江戸時代に創業し、実に180年余りの歴史を持つ人形メーカーは、ここ数年、改革の真っただ中にいる。伝統工芸の技術力をフル活用し、枠にとらわれないオモロイ商品が続々爆誕! 失敗恐れぬチャレンジ精神の秘密は、当代の社長の気づきと情熱にあった!
実は結構はっちゃけてる!
![](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140039/1707714038-bc9eec433467d121b93e3c8f3f4ef937.jpg)
久月の歴史は、天保6年(1835)に初代・横山久左衛門が人形師・久月の看板を掲げたのが始まりだ。3代目が界隈の大問屋・吉野家(後の吉徳)へ奉公に行ってのれん分けを受け、明治に4代目が久月の屋号を復活させた。戦後に人々の所得が上がり、趣味娯楽にお金を使うようになると、その恩恵も受けて躍進。格式高い節句人形が看板の老舗として知られるようになる、のだが。
![雛人形もさまざまな種類がある。日本人形も充実。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140022/1707714021-0ebd079c2bf3bc2516a3038b4714b92a.jpg)
![丸顔がキュートなおぼこ雛。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140316/1707714195-2c614d9f462c25d7cb4e298eadd77c94.jpg)
「実はね、私は格式高さとか、壊していきたくて」とは、当代の代表・横山久俊さん。2021年に就任し、8代目にあたる。
「節句って要はお祭りで、節句人形は縁起物なんです。お祭りって楽しいじゃないですか。で、縁起物にはモリモリ願い事を込めたいじゃないですか。人形を飾って終わりじゃなく、もっと自由に楽しんでもらいたいんです」
![エネルギッシュな8代目代表・横山久俊さん。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12135939/1707713978-1945a87d03ccbb683a02c7d9f38b9028.jpg)
言われて売場を見回せば、省スペースで飾れる段飾りや、ジオラマのごとく写真映え特化な破魔弓など、一風変わった商品が目に留まる。そこへ「コレ、見てください!」と、久俊さんが差し出したのは五月人形の刀……だが、刃の部分がボトルキャップだ。「柄は五月人形の刀と全く同じ。職人に頼んだら、ノリノリで作ってくれて」。最高の伝統工芸技術を惜しみなく使ったおふざけアイテム!
![省スペースで飾れる収納段飾り。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12135958/1707713997-77c74acf8f237551e93d32955473c16e.jpg)
![破魔弓とケース飾り。収納にも便利だし、写真にも撮りやすい。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140010/1707714009-588663e1becb127bb50ce08b821aa646.jpg)
![左が刀ボトルキャップ。右は兜ボトルアーマー。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12135948/1707713988-c8e5eabe2103ebd7063ee9e25410a43b.jpg)
久俊さんのフリーダムな発想が開花したのは2020年のこと。「イギリスの女王陛下がプレゼンターを務められるスポーツ大会の景品に、トロフィーを作ってくれないかと頼まれたんです」。長き久月の歴史を振り返っても、トロフィーの前例はない。「でも、ウチの持ってる伝統工芸技術を集合すれば、できる気がしたんです」。実際に職人にオーダーしてみると、予想を上回るクオリティで完成。トロフィーは、イギリスで喝采を浴びた。これを機に、久俊さんは「作ろうと思えば、何でも作れる」と確信。どんなアイデアでも「まずやってみる」のスタンスでアグレッシブに動いている。
![英国の冊子に掲載される、漆塗りトロフィー。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12135902/1707713929-2f70e3532e47d83aaba20855658a87a5.jpg)
「今後は、人形屋ではなく縁起物屋にしていきます。モノではなくてコトに寄り添う」
いやはや、もはや久俊さん自身が縁起者! そのチャレンジ精神、見習いたいっすわ!
「お! じゃあ人形作りにチャレンジしてみますか!」アレ? そういう展開なの?
図画工作の成績2の男が久月人形学院に入門してみたら……
久月人形学園は、40年続く歴史あるカリキュラム。人形の作り方を教わり、実際に作る。超絶不器用物書き、無事人形を作れるか?
週1レッスンの通学コース、通信教育コース、1日体験の趣味コースがあり、今回挑むは趣味コースだ。ちなみに通学コースを卒業すると、自分で教室を開くことができるそう。
久月3階で材料を買ったら、教室へ移動し、いざ挑まん! ヘラで人形の切り込みにのりを詰め、そこに生地を押し込む。これ、「木目込(きめこ)み」という手法なんだって。作業自体はシンプルだけど、人形の曲線部分にしわが寄らないよう込めていくのが難しい。案外力もいる。四苦八苦しながら進めていると、隣から「上手よ〜」と、講師・小林久安(きゅうあ) さんの声が。教えてくれるだけじゃなくて、ほめてくれるんですか、この教室。自己肯定感、爆上がりっすわ!
周囲の受講者のみなさんも、「のり、足りてる?」「ハサミ貸そうか?」と、気にかけてくれる。温かし。
あっという間に終了時間。全面を布で覆うことはできなかったが、余った布で作ったマフラーや、小道具の刀で隠す。うん! 見栄えは悪くない! 「斬新で面白い!」と、久安さんも絶賛! 突飛なアイデアも受け入れ面白がる、久月の懐の深さを感じた。そうだ、「まずやってみる」。不器用なりに、挑戦してよかったー!
【1】生地を選ぶ
![「これどう?」「いいっスね」](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140055/1707714054-a4a877ca5e427c38915ec1c32525c47d.jpg)
![左から時計回りに、生地、小道具、人形、道具(全て貸出し)。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140130/1707714089-4a7c5c7a7f37c710e4b826002a433283.jpg)
【2】のりを練る
![](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140142/1707714102-fc57e1dc723b04ea61e3bb4682030b55.jpg)
【3】ヤスリで削る
![](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140153/1707714113-a3ada82316cbac24f460b52197d65193.jpg)
![講師の小林久安さん(右)。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140205/1707714124-6912620e51bb91e43081d480e060424a.jpg)
【4】切り込みにのりを入れる
![](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140235/1707714154-257439057b5bd6a9fb623446963e9c41.jpg)
![のりが切れ込みからはみ出ないようにするのがポイントだ。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140225/1707714144-434fe0a191729b9299440a52572aa2e0.jpg)
【5】生地を張り込む
![「お上手!」](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140215/1707714134-b05a8a01e1ef4d206fd2595671d94666.jpg)
![](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140245/1707714165-833c8afecad4a205d98b3e00bdbd62f7.jpg)
【6】飾りをつけて完成
![「完成!」](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140255/1707714175-5bf3e986fea9c545d0820fc33d4a7908.jpg)
【7】思い思いにぬい撮りしよう
![命名! アッパレ・サン・タツヒコノミコト。愛着が湧いてきたぞ。](https://san-tatsu.jp/assets/uploads/2024/02/12140306/1707714186-eead7dc21a9f4a3a0f65cd93ba898bbc.jpg)
人形の久月 浅草橋総本店
住所:東京都台東区柳橋1-20-4/営業時間:9:30〜18:00/定休日:無/アクセス:JR総武線浅草橋駅から徒歩1分
取材・文=どてらい堂 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2024年2月号より