「あなたの不満買い取ります!! 不満買取センター」。不満をつぶやくだけで、その不満を買い取ってくれるそんなサービスが人気だ。京都大学との共同研究で開発した「文章解析AI」で、アンケートでは集まらないノンバイアスの不満をあぶり出す。

■負の感情から生まれる呪いか!?
不満や文句ばかり言っている人は身近にいないだろうか。素性が知れた人から出てくる不満はまだいい。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)には、キラキラした日常やPR、不満、文句があふれ、企業などが運営するウェブサイトのお問い合わせフォームには、ネガティブな要望や意見も多いのではないだろうか。

ポスト「鬼滅」とも言われる芥見下々氏原作の人気漫画・アニメ『呪術廻戦』(じゅじゅつかいせん)は、人間の負の感情から生まれる呪霊を呪術を使って祓(はら)う呪術師の闘いを描いたダークファンタジーだ。古来漫画やアニメ、映画などでは、人間の負の感情が原因となり、様々な災いを誘発する作品が送り出されてきた。負の感情は、怒りや恐怖に満ちあふれている。思い起こしただけでも、『どろろ』(手塚治虫原作)、『ゲゲゲの鬼太郎』(水木しげる原作)などは妖怪が人々を陥れるし、『Y氏の隣人』(吉田ひろゆき原作)、『笑ゥせぇるすまん』(藤子不二雄Ⓐ原作)などは、日常生活の不満が自身に返ってくる。特撮やハリウッド映画、ゲームでも特に戦闘系作品には不満が渦巻く要素がふんだんに取り入れられ、「正」と「負」との闘いがドラマを生む。人の不満が増幅した結果、災いが起こるのは世代にかかわらずどの作品にも共通する普遍的要素で、行き過ぎた不満は怒りとなり、犯罪さえ誘発する。これらは負の感情を描くことで戒めとなり「気付かせる」効果も担ってきた。そんな空想作品に親しんできたことから、「不満買取センター」という攻めたサービス名を聞いたとき、一瞬だがおどろおどろしい人の負の感情を集めて買い取ってくれる奇異な会社かと想像したが実際はそうではない。

簡単に言えば、不満といっても呪いやクレームではなく、「こうしたらいいのにな」「こうしてほしいな」といったポジティブな意見だ。その意見に対し、企業なら製品やサービスの改善に役立てビジネスチャンスを見いだし、行政であれば政策の立案などに役立てられる。

■3,000万件のデータから検索・抽出しAIで解析して商品化
株式会社 Insight Tech(インサイトテック)が運営する不満買取センターは、日常生活で感じた不満を投稿することでポイントを付与。貯めたポイントはアマゾン(Amazon)ギフトに換えることで買い物ができる。その不満を活用することで、企業や自治体などは、商品開発やサービス改善などに役立てる。

不満を投稿するユーザーは、メールアドレスと簡単なプロフィール(ニックネーム/性別/居住都道府県/生まれ年/職業/未既婚/子供の人数/世帯年収)のみの登録で費用負担はない。生活シーンで感じる不満を、1日10件まで1投稿15文字以上、256文字までつぶやくだけで個人名も表示されない。

不満を買い取ってくれるニーズが受け、今ではおよそ69万4000人の登録ユーザーから、1日3万件以上の不満が集まり、約3,000万件の前向きな「ご意見・ご要望」が蓄積されている。

2017年に代表取締役に就任した伊藤友博社長は、「当初会社名も不満買取センターだったことを、怪しい会社名」と笑いながら振り返る。「サービス名が社名になることでいち早く認知度が上がる利点もありますが、サービスの色が濃くなってしまいサービスを中心としたビジネス展開がしにくくなることもあり、現在のインサイトテックに社名を変更しました」と明かした。現在は、社員30人ほどにまでになり、システムエンジニアが10人、データサイエンティストが10人と開発・マーケティング、コンサル要員に重点を置いてきた。

伊藤社長は「店員の対応やテレビ番組に対する意見、食品や日用品など生活の中で感じた不満が多いですが、投稿されるのは必ずしも製品やサービスに対する意見だけではありません。投稿された市民の声を自治体は、政策立案や行政サービスの参考にすることもあります。世の中の最新の変化を捉えることができるのです。例えば、粉ミルクは外出先で溶かさなくてはなりません。しかし町中にはお湯がありません。そんな状況に、ホットミネラルウォーターがあったらいいとのつぶやきは、ポジティブな意見を企業などに直接届けることができます。でもデータの品質が大事なので、ポイ活のためだけに利用するのは遠慮してほしいですし、そういった方は長続きしない傾向がありますね」と控え目ながら不満も付け加えた。

