2021年、大河ドラマや新一万円札で話題の渋沢栄一。激動の幕末期を走り抜けた故郷 ・ 深谷と、 晩年を過ごした王子2つの街で、近代日本の発展に多大なる功績を残した巨人の軌跡とその面影を巡ろう。

【深谷編】

深谷巡りは「渋沢栄一 論語の里 循環バス」が便利。乗車券は大人250円、車内と『ふるさと館OAK』で販売している。乗り降り自由の1日券(大人500円)もあり、本コーナーで紹介したスポットへのアクセスに最適。
深谷巡りは「渋沢栄一 論語の里 循環バス」が便利。乗車券は大人250円、車内と『ふるさと館OAK』で販売している。乗り降り自由の1日券(大人500円)もあり、本コーナーで紹介したスポットへのアクセスに最適。

アクセス

JR・私鉄・地下鉄新宿駅から湘南新宿ライン特別快速で約1時間20分の深谷駅下車。またはJR・地下鉄上野駅からJR高崎線で約1時間20分の深谷駅下車。

渋沢栄一記念館の敷地に立つ巨大な栄一像。
渋沢栄一記念館の敷地に立つ巨大な栄一像。

激動の幕末から明治・大正・昭和と、その生涯にわたり、約500の企業育成にたずさわったという渋沢栄一。そのルーツを探るべく、高崎線で故郷の深谷へ向かった。深谷駅はレンガ風の駅舎となっており、東京駅にそっくり。実は東京駅のレンガは栄一の設立した深谷のレンガ工場「日本煉瓦製造」によって作られた。

深谷駅より北へ約7㎞、血洗島(ちあらいじま)の農家に栄一は生まれた。13歳の年にペリーが来航し、やがて栄一も尊皇攘夷の思想を高めていったという。そしてついには、従兄の尾高惇忠(おだかじゅんちゅう)らと横浜の外国人居留地を焼き討ちする計画を企てるが、無謀を諭され中止となった。ただし、この計画は幕府もつかんでおり、栄一は追われるように深谷を去ることとなった。

深谷は日本煉瓦製造の工場に由来する 「レンガのまち」 づくりに力をいれており、街の各所にレンガ造りの建物を見ることができる。中でも江戸時代から続いた 『七ツ梅酒蔵跡』 は、 歴史散歩の寄り道におすすめだ。酒蔵跡を利用した商業施設となっており、 レンガ煙突などノスタルジックな雰囲気に浸ることができる。

また深谷といえば深谷ねぎだ。深谷ねぎをはじめ、地元の野菜がたっぷり入った郷土料理「煮ぼうとう」は、栄一も好物で、帰省の際によく食べたと伝わる。
武州煮ぼうとう研究会の根岸会長は語る。「みんな気を使うだろうから、『私はこのふるさとの煮ぼうとうがあれば十分だよ』と、好んで食べていたのではないでしょうか」。

1  深谷駅舎

関東の駅百選に選ばれた

栄一も帰省の際に利用することがあったという深谷駅。大正時代に竣工した東京駅が、深谷に工場があった日本煉瓦製造のレンガで造られたため、東京駅を模したレンガ風の造りとなっている。日本煉瓦製造も栄一が設立したレンガ工場だ。

2  渋沢栄一翁ふるさと館OAK

栄一グッズが揃うシェアカフェ

深谷の名産品や地元の銘菓などが並ぶ物産館。渋沢栄一に関する書籍やグッズも数多く取り揃える。曜日ごとに店が変わるシェアカフェが併設され、コーヒーやランチなどを楽しむことができる。循環バスのバス停から近く、待合いスペースとしても最適。

●10:00〜17:00、木休(カフェのみ営業)。☎048-514-2509

3  七ツ梅酒造跡

映画のロケ地としても知られる酒蔵跡

元禄時代から続いた七ツ梅酒造の廃業を受け、その歴史的建物を残すべく「まち遺し深谷」によって運営・管理されている商業施設。各建物には雑貨店や映画館などが開かれ、レトロな雰囲気を満喫することができる。また事務局の塚越氏は、深谷の土による純・深谷レンガの復活にも挑戦している。

●11:00〜17:00、火休。☎048-573-8707

鬼瓦職人で「まち遺し深谷」の事務局次長の塚越久義さん(左)。「深谷の土で、歴史ある純・深谷産のレンガ作りを目指します!」
鬼瓦職人で「まち遺し深谷」の事務局次長の塚越久義さん(左)。「深谷の土で、歴史ある純・深谷産のレンガ作りを目指します!」

須方書店(すがたしょてん)

