人々でにぎわう庭を見て、「ここは何だろう?」と、吸い込まれそうになる不思議な場所『百才(ももとせ)』。2019年7月の誕生以来、どこかなつかしい魅力を漂わせ、地元の人をゆるりとひきつけている。この場をつくる人々に成り立ちと思いを伺った。

どっしりした平家建ての「母屋」には、八畳二間のパブリックスペース、土間を改装したアトリエ、勝手口を利用したコーヒースタンドなどがある。2階建ての「離れ」の1階は、飲食店・菓子製造許可付きのシェアスペース「木づつみのえん」だ。この2棟をつなぐ「縁ひらく庭」も合わせ、まるっと全体を『百才』と呼ぶ。

「大黒屋」主催の餅つきイベントで大にぎわい。
「大黒屋」主催の餅つきイベントで大にぎわい。
初めて杵を持つのは子供だけではない!?
初めて杵を持つのは子供だけではない!?
つきたてを庭や縁側でほおばる。
つきたてを庭や縁側でほおばる。

誕生して早3年以上。集う人がそれぞれに好きなことを続けるうちに、人の縁がつながって、誰にとっても心地よい場所に育っている。しかし、2019年前半頃までは、寂しげな空き家だった。

八畳二間の座敷にはシェア本棚も。金曜午後は、惜しまれつつ閉店した近所の駄菓子屋「きりん館」の思いを受け継ぐ『きんようびのきりん館』がオープン。
八畳二間の座敷にはシェア本棚も。金曜午後は、惜しまれつつ閉店した近所の駄菓子屋「きりん館」の思いを受け継ぐ『きんようびのきりん館』がオープン。
元祖「きりん館」の佐々木禮子さんが玄関で見守る中、学校帰りの子供たちがやってくる。
元祖「きりん館」の佐々木禮子さんが玄関で見守る中、学校帰りの子供たちがやってくる。

場所の力が人をひき寄せ合った

ここで生まれ育った家主の川島昭二さんは、空き家になった建物をどうしようかと、地元の工務店「大黒屋」の代表・袖野伸宏さんに相談した。建て替えて賃貸住宅にする案も見え隠れしたが、二人の間に「壊すのはもったいない。天王森不動尊の隣というこの土地を大切にしたい」と、地域の未来を耕す思いがふつふつと湧き、『百才』の歩みが始まった。ここから先は、場所の力が人をひき寄せ合ったとしか思えない展開だ。

まず、アトリエを探していたにしむらあきこさんが建物と出合う。そして、にしむらさんが地域に拠点を作ろうと考えていた『ハチコク社』の仲幸蔵さんと福田忍さんに声をかけた。

「『すっごく素敵な場所があるんだけれど一緒に借りない?』と誘われて、見に来てひと目ぼれ」と、福田さんは振り返る。

「母屋」を共同で借り、プロジェクトを立ち上げ、近所の人も巻き込んで修繕した。庭はクラウドファンディングで資金を集め、「おばあちゃんの庭以上、公園未満」を掲げて再生。「離れ」は、「大黒屋」が担当し、いつか店を持ちたいと夢見る人たちのチャレンジを応援している。

一月、冬の大イベント「餅つき」に庭を埋め尽くすほどの大勢の人が集う。大切に守られた風土に笑顔の花が満開だ。

「木づつみのえん」に出店する『焼菓子maman』。
「木づつみのえん」に出店する『焼菓子maman』。

百才をつくる人々1

『木づつみのえん』の店長で地元出身の松本千栄さん(左)。「生まれ育った東村山が好きになりました」。仲幸蔵さん(中央)と福田忍さんは、地元の情報誌も手がける『ハチコク社』を主宰。「場所の魅力を感じに来てください」。

百才をつくる人々2

想像力をくすぐる井戸端アトリエ

『Atelier 紙と青』。
『Atelier 紙と青』。

『百才』誕生の種をまいた、和紙造形作家のにしむらあきこさん。創作活動をするかたわら、ときどき企画展を開く。テーブルの下には大きな井戸があるが、これは家主・川島さんのひいおじいさんが染色をしていた名残。最近、和紙造形のサークル「紙ing!」もスタート。開廊日などはInstagram(@paper_and_blue)を参照。

百才をつくる人々3

今日は何の日?一期一会のお楽しみ

『コタ珈琲』。
『コタ珈琲』。
『きんようびのきりん館』。
『きんようびのきりん館』。
『焼菓子maman』。
『焼菓子maman』。

『きんようびのきりん館』を担当するのは、近所に暮らす田島史絵さん(左)と斎藤悠加さん。勝手口にあるコーヒースタンドで、この日は『コタ珈琲』の斉藤秀和さん・志穂さん夫妻がほのぼの営業。コーヒーやお菓子を買って、庭や縁側でのんびり過ごそう。「木づつみのえん」の出店スケジュールはInstagram(@kidutsumi_no_en)を参照。

『百才』店舗詳細

百才(ももとせ)
住所:東京都東村山市久米川町4-46-1
/営業時間:各店の営業時間はInstagram(@momotose100)を参照。
/アクセス:西武鉄道各線東村山駅から徒歩7分

取材・文=松井一恵 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2023年3月号より