<人(ひと)> 届きにくい看護師のニーズを形に 目白大学人間学部子ども学科 西山里利准教授

<人(ひと)> 届きにくい看護師のニーズを形に 目白大学人間学部子ども学科 西山里利准教授

(本誌編集長 山口泰博) 

 

▍私費で看護用品を改良

臨床看護の現場で使用される用具や用品。「こうなっていたら使いやすいのに」と、手作りで改良したものを見かけることはないだろうか。目白大学人間学部子ども学科の西山里利(にしやま・さとり)准教授は、看護などの用具・用品開発に向けた臨床と企業連携をテーマに研究を続けてきた。 

西山准教授は、1987年に国立善通寺病院附属看護学校(香川県善通寺市、現在の独立行政法人国立病院機構四国こどもとおとなの医療センター附属善通寺看護学校)を卒業。慶應義塾大学病院の脳神経外科、整形外科の混合病棟で看護師として働いていた経験から、医療現場、特に看護師の声が企業に届きにくいと感じていた。現場の「困った」という声を企業に届けて製品に生かすことができれば、企業にも、ケアを提供する看護師にもメリットがあり、最終的にはケアの向上にもつながる。そんな思いから、西山准教授は休日に手芸店やおもちゃ屋などに出向き、材料として利用できそうなものを私費で買い求め、素人ながらも工夫を重ね改良を加えていたという。 

入院加療する子どものケアを通して幼児教育に関心を持ち、看護に生かそうと、1990年に青山学院大学文学部第二部教育学科に入学した。看護師の仕事の傍ら、夜は学びの時間に費やした。旺盛な探求心はとどまらず、1995年には聖路加看護大学(現聖路加国際大学)大学院看護学研究科に入学し、2年で修士号を取得する。当時勤務していた慶應義塾大学病院に「大学院に行きたい」と退職の相談をしたところ、看護師として大学院で学ぶためであれば辞めることはないと、2年間休職扱いにしてくれたという。 

大学院修了後、慶應義塾看護短期大学助手(現助教)、聖路加看護大学助手(現助教)を経て、慶應義塾大学看護医療部小児看護領域の助手(現助教)として着任した時、学内のプロジェクトを補助する名目の研究費助成制度があることを知ると、環境情報学部と総合政策学部、看護医療学部の特性を生かした研究として助成を得るため、3学部連携でできる研究を考え、2003年ごろから、ライフワークともいえる現在の研究を始めることになる。

 

▍看護師の声を形に

ユーザーからの情報を吸い上げ、企業側で製品化する過程で、時に費用や素材、構造上の問題、そして情報の分断などが原因で、ニーズに合わず使いにくくなってしまうこともある。 

これまでは実体験がベースだったため、「ほかの看護師や病院はどう考えているのだろう」という疑問から、研究の手始めに全国の看護師に広くアンケートで実態を調査した。すると「日ごろから用具や用品の改善経験がある」という問いに、およそ半数が「経験あり」という回答だった。そして企業との共同研究は、この半数の中の1割ほどだったという。既存の用具・用品は、なぜか現場では不都合なものが多いと言わざるを得ないようだ。 

「病院は、病院の都合で用具や用品を導入するので、現場はごく当たり前にそれらを使います。そのため、使い勝手が悪くても我慢して使うか、誰も使わなくなり倉庫行きになることもあります。そもそも、看護師は患者の看護が最優先なので、企業と用品に関する意見交換をする機会はありませんし、共同研究についても、知識や情報がないので企業の選択が難しく、意見を求められても看護部長で止まってしまいます。医師の意見は届いても、看護師の声は企業に届きにくいのです。仮に試作品に意見が反映されたとしても、実現するのは数年後になるのが当たり前なのです」と西山准教授は指摘する。病院や企業にもよるだろうが、実際に使う看護師や患者といった「現場ニーズ」を形にするには、組織的な課題もありそうだ。 

試行錯誤は続き、用具・用品に関する課題を持つ看護師、患者(一般)、企業に広く呼び掛けるため、まずインターネット上に企業と看護師が意見交換できるサイトを立ち上げ、看護師の声を形にし、現場のニーズを企業に届けるサービスを作ってみた。ユーザー志向の看護用具・用品開発について研究する「NMC−Cubeプロジェクト」というサイトだ。しかし、患者の個人情報の取り扱い上の問題や、仕事中は看護記録やケアなどの業務が手いっぱいで、看護師からの書き込みが少なく活性化しなかったこと、研究期間が終了したことから、現在は閉鎖している。 

そんな悪戦苦闘の末、フェース・トゥ・フェースで、しかも濃密な意見交換を行うワークショップ中心に転換し、インクルーシブデザインワークショップ(IDWS)という手法にたどり着く。それからはアンケートやブレーンストーミング、モニター調査では伝わらない背景部分や製品開発をワークショップ手法で改善することにこだわっている。今後は、患者参加や、必要な情報がより抽出されるワークショップ手法を開発していく。ニーズとシーズをつないでケアの向上に貢献するとともに、保育者養成校の教員として、幼児にとってのより良い健康教育も創出できるよう、研究に没頭する西山准教授の日々は続く。

(産学官連携ジャーナル 2019年2月号)


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