懐かしい時間が流れる

釜屋前室を利用した古書店。レトロな空気が漂う中、ゆっくりと本選びができる。明治の古書から最近の本まで、幅広く取り扱われている。

●11:00〜17:00、火休。☎080-3121-1851

深谷シネマ

酒蔵で楽しむ名画の数々

酒蔵に開かれた市民のための映画館。ゆとりのある客席は約60席。上映作品は観客からのアンケートを参考に決めるという。

●10:00〜22:00、火休。一般1200円。☎048-551-4592

なんでも屋mog

レトロなセレクトショップ

酒造跡入り口の母屋で営業するなんでも屋。趣のある店内には雑貨から食料品、ハンドメイド品など、こだわりの品々が所狭しと並ぶ。

●11:00〜17:00、火・日休。☎080-6703-4696

4  渋沢栄一 青天を衝け 深谷大河ドラマ館

ドラマの世界が目の前に!

館内には栄一が生まれた「中の家(なかんち)」のドラマセットが再現されており、幕末当時の生活空間を体感することができる。また渋沢家の家業である藍玉作りについて紹介したコーナーや、実際に使用された小道具や衣装などの展示もあり、より深くドラマの世界に入り込むことができる。

●9:00〜17:00、無休。大人800円。☎048-551-8955

5  尾高惇忠生家

栄一の学問の師

栄一が学問を学んだ尾高惇忠の生家。栄一とは従兄にあたり、妹の千代が栄一の妻となる。建物は惇忠の曽祖父が江戸時代後期に建てたもので、栄一らが通った頃の息吹を現在に伝えている。若き栄一らが横浜の外国人居留地を焼き討ちすべく詮議したのは、この屋敷の2階(非公開)であったという。

●9:00〜17:00、無休。無料。☎048-587-1100

6  渋沢栄一記念館

アンドロイドもお出迎え

渋沢栄一の貴重な資料が展示されている記念館。数々の写真や遺墨などを見学することができる。注目は本人そっくりのアンドロイド。身振り手振りを交えながらの講義を受けることができ、在りし日の栄一を感じることができる。また敷地内には巨大な栄一像も立つ。

●9:00〜17:00、無料。要予約。 ☎048-587-1100

7  旧渋沢邸 「中の家」

渋沢栄一、生誕の地

渋沢一族は当地の界隈に数々の分家を起こし、「中の家」の名もその位置関係に由来する。栄一はここに生まれた。現在の建物は明治28年(1895)に栄一の妹夫婦が建てたもの。帰省した栄一が滞在するために設けられたという奥十畳の間は、くつろげるよう、2階を設けない造りに。

●9:00〜17:00、無休。無料。☎048-587-1100

8  麺屋忠兵衛

栄一が愛した郷土料理 煮ぼうとうの専門店

「中の家」の隣で営業する深谷の郷土料理・煮ぼうとうの専門店。渋沢家の番頭が住んだ建物を改装した店舗で、栄一直筆の書も掛けられている。栄一も愛したという煮ぼうとう850円は、山梨のほうとうとは異なり醤油がベース。もちろん深谷ねぎが使用されている。

●11:30〜14:00、渋沢栄一記念館臨時休館日休。☎048-598-2410

【王子編】

王子駅から飛鳥山公園を通るルートがおすすめ。『渋沢史料館』に隣接する『北区飛鳥山博物館』(P.107参照)内には、大河ドラマ館もオープン。また近くの『紙の博物館』も栄一が設立した王子製紙にゆかりがある。

渋沢史料館の中庭に立つ栄一像。
渋沢史料館の中庭に立つ栄一像。

深谷から江戸・東京、そして飛鳥山へ

その後、栄一は一橋家の家臣を経て、幕臣に。パリ万博に随行するためフランスにも渡り、この経験が後の栄一に大きな影響を与えた。
だが、その間に幕府は瓦解し、栄一も帰国。維新後は請われて政府に出仕した後、実業界に転じて第一国立銀行など多くの会社、経済団体の設立・経営に携わった。教育や福祉にも多大なる功績を残している。

東京に住むようになった栄一は、明治12年(1879)に飛鳥山に別荘を構えた。同34年(1901)からはここを本宅とし、亡くなるまでを過ごした。 現在、 当地には『渋沢史料館』が立っている。また界隈には栄一が支援した滝野川警察署や七社神社、音無橋、さらにゆかりのお店などもあり、随所にその面影が残されている。

渋沢史料館

栄一の生涯を巡ることができる

賓客を迎えるレセプションルームとして使用された晩香廬。
賓客を迎えるレセプションルームとして使用された晩香廬。

渋沢邸跡に立つ史料館。年齢ごとに分けられたユニットで、栄一の事績が紹介されており、その軌跡に触れることができる。企画展なども開催されているほか、栄一の喜寿に贈られた晩香廬(ばんこうろ)と、傘寿(80歳)および、子爵昇格を祝して贈られた青せい淵えん文庫も見学可能。

