医工連携でありがちなズレを調整する 鳥取大ベンチャー メディビート
2021年8月15日

新型コロナウイルス感染症対策用品の紙製フェイスシールド ORIGAMI(オリガミ)が、2020年4月の発売開始から1年足らずで、40万枚以上売れている。背景にはコロナ下による特需もあるが、その成果の蓋然性(がいぜんせい)を高めたのは、医工連携でありがちなズレを解消することだった。

■医局の壁をなくして一丸に
ORIGAMIは、昨年4月に新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療資材の不足解消を目的に、鳥取大学医学部附属病院の新規医療研究推進センターの藤井政至助教が東京の医療機関の物資不足の現状を聞き、1週間で考案。使い捨て可能な ORIGAMIを鳥取大学発ベンチャー株式会社メディビートと地元企業の有限会社サンパック、ヤママスデザインと共同開発を行い製品化したもの。

その特徴は、ボール紙にポリプロピレンのフィルムを貼り付けた組み立て式で、紙部分を折って使用する。顔面を覆うと上下左右から飛沫(ひまつ)を防ぐ構造だ。見た目は大きく感じるが、およそ30グラムで軽い。また、ゴムを使っていないので強い締め付けはさほどなく、長時間装着しても痛みがないと言う。さらに、顔面とフィルムの間に隙間を設けることでマスクの使用時も曇りにくい。

鳥取大学は、鳥取大学医学部附属病院を中心にかねてから医工連携に積極的で、医局の壁をなくして一丸となる姿勢に定評がある。そんな土壌がベースにあるから、学内はもちろん関係機関や地域企業とのものづくりでスピーディーに製品化できたと言えそうだ。

初回生産時には、メディビートを通じ3万枚を鳥取県に寄付し、そのうち1万枚は鳥取県を介して東京都へも寄付を行った。小池百合子都知事も「医療現場で感謝されると思う。受付や理美容などにも広く使える」と感謝を込めて評価したという。

メディビートは、そんな土壌の中から生まれたニュータイプのベンチャーと言える。

■ニュータイプのベンチャー
ORIGAMIの快進撃に重要な役割を果たしているのが、医療機器の研究開発と製造販売を手掛けるメディビートだ。

一般的でシンプルな医工連携では、製造会社が医師や看護師のニーズを拾い製品化するのだが、コミュニケーションの食い違いや医療機器に課せられる規制、製造コストなどの要因が絡み合い、ズレが生じることがある。そうなれば完成品の需要度は低下する。また、メーカーは流通販売が不得手なため製品の周知と営業力が伴わず売れにくいのが実態だ。

このほか、医療機器業界は、法規制によって法令に準じる申請書類作成が素人には重石となるうえ、独自の商習慣が色濃く、一般的な商品とは違った流通形態が追い打ちをかける。そんな理由から、製品開発をしても商品として流通しにくくなる。また意外だがインターネット販売ではほとんど売れないこともあり、求めているユーザーへ届けるには、まずは独自の商習慣に習うことが重要で、販路拡大をするなら既存の販売チャンネルとの連携が欠かせない。

企業側は在庫を抱えたくないし利益を追求することになるが、買う側にとっては希望価格に合わないこともしばしばで、頼んでも1カ月以上かかるなどといった齟齬(そご)はよくある話だが、医工連携でもそんな意見はときどき聞かれる。

カメラ撮影を例にすると、主役にしたかった手前の被写体に焦点が合わずボケて背景にピントが合ってしまう。これがピンボケだ。シャッターを押したときにカメラが動いたことで手ブレが起きたことが原因で起こってしまう。オートフォーカスは、カメラが自動でピントを合わせてくれる便利な機能で、被写体にカメラを向けてシャッターボタンを半押しにすれば、誰でも簡単にピント合わせができる。今ではスマホにも手ブレ防止機能が付いているので、ひと昔まえほどピンボケ写真は多くないが、テクノロジーを過信しても、そもそもしっかりと構えカメラが動かないよう撮影しないとピンボケは起こってしまう。校正や調整作業や動作のキャリブレーション機能といってもいい。