同社の収益モデルは、データ販売は少なくロジックを活用して3,000万件のビッグデータを基にコンサルテーションすることでビジネスにつながる。膨大に蓄積されたデータを検索・抽出し、AIで解析して商品化。企業などへのコンサルが中心で、自然言語処理・機械学習などの人工知能(AI)を利用したデータ解析受託が中心事業だ。このほかはAIを活用したマーケティング、ご意見・ご要望を一手に受けるプラットフォーム、VOC(ヴォイス・オブ・カスタマー)と言えそうだ。

直近では、味の素株式会社、フランスベッド株式会社、株式会社J-オイルミルズ、伊藤ハム株式会社など大手企業が同サービスに投稿された不満を事業に生かしている。

■負の感情は嫌気、怒り、諦め、失望に分類
解析には、共同研究パートナーでもある、文章単位の構文解析など自然言語処理を研究する黒橋禎夫京都大学工学部電気電子工学科教授(大学院情報学研究科知能情報学専攻知能メディア講座言語メディア分野)の知見が生かされ、文章解析AI「ITAS(アイタス)」として解析エンジンの核となっている。

例えば、意見性のあるフレーズを「意見タグ」として抽出する「意見タグAI」。意見タグの内容が類似するもの同士を集約・分類し可視化マップにし、分かりやすくビジュアル化する「可視化AI」。テキストデータに含まれる感情を判定して分類する「感情分析AI」。特に負の感情は嫌気、怒り、諦め、失望に分類してくれる。そしてそれらを最適な組み合わせとして導き出すのが同社の強みだ。

新語も常に学習していく必要がある。本来「やばい」は、危険や不都合な状況が予測される場合の形容に使われるが、近年では「最高だ」とか「すごくいい」の意にも使われるようになった。ポジティブなのかネガティブなのかAIで徐々に学習していくことで精度を上げていく。

■インターン受け入れは採用目的ではない
伊藤社長は共同研究について、ビジネス資産を活用して、研究に役立つならと考えたのがきっかけと話す。しかしキラーコンテンツの提供はリスクも伴うことから、共同研究パートナーは黒橋教授だけと言う。

このほか毎年、京都大学や長岡技術科学大学などから2〜3人の学生を受け入れ、プロジェクトワーク型のインターンシップも実施。「インターンは積極的に受け入れていますが、採用目的ではありません。NLP(自然言語処理)は、日本は進んでいないとの課題認識の下、プロジェクトワークを前提としています。早い段階で、日本語のビッグデータビジネスに触れて、底上げになればいいと思っていますし、NII(国立情報学研究所)にもデータを提供し研究に役立ててもらっています」と大学や研究機関との連携に積極的だ。

一方で「企業は、収益を出すために結果を出さなくてはならず、研究に時間とお金がかかることは分かってはいますが、だからこそ地道に取り組んでいく必要があると思います」と共同研究に対するポジティブな意見も語った。さらに「意見に耳を傾けるのはめんどうだとか仕事を増やしてしまうように捉えられることが多いです。人は聞き心地のいい意見しか聞こうとしませんが、聞かないことがリスクになります。不確実な時代は、企業がいいと思ったものが売れるとは限りません。だから一人一人の声に耳を傾けてほしい」と願う。

ご意見・ご要望、お問い合わせには、ポジティブな意見もあれば、ネガティブな意見もたくさんある。その対応・不対応は、担当者に依存することがほとんどだ。いちいち反応していられないと思えば、スルーされる。

最近、筆者は、ある金融サービスで不明なところがありサイトをくまなく読み返し、よくあるお問い合わせも読み込んだが、どこにも説明が載っていなかった。近ごろはAIチャットボットで対応しているサイトも多く、このサービスでもAIチャットボットがしつこく登場し誘導してきた。しかし、何度も同じ問答が繰り返され、1時間ほど無限ループに陥った。オペレーターは、多くの問い合わせがあるのだろうから、いちいち応えていられないのだろうと、「埒(らち)が明きません」と諦めようとしたところ、タイミング良くオペレーターから返信があり解決したが、大事なことがサイトに示されていなかったことに驚いた。

不満買取センターは、対象企業に直接問い合わせはできないにしても、不満に関する会社名や団体、ブランド、商品名やサービス名も記入できるので、ターゲットに直接届く可能性もある。日常のポジティブなご意見・ご要望が集積されれば大きな力になるにちがいない。

(山口泰博)