●完全予約制、開館日はHPを参照。一般300円。☎03-3910-0005

青淵文庫の閲覧室。
青淵文庫の閲覧室。
渋沢史料館の2階展示室。頭上の数字が年齢を表す。
渋沢史料館の2階展示室。頭上の数字が年齢を表す。

扇屋

栄一も利用した料亭の玉子焼き

厚焼玉子650円。
厚焼玉子650円。

江戸から戦後まで、東京を代表する名料亭であった『扇屋』。明治天皇など多くの要人が利用したことで知られる。栄一も王子倉庫の創立発起人会や朝鮮人の接待などで、足を運んだ記録がある。現在は料亭の名物であった玉子焼きの専門店として、その歴史を引き継いでいる。

●12:00〜19:00、水休。☎03-3907-2567

音無橋(おとなしばし)

栄一が建築に支援したという

昭和6年(1931)、石神井川(音無川)に架けられたアーチ形の橋は王子町と滝之川町をつないだ。町の事業にも積極的であった栄一は、建築の際や開通式協賛会へ支援したと伝わる。橋下には音無親水公園が整備されている。
昭和6年(1931)、石神井川(音無川)に架けられたアーチ形の橋は王子町と滝之川町をつないだ。町の事業にも積極的であった栄一は、建築の際や開通式協賛会へ支援したと伝わる。橋下には音無親水公園が整備されている。

七社神社(ななしゃじんじゃ)

栄一が篤く崇敬した旧西ケ原村の総鎮守

飛鳥山に住んだ栄一も氏子となり、社務所建築に寄付するなど、篤く崇敬した神社。栄一が揮毫(きごう)した軸などが納められており、本殿の社額も栄一の筆によるものだ。栄一のシルエットが描かれた絵馬などもある。

栄一のシルエットの成功・発展の絵馬。
栄一のシルエットの成功・発展の絵馬。

平塚亭つるをか

渋沢家の方々も通ったと伝わる

散歩のお供にも! みたらし団子 140 円。
散歩のお供にも! みたらし団子 140 円。

平塚神社の参道横で大正時代より営業を続ける老舗和菓子店。ミステリー小説「浅見光彦」シリーズで主人公が通った店としても有名。店に伝わる話では、渋沢家の方もよく足を運んだそうだ。厳選された素材による絶品の豆大福170円は、北区名品ガイドにも選ばれた。

●9:00〜18:00ごろ、不定休。☎03-3915-0277

【実はこれも! 都内の栄一ゆかりグルメ】

渋沢栄一が食べたであろう味が現在でも味わえる、ゆかりの老舗店を紹介!

とらや 赤坂店

渋沢家からの注文が残る

赤坂店。
赤坂店。

とらやには渋沢家から「夜の梅」や「椿餠」などの注文があった記録が残されている。なかには慶喜家を継いだ徳川慶久が亡くなった際に「かざしの梅」という菓子を届けた記録もある。ちなみに栄一が肺炎に倒れた際、明治天皇から贈られた菓子もとらやの謹製であった。

●9:00〜18:00(土・日・祝は9:30〜)、毎月6日休(12月を除く)。ギャラリー、喫茶も併設。☎03-3408-2331

「夜の梅」(竹皮包羊羹3024円)と「椿餠」(486円※現在は販売期間外)。なお「かざしの梅」の製造可否は要確認。
「夜の梅」(竹皮包羊羹3024円)と「椿餠」(486円※現在は販売期間外)。なお「かざしの梅」の製造可否は要確認。

上野精養軒本店

栄一が80回以上、足を運んだ

創業時より変わらぬドミグラスソースが精養軒伝統の味を引き継ぐ「昔ながらのビーフシチュー」2480円。
創業時より変わらぬドミグラスソースが精養軒伝統の味を引き継ぐ「昔ながらのビーフシチュー」2480円。

栄一は、上野精養軒における会合や祝賀会などに何度も足を運んでいる。菩提寺の寛永寺に近く、法要の際に利用することもあった。昭和3年(1928)、尾高惇忠らの法要後にも訪れている。「昔ながらのビーフシチュー」など伝統の料理を味わうことができる。

●『カフェランランドーレ』は11:00〜16:00、月休。『グリルフクシマ』は11:00〜14:00・夜は予約のみ、月休。☎03-3821-2181

明治時代の上野精養軒(写真提供=上野精養軒)。
明治時代の上野精養軒(写真提供=上野精養軒)。

取材・文=三澤敏博 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2021年4月号より