントも成り立ってしまう包容力も、このハコの面白さだ。※画像提供:『CLUB GOODMAN』

「音楽と一見関係なさそうなことも思いっきりやる、以前はそういうところが特徴だったかもしれません。秋葉原という街の感じもありますかね。千葉、埼玉、神奈川からも来やすい場所なので。大昔は千葉で頑張ってるバンドで、下北に行く前に出ようという人もいて。居心地がよくなってここから出れなくなっちゃったという人もたくさんいましたね。

そうそう、先日、スタッフ総出で、神田祭に参加したんですよ。最初は手伝いのつもりで行ったんですが、神輿まで担ぎ楽しかったですね。そんなふうに地域貢献もできたらいいなと思っています。地元ともうまくつながっていけるといいですね」

大都会のど真ん中にあるというのに、どこか和やか、ローカルな雰囲気が漂っていることこそ、このハコの魅力かもしれない。コロナ禍に屈せず多くの人に支えられながらこの店が残ったのも納得だ。

都内で一番スタッフの平均年齢が高いライブハウス?

JR秋葉原駅から徒歩5分という好立地で、多くの音楽ファンが行き来している。
JR秋葉原駅から徒歩5分という好立地で、多くの音楽ファンが行き来している。

「再開してから3年くらいが経って、今後の新しい動き方を考える時期になってきました。この店は長く働いているが人多いし、みんな年齢も高くなってきて。今後は若い子の好きなバンドなどにも力を入れていきたいですね。外のイベンターと組んだり僕らの知らないようなアーティストやアイドルを呼んだりして、新しいイメージを作っていくというのが大事になってくるかなと思います。うちはたぶん都内一スタッフの平均年齢が高いと思うんですよ。10年以上勤めている人が多い。スタッフもそうだけど、観に来てくださる方の年齢も以前よりは上がってきているように感じています。コロナ禍があってライブ文化のあり方は変わって来ています。ただ、その前からも今の若い人たちをどう呼び込むかなどは課題だったんですよね。コロナをどう生き残っていくのかが問題になり、一回置いておいたこの課題を、もう一回ちゃんと考えないといけないなという時期なのかな」。

 

平均年齢が高いのはむしろ誇るべきこと! 長く音楽を愛す人たちが店を守っているという証拠だ。今後の新しい動きにも期待しつつ、ぜひ90年代から続く古き良きライブハウス文化もしっかり引き継いでいってほしい。『CLUB GOODMAN』は激しい音楽に胸を熱くできるライブハウスであり、温かで優しい音楽好きたちが作り上げている空間なのだ。

CLUB GOODMAN(クラブ グッドマン)
住所:東京都千代田区神田佐久間河岸55 ASビル B1F/アクセス:JR秋葉原駅徒歩5分・地下鉄秋葉原駅徒歩2分

取材・文・撮影=半澤則吉

半澤則吉
ドラマライター
1983年福島県生まれ。ライター、朝ドラ批評家。町中華探検隊隊員。高校時代より音楽活動を続けており、40歳を迎えた今もライブハウス、野外フェスに足を向けることも多い。