オリシロジェノミクス株式会社 代表取締役 平崎 誠司


DNA合成・増幅技術を基盤とした企業で、細胞を使わずに長鎖DNAを増幅する革新的な技術に基づいた製品・サービスを提供しており今後の成長が期待される。また、日本だけではなく海外での事業展開を目指しグローバルでの企業体制を構築している点も高く評価された。


■無細胞の長鎖DNA合成でライフサイエンス研究やバイオ技術開発に破壊的変化
オリシロジェノミクス(OriCiro Genomics)株式会社は2018年末に設立されたバイオベンチャー企業です。立教大学理学部生命理学科の末次正幸教授が発明した、細胞を使わずに長いDNAを効率的に合成する技術(セルフリー長鎖DNA合成技術)を実用化する目的で発足しました。短いDNA断片は、広く知られているPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法により増やすことができますが、長さ約1万塩基以上の長いDNAを連結したり増幅したりするためには、これまで大腸菌など生きた細胞を使うことが必須でした。セルフリーの当社技術は、細胞を使うことに起因するさまざまな問題や制約を一気に取り払うことで、ライフサイエンス研究やバイオテクノロジー関連の開発・製造、中でもバイオ医薬の分野に破壊的変化をもたらすことができると考えます。

最初の製品として2020年に、長鎖DNAをセルフリーで連結・増幅できる研究試薬キットを国内外で発売しました。これをベースに今後、医薬向けのDNA製造や創薬基盤など新たな事業に取り組んでいきます。当社のコア技術は基礎的な基盤技術であるため、ヘルスケアにとどまらず、物質生産、食料、環境など幅広い産業分野で利用できる可能性を秘めています。この強みを生かし、「革新的なDNA技術の提供を通しより良いバイオエコノミーを実現する」という使命の達成に向け事業を展開しています。


■大学の研究成果を迅速に技術移転し製品化
当社は大学の研究成果を基に発足した典型的な大学発ベンチャーです。通常、バイオ分野の大学発ベンチャーでは、技術開発に時間を要するため設立から実用化まで数年以上かかるケースがほとんどですが、当社は事業開始から1年半足らずで最初の製品を発売することができました。この背景には、大学での研究で、既に技術開発の段階まで進んでいたという幸運な状況がありました。

元々、当社技術の発明者である末次教授は生命の最も根源的な働きであるゲノム(遺伝情報の総体)の複製機能に注目し、大腸菌ゲノムの複製メカニズムを解明する基礎的な研究に取り組んでいました。その過程で、大腸菌ゲノムの複製に必要な20種類以上の酵素を混ぜ合わせた反応液を用意すれば、大腸菌のゲノム(環状DNAの構造を持つ)が複製される反応を試験管内で再構築できるのではないかというアイデアを実行に移しました。その結果、一つの環状DNA分子がコピーされて二つになるだけでなく、それらが鋳型となって4個、8個、16個と倍々で増えていく現象を発見し、産業応用の可能性を見いだしました。その段階で研究試薬という当社製品のプロトタイプができ上がっていた状況です。基礎研究の過程で技術が発明され産業応用に派生するプロセスは過去に数多くの例がありますが、当社技術もそうしたケースの一つと言えます。

事業開始にあたって最も重要だったのが知財の確保です。当社のような技術開発型ベンチャーにとって、自社技術を特許で保護することは事業を進める上で必須の要件です。末次教授の研究はハイリスク・ハイインパクトの研究開発を対象とする国の助成プログラムであるImPACT(革新的研究開発推進プログラム)の一環として実施され、研究成果に基づいた特許は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)から出願されていました。当社はImPACTの終了に伴いJSTから特許権の有償譲渡を受け、早期に知財環境を整えることができました。その後も、新たな事業展開を見据えて積極的な特許出願を行っています。

もう一つの重要な展開は製造体制の構築です。当社のコア技術は上述の通り20種類以上の酵素の混合体です。それぞれの酵素がきちんと働く必要があるのはもちろん、全てを混ぜ合わせたものがDNAを複製する、目的の機能を発揮しなければなりません。いわば、さまざまな楽器で構成されるオーケストラが調和の取れた美しい音楽を生み出すのに似ています。個別の酵素の製造以上に、それらをどのような配合で混ぜ合わせるかといった部分には高度な知識と経験、ノウハウが求められます。この製造プロセスを立教大学から当社に速やかに技術移転し内製体制を整えることができたことが、早期の製品発売につながりました。ノウハウを含む技術移転は文書情報の受け渡しだけでは難しく人の存在が不可欠ですが、当社の場合も酵素製造の深い知識と経験を持った人材が加わったことで可能になりました。

これまでさまざまな外部組織の支援を受けて事業を展開してきましたが、主要な投資家であるUTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)からは、設立前のコンセプト固めの段階から、これまで資金、人材を含めた幅広い経営支援を受けています。


■グローバル市場を見据えて積極的に海外展開
設立から3年近くが経ち、2回目の資金調達も完了した現在、当社は次の段階への移行期にあります。具体的には製造能力の拡大、新規事業を見据えた研究開発の推進、および海外展開の3点です。これまでは小規模な製造にとどまってきましたが、今後の事業展開のためには酵素の製造能力を大幅に高めることが必須です。そのため年内に、より広いスペースの製造拠点に移転します。さらに、創薬基盤を中心とした新規事業を立ち上げるため、研究者の採用を進めて研究開発を加速させます。

また当社は、設立当初からグローバル市場を念頭に事業を進めてきました。当社のような技術に、国境はないからです。米国での子会社設立を軸に、海外での販売拡大、海外企業との取引を積極的に進めていきます。ベンチャーの成長期にはさまざまな落とし穴もありますが、この段階を乗り越えて、さらにその先にある「DNA技術に関するグローバルリーダー企業」になるという目標に向かって事業を展開していきます。