株式会社Lily MedTech 代表取締役 東 志保

株式会社Lily MedTechは東京大学の技術シーズを実用化するべく2016年に創業された大学発ベンチャーだ。女性特有の疾患である乳がん専用の検査装置の開発・販売を行う。創業から5年経った現在まで、東京大学のキャンパス内にあるインキュベーション施設内にオフィスを構え、東大病院と臨床研究を実施するために医学部の敷地内に臨床研究や試作機開発のためのラボを抱えており、まさに東京大学が育てたベンチャー企業である。

2020年初頭からのCOVID-19蔓延も、徐々に国内のワクチン接種が進み、いずれは国民の半数以上がワクチンの2回接種を終え、日本人にとってCOVID-19 がこれまで程の脅威ではなくなる日も近い。しかし1年以上も不要不急の外出の禁止、在宅ワークが進むと、アフターコロナでの働き方や生活スタイルはビフォアコロナの状態に戻らないだろう。

まず大都市への人口集中は自然に緩和され、出産を望む若い世代の家族の地方移住は今後も増加していく。オフィスへの通勤頻度が下がり、より個人の裁量に委ねた柔軟な勤務が許され、また生活と就労の心理的距離が狭まることで勤務先でのコミュニティーが希薄化する代わりに、以前よりも残業時間が大幅に減少し家族と過ごす時間が増える。

これまで、新卒で企業に入社すると、家族と過ごすよりも多くの時間を同僚や上司、部下と過ごしてきた日本人にとって、これほどの大きな生活の変化はなかったが、アフターコロナではビフォアコロナで当然のように得ていた恩恵をどう転換していくかがイノベーションの鍵になると感じている。例えば、組織だからこそ得られる一体感、仲間意識、会社の飲み会を通じて偶然親交が深まる趣味仲間との時間、家族にはできない悩み相談、新鮮な出会い、など。

今は「パンデミック」を理由に全員が強制的に行動を制限されているため、全員で我慢することで大きなストレスを受けていなかった人も、ビフォアコロナで長年求めてきた「自由」を、アフターコロナで個人の裁量で選択できるようになると、人は人生を通じて何を成し遂げたいのか、何を人生に求めるのかを真剣に考えてこなかったことに気付き、時間の使い方の方針が見つからず不安になり、ストレスをため込んでいく。

第2次世界大戦後の高度経済成長の過程で、大都市への人口集中などにより、3世代家族などの大家族が減少し、核家族化が進展してきた流れがある中で、今度は就労先のコミュニティーからも切り離されると、社会における家族の役割が非常に重くなり、家族内でトラブルがあっても長期的に周囲が気付かない可能性が高い。

これをどう解決していくかが、イノベーションの役割と考える。

個人に過剰な順応性を求めずに、人が無理なく、便利に健康に自分らしく過ごせる社会の実現のために、イノベーションを起こす土壌を作り、社会全体に恩恵を与えていくのがイノベーションの目的で、社会構造と技術の両面から「あるべき社会」の実現のためにアプローチしてくことを望む。