合同コンパ、いわゆる合コンに誘ってもらうことがたまにある。呼ばれたらうれしいので用事がない限り参加するが、誘いは半年に1回あるかないかだ。しかし1度だけ、一晩で2件の合コンをハシゴした忘れられない夜がある。 バイトで知り合った友人が呼んでくれた合コン。彼は若手の芸人で、他の参加者も自分以外はみな芸人だった。初対面の芸人のノリに置いてけぼりにされないか不安だったが、恐れていたギャグを披露しあうような空気にもならず、穏やかに楽しく合コンは進行した。 開始から2〜3時間が経ち、女子たちとも打ち解け切ったように感じられた頃。「そろそろ二次会でも行きましょう!」との誘いに対する彼女たちの反応は、予想外に芳しくなかった。全員明日が早く、終電までに帰らなければならないため二次会には行けないと言う。 一見真っ当な理由だが、次の日は休日だ。経験上、口実に過ぎないと分かった。私たちの楽しませ方が二次会に行きたいと思えるボーダーに達していなかったのだ。思い返してみれば彼女たちは同じタイミングでスマホをチェックしていたし、二次会に行くか聞いた時、女子内での相談もなく意見が一致していた。卓の下で、「二次会どうする?」「いや、こいつらないっしょ」「だよねー」と連絡を取り合っていたのではないか、という幾分ネガティブ過ぎる憶測は、実際かなり信憑性が高そうに思えた。 女子たちが帰った後も飲み屋に居座り、うなだれ反省会をする男たち。敗者同士の絆を感じ始めた頃、私のもとに奇跡的な連絡が届く。 「遅くにすいません! 今から飲みたいっていう女の子たちいるんで、僕の家でコンパしませんか?」 誘ってくれたのは、以前イベントの打ち上げで知り合ったある芸人さんだった。下衆な話の流れから「またコンパとかあったら呼んでください!」と軽い約束を交わしたが本当に誘ってもらえるとは。 一日に2回も合コンに参加するのは未経験の事態。両方とも滅多に飲むこともない芸人からの誘いということも不思議な縁を感じた。希望を失っていた私の前に、再び差し出されたチャンス。手を伸ばさない理由はなかった。初対面とはいえ一時は命運を共にした戦友たちを置いていくのは忍びなかったが、「次はがんばれよ!」と優しい声援に送られて私は一人タクシーに乗り、新宿から五反田のマンションへと向かったのだった。

黄色い歓声にワクワク

エレベーターを降りた時点で、キャーキャーとはしゃぐ声が聞こえた。始まってまだ間もないはずだが、すでに盛り上がっている。テンションについて行けるか不安だったが、かなり酒を飲んだことを思い出して気を奮い立たせた。

玄関のドアを開けガチャッと音が響くと、奥の部屋から「ほら吉田さん来たで!」という芸人さんの声が聞こえた。女子たちは一際大きくキャー!と叫ぶ。興奮のあまり「ギャー!」と叫んでいるようにも聞こえた。あまり黄色い歓声を浴びたことのない私は自然とうれしくなった。

ワクワクしながら部屋の扉を開けると、「ちょっと待って!」と言いながら女子たちはあわてて手で顔を隠して下を向き、その光景を見た芸人さんたちが腹を抱えて笑っていた。一体どういう状況だ。その時、手の隙間から窺うかがうようにこちらを見てきた女子と目が合った。見覚えのある顔だった。

背筋がゾワっとした。いや、しかしまさか、そんなことはあり得ない。気持ちを落ち着けて女子たちを見わたし服装を確認した結果、あり得ない事態が現実に起こっているのを認めざるを得なかった。

そこにいた女子たちは4人とも先ほど別れたばかりの人たち、つまり数時間前まで合コンをしていた相手だったのだ。彼女たちは終電があるからと帰ったように見せかけて、別の芸人のコンパへと移動していた。しかもより芸歴が長く、売れている芸人の方へと。後で問い詰めれば、先ほどの合コンの途中から「女の子4人いるんですけど今から飲みませんか?」と自分たちから連絡をいれていたらしい。終電は帰る口実と予想していたが、さすがに別のコンパに行っているとまでは思わなかった。

私はなぜ呼ばれたのか?

私がマンションのドアを開ける直前、室内では「ちなみに、もう一人来る人ってどんな方ですか?」「前にイベントで一緒になったバンドの人やで」「え、それってもしかして吉田って人じゃないですよね?」「いや、吉田さんやけど」「いや、ちょっと待ってちょっと待って‼ 無理無理‼」「え、何で? あ、吉田さんもうマンション着いたらしい」「キャー‼」というやり取りがドアの外まで聞こえていたというわけだ。ワクワクしながら部屋に入ってきた自分が情けなさ過ぎる。こんなに望まれない登場があるだろうか。その後気を取り直して低俗なゲームなどに興じたが、一旦見切られた認識のある私はあまり身を入れて楽しめなかった。

芸人の合コンをハシゴする女たちの話は、芸人さんにとっても稀なエピソードだったらしい。後日その場に居合わせた一人がラジオでその日のことを面白おかしく話していたのを聞いたが、私を誘う前のくだりとしての「夜遅かったから芸人いくら声かけても捕まらんくて、じゃあもうあの人声かけてみよか、ってなって」という説明で、想像していたよりも消去法で呼ばれていたことを知り、そこも若干ショックだった。

文=吉田靖直 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2020年11月号より