高崎経済大学にして初めての大学発ベンチャーのフューチャーノートが、コオロギパウダーに着目した食品開発で食料難に挑んでいる。
世界的に不足するタンパク源を昆虫の姿そのままでは茶化されておしまいだが、粉にすることで違和感をなくした。


世界的人口増加で食料争奪戦

国際連合広報センターによれば、世界の人口は2019年の約77億人から2030年には85億人(10%増)ほどになるとされる。さらに2050年には97億人(26%増)、2100年には109億人(42%増)へと予測されている。

最も大幅な人口増加が起きると考えられているのがインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、米国の9カ国だという。インドは2027年ごろには、中国を抜いて世界で最も人口が多い国になるとみられている。2050年までには人口増加の半分以上がこれら9カ国で発生するとみられるが人口は世界的に増加傾向にある。

人が増え、生活水準が上がり、肉や魚介類などに含まれる動物性タンパク質の需要も高まるのは必須で、これだけの人口の食料を賄うには、豚や鳥など何億匹もの家畜が必要だ。だが、過剰な放牧は環境汚染や森林破壊を引き起こし、魚介の大量捕獲は海洋資源の枯渇を招く。

医療の進歩や食料事情の向上によって摂取する栄養価の高まりは、世界的に高齢化を加速する。世界人口の規模と構成の変化は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成と、誰一人取り残さない世界の実現に影を落としかねない。

これらのことは、少子化による人口減少が深刻化している日本では、ピンと来ないかもしれないが、食料自給率に目を向けると、カロリーベースでは約38%の自給率。飼料自給率は約25%、生産額ベースでは、約66%とされる。人が増えることで、国同士の食料争奪戦は水面下で熾烈な競争にさらされる。近い将来、食肉の生産が減少すれば、重要なタンパク源を何でとればいいのか。

その課題に取り組むのが、高崎経済大学にして初めての大学発ベンチャー、FUTURENAUT(フューチャーノート)株式会社だ。


昆虫食をゲテモノ扱いする日本は世界から笑われているかも

日本では、長野県など一部の地域で、蜂の子(ハチの幼虫)、イナゴ、蚕のさなぎ、ざざむし(トビケラやカワゲラなどの水生昆虫の幼虫)を佃煮にして食べることもあり、昆虫食は郷土料理としての食文化がかろうじて残っている。しかし、食の欧米化など時代の変化とともに衰退し敬遠され、希少性からゲテモノ扱いされてきた。

一方海外に目を向けると昆虫は、アジア、南米、米国、アフリカなど90カ国ほどの国と地域で食べられている。昆虫食は、世界から見ればスタンダードフードと言える。コオロギをはじめとする昆虫は、一般にタンパク質、良質な脂肪(不飽和脂肪酸)、ミネラルが豊富で高栄養食なのだ。

テレビなどで、昆虫を目の前にした出演者のオーバーアクションは、世界から見るとどう映っているのだろうか。昆虫食をゲテモノ扱いする日本。井の中の蛙大海を知らずと笑われているかもしれない。


高栄養食のコオロギに着目

群馬県高崎市のFUTURENAUT(フューチャーノート)株式会社は、未来のタンパク源として食用昆虫のコオロギに注目し、未来へとつなげる食育の推進事業を展開する。ゲテモノ扱いされがちな昆虫だが、コオロギを粉(コオロギパウダー)にして、食べやすく加工することで、初心者でも違和感なく食べられると注目を集めている。

2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が、世界の食糧危機の解決には栄養価が高い昆虫類の活用を推奨する報告書を出したのをきっかけに、食品として昆虫の活用が世界的に注目を集めた。採集や飼育の産業化によって新たな雇用や収入を生み、家畜より飼料が少なくて済む。さらに温暖化ガスの排出量を減らすこともできることも相まって昆虫食への関心が高まるばかりだ。

そんな世界の動きに呼応するように、フューチャーノートは、公立の高崎経済大学としては初めての大学発ベンチャーとして2019年7月、櫻井蓮社長が大学在学中に立ち上げた。

環境行動と心理の違いを研究する同大学地域政策学部地域づくり学科の飯島明宏教授は、「昆虫由来タンパクが肉を完全代替するような存在になるとは考えづらい。しかし、肉の生産も環境負荷を考えるとそう遠くない将来に限界を迎えるでしょう。そうなったときに増え続けるタンパク質需要を賄う代替タンパク源が幾つか市場に普及していくと予測されます。大豆やえんどう豆、藻類や昆虫、培養肉などが期待されている次世代タンパク源です。市場への普及は食経験の豊富さと関係します。例えば、日本は大豆を食べる食文化があったので大豆タンパクの定着は早かった。しかし、大豆がポピュラーでなかった国では、新しいタンパク源という認識です。昆虫由来タンパクも今はまだなじみのないタンパク源ですが、実際に食する経験を重ねることで次第に市場に定着してくるでしょう」と昆虫由来タンパクのポジションを説明する。

昆虫は、タンパク質などの栄養素を豊富に含むこと、養殖に必要とされる土地や飼料が家畜などに比べ大幅に少なく環境負荷が小さいことから、人間にとって重要な食物になる可能性がある。