メディビートは、病院と医師や看護師などと、試作・製造・販売会社との間をつなぎ販促活動に力を入れており、大学の技術移転機関(TLO)が担う役割に加え、製品企画・販促・販売業務を総合的に担うことで、ズレを軽減するニュータイプの医工連携型大学発ベンチャーで、キャリブレーションカンパニーのようだ。

■作り続ける
助成金もなくなればその事業も終わってしまう単品単発の製品化で終わりがちな医工連携においてメディビートは、ORIGAMIのヒットから矢継ぎ早にコロナ関連製品を市場に投入。柔軟でスピーディー、さらに小回りの利く動きも奏功する。2019年4月1日に会社を立ち上げわずか1年足らずで数々の製品をラインアップに加えてきた。作り続ける必要があるからだ。

例えば、業務用として1ケース300枚入りのセット販売(販売取扱店では100枚単位も用意)をしていたが、「単品でも欲しい」の要望に応え、20枚入りパッケージと1枚パッケージにも対応。「子供用に欲しい」の要望に応え5〜12歳の子供用紙製フェイスシールド(小児用)ORIGAMI Jr.を製品化した。

筆者が個人的に興味を引いたのは、インナーアーチ+(インナーアーチプラス)だ。会議進行や取材活動ではマスクをしたまま話さなくてはならないことが多く、話しにくいし声がこもり不便この上ない。インナーアーチ+は、コロナ関連向けというよりは、マスクを日常的に使用する看護師が会話しやすいように生み出された製品で、マスクと口の間にすき間ができ通気性を確保したことで蒸れを軽減、会話をしやすくした。マスクが長時間肌と密着しないので、炎症による肌トラブルも起こしにくい。

■産学連携のエキスパート、医工連携の弱点を知り尽くした社長
会社を立ち上げたのは代表取締役の山岸大輔氏だ。

山岸社長は、近畿大学から鳥取大学大学院連合農学研究科博士課程(農学)経て、遺伝子組み換えなどを研究してきた。研究の幅も広がるだろうと知的財産(知財)に関心を持ち、やり出すと奥が深くて、そのまま知財にのめり込んだ。大学院終了後は、鳥取大学で知財を担当しながらNEDOフェローに参加。NEDOフェローは、国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)が、産学連携人材の養成を目的に2000年度〜2010年度まで実施した産業技術フェローシップ事業で、巣立った多くの人材が大学や研究機関などで活躍していることで知られる。そして、鳥取大学の産学・地域連携推進機構(現:研究推進機構)の任期を2回更新した後、退職し2019年4月にメディビートの代表取締役に就任。長く産学連携に関わってきたうえでの44歳の起業である。

大学周辺の産学連携業務はいま、大きな変革期を迎えつつある。背景には、文部科学省が進めるリサーチ・アドミニストレーター(URA)の標準化がある。その目的は、URAを育成し確保するシステムを整備し、大学などでの研究支援体制の充実と強化を図るため、URAの業務の能力を明確にして体系化する指標作りがある。そのため国立大学の産学連携人材は、徐々に教員職としてのURAへ置き換わる過渡期とも言える。大規模大学は、URAと産学連携が並走して役割分担していることが多いが、中規模以下の大学では、全ての業務を総合的にこなさなくてはならないことから担当者の負担は大きい。

そんな背景が後押ししたかどうかは分からないが、山岸社長は、経営者は責任を取ることができ、自分の生き方に合っているようだと笑って応じる。

医工連携の弱点を知り尽くした山岸社長だが、コロナ関連製品は、収束すればその特需は終焉(しゅうえん)を迎え追い風が止まると予想される。単価が安い製品を入荷して出荷する卸売り販売の事業形態では、マージンも小さく利幅に限界がある。余力のあるうちに次の一手を打つ必要に迫られそうだ。

だが先にも述べたが、シーズとニーズの要望のズレを、医工連携の弱点を知り尽くした企業の立場で、一つ一つ潰していけるメディビートの存在価値は際立つことになる。同社が成長すれば、医工連携の発展にもつながり、歩みが止まれば従来のつながらない医工連携に戻ってしまう。医工連携で唯一無二の会社として手振れを軽減した製品なら需要の掘り起こしができそうだ。