「日本では、イナゴなどを食べる地域はありますが、イナゴや蜂の子は大量に養殖生産することが困難といわれています。自然界での採取では安定供給も難しいし、品質も不安定です。餌の管理や生体の生産・繁殖管理など全てを管理できる状態で生産量と品質が安定的に供給できるのがコオロギです。コオロギは食品原料としての品質管理の下、養殖生産できる技術が確立されてきました。家畜と同じようにゲージの中で増やせます」と櫻井社長。さらに「若い人がこういう分野に興味を持つことが大事です」と付け加えた。

高崎経済大学では初めてのベンチャーだったことからインキュベーション施設もなく、前例もないと大学の支援も受けることができなかった。手探りでの起業の苦労は想像に難くない。当初合同会社にしたのもミニマムスタートでリスクを回避させた結果だ。

苦労して設立し、いざ事業をスタートするため地元の企業や飲食店などを回ったが、コオロギと聞いただけで顔をしかめられる。昆虫に対する嫌悪感は、想像をはるかに超えた。「食品に虫はだめ」と断られ続けた。


タイの農家から供給

気になるのは原料となるコオロギの調達方法だが、タイのコンケン大学には、食用コオロギの養殖技術を確立させた研究者がいて、その養殖技術がスタンダードになりつつあるという。大学周辺の農家では、コオロギの養殖が営農形式で普及しタイ政府もバックアップしている。タイでは、世界的な昆虫由来タンパクの需要の高まりを受けて、標準的な生産方法を確立させ、必要とする地域に輸出し産業支援にも積極的だ。

飯島教授は、「タイは農業国です。食用コオロギ生産に携わる現地の労働者は女性と高齢者がほとんどで、重労働を必要とせず軒先で営農できます。卵から成虫に至る成長速度が速く、短期で出荷できるため、農業の副業としての現金化も早いのです。また、農産物の野菜を餌に利用したりコオロギの糞を畑に戻したりと、資源の域内循環にも一役買っています。農家の収入を増やし生活水準を上げることは、SDGsにもつながるのです」と強調する。

現地ではイエコオロギを姿のまま調理して食べているが、欧州や日本ではそのまま食べることが敬遠されることから現地でパウダーに加工して日本へ空輸している。見た目は小麦粉と同じだが、真っ白ではなく少し褐色がかった粉だ。

「ありとあらゆるコオロギを試食しましたが、ヨーロッパイエコオロギが養殖しやすく、加工にも向いていて、このパウダーが一番おいしいです」と櫻井社長の言葉に、筆者も試食させていただいたが普通の粉で味もいけた。

市場には様々なコオロギパウダーが流通し始めているが、品質にはかなりの幅があるという。食品原料としての安全性の確認は何よりも大切であることから、パウダーの品質評価には特にこだわる。


課題は価格

飯島教授や桜井社長によれば、生体重量にして1kgのヨーロッパイエコオロギから、約300gのパウダーが生産できるという。パウダー化すると、その70%ほどがタンパク質で、高タンパクであることが見て取れる。二人ともどちらかといえば昆虫は苦手だというが、パウダーにすることで何の違和感もなく食べられるようになった。

コオロギパウダーの市場小売価格が100gで約1,500〜2,000円、小麦粉は1kgで約200円だが工業用の場合はさらに安い。残念ながら小麦粉と比較してもまだまだコオロギパウダーの割高感は否めない。また現状では扱う量も少ないことから、空輸による輸送コストもばかにならない。価格を下げるには消費拡大を実現させ船便による輸送となるよう事業を拡大していくしかない。

ならば、野生のコオロギを採取すればと単純に思うかもしれないが、何を食べているか分からない昆虫を食料とすることは衛生的な観点から受け入れられない。餌の品質と飼育環境の管理は、食の安全の観点から極めて重要である。

では国内養殖はどうか。コオロギの養殖は暖かい夏には適するが、冬期に熱源設備を設置し維持管理をすればコストが増える。熱帯モンスーン気候のタイは年間平均気温29℃前後、高温多湿で年中蒸し暑く、一年を通して日本の7、8月ごろの気候である。さらに、飼料自給率が高く、餌の調達リスクも低い。農家が作る野菜も餌に活用でき、コオロギの糞は農作物の肥料にも利用できるため、循環が可能だ。仮に日本の農家がコオロギの養殖をするとなれば、夏以外は育成温度を維持するための熱源と大規模な養殖施設が必要となる。

コオロギパウダーを使った商品を提案しても断られてきたが、食品をOEM製造する会社と商品化にこぎ着けて販売すると珍しさもあり話題になった。そしてコオロギパウダーを練り込んだゴーフレットやビスコッティ、チョコクランチなど次々と商品化した。

販売促進も兼ねて様々なイベントにも出向き、これからというときの2019年12月に新商品を投入したが、新型コロナウイルス感染症拡大が想定外に立ちはだかった。商品を置かせてもらっていた博物館などが閉館し、併設の売店も休業や時短営業で一気に暗雲が立ち込める。今は、オンライン販売や原料の調達等、ビジネスモデルを見直しコロナ収束後のチャンスを狙う。

(本誌編集長 山口泰博)