早稲田大学 理工学術院 教授
山口 勉功

■開発技術の概要
カーボンニュートラルへ向けた取り組みとして電動車の普及が望まれている。高温プロセスである乾式製錬の技術を用いることで、電動車モーターの解体や磁石の消磁をすることなく、プロセスを簡略化することで、作業時間を従来比50%削減できるレアアース回収技術を早稲田大学と日産自動車株式会社の産学連携により確立した。

■背景と経緯
菅義偉前内閣総理大臣による所信表明演説により、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラルと2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減する排出削減目標が発表され、目標の達成に向けた具体的な施策の実行が求められている。2019年のわが国のCO2総排出量は11億800万トンであり、旅客と貨物を合わせた自動車の排出量は1億7700万トン(16%)を占める**1。自動車の電動化によるCO2の削減が望まれており、わが国も2035年までに新車販売で電動車100%を実現することを表明している。

2019年の自動車の世界生産台数は9,200万台程度で、日系自動車メーカーの海外生産を含めた生産台数は2,850万台に及ぶ。2020年のわが国の乗用車におけるハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)を合わせた電動車の販売台数は135万台となっている**2。CO2の排出削減に向けて、電動車の販売台数は増加すると予想される。

電動車では駆動用や発電用のモーターが不可欠である。磁石を使用しない自動車駆動用モーターが日産自動車の「アリア」で採用されたが、多くの電動車のモーターにはモーターの小型高性能化の観点から、ネオジム磁石が使用されている。ネオジム磁石には希少金属であるネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムなどのレアアース(rare-earth element:REE)が用いられている**3。近年ではオーストラリアやベトナムなど中国以外の国からもレアアースが産出されるが、重希土類のジスプロシウムやテルビウムは中国などに限定される。また、レアアース鉱床は放射性物質を含む場合もあり、レアアースの製錬や精製においてはその処理と管理が不可欠となる。さらにカーボンニュートラルの実現に向けて、電動車用モーターとともに風力発電やエアコンなどの省電力家電におけるレアアースの需要は増加していくと考えられる。このようにレアアースの資源偏在性、環境負荷、需給バランスを考慮する上で、レアアースのリサイクルは急務となっている。

電動車にはネオジム磁石が1.25kg/台程度使用され、磁石質量の3分の1程度がレアアース成分である。2019年の自動車の生産台数実績の全てが電動車になった場合、38,000トンのレアアースが必要となる。一方、2030年には102.5万台/年の廃車が出ると予測され、1,280トン/年の廃ネオジム磁石量が発生し、430トン/年のレアアースが廃棄物となる**4。

現在の電動車用モーター磁石のリサイクルは、製造工程内で発生する不良品モーターから磁石が回収され、ほぼ100%リサイクルされている。不良品モーターはローター(回転子)、ステーター(固定子)、ハウジングに分解した後、ステーターはさらに分解され、銅線と鉄系スクラップが分別される。ローターはネオジム磁石から発生する強い磁力を有することから350〜500℃に加熱し、熱脱磁を行った後に分解し、ネオジム磁石が回収される。回収された磁石は高温で真空再溶解し、磁石用の母合金となる。電動車用の磁石原料として再使用するためには、磁石中の炭素と酸素の濃度をそれぞれ100、300mass ppm以下にする厳しい不純物目標がある**5。真空溶解では炭素を除去することが困難であり、回収したネオジム磁石を粉砕、酸化焙焼でレアアースと鉄を酸化した後、湿式処理することでネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムを含む複合レアアースが酸化物や塩化物として回収され、電動車用のモーター磁石として再生される。一方、市中からの使用済みモーターからのレアアースのリサイクルは、回収と輸送のシステムがない、回収と分別の経費が高いなどの理由により実現されていない。

筆者らはネオジム磁石のリサイクルの現状を踏まえ、磁石の消磁やモーターの解体の省力化が可能な高温プロセスを用いた乾式製錬技術により、ネオジム磁石からのレアアース回収の研究を行ってきた。一方、日産自動車は、車両の電動化推進によるカーボンニュートラル社会実現とともに新規採掘資源依存ゼロを目指す「ニッサン・グリーンプログラム2022」を掲げ、電動車用モーターにおけるレアアースの使用量削減とともに、モーターのネオジム磁石の再生利用に積極的に取り組んでいる**6。しかしながら、現状のプロセスは手作業によるモーターの熱処理、解体、取り出しが必要であり、今後のリサイクル促進のために、簡便で低コストのリサイクル技術開発が必要と考えていた。

早稲田大学の各務記念材料技術研究所には、実際の電動車用モーターで実験可能な100kgの大型熔解炉を現有していることもあり、2017年から早稲田大学と日産自動車の産学連携により、簡便な電動車用モーター磁石からのレアアース回収技術の開発を開始した**6。

■内容と成果
一例として電動車の駆動用モーターのローターを写真1に示す。ローターは電磁鋼板などの鉄系材料と1.75kgのNd-Fe-B系のネオジム磁石から構成されている。磁石中のネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムの濃度は、それぞれ21、5.0、2.5、0.4mass%でレアアース濃度の合計は28.9mass%であり、残りが鉄とボロンである**3。ローターは強い磁力を有するため、モーターの解体やネオジム磁石の回収には熱消磁が欠かせない。また、モーターは駆動時に発生する力や振動に耐え得るように堅牢に設計と製造がされており、解体が非常に難しい部品となっている。

開発した電動車用モーターからのレアアースのリサイクルプロセスを図1に示す。この方法は電動車用モーターから回収されたローターを熱消磁や分解することなく、磁石中の希土類元素をNa2B4O7フラックスにより溶融酸化物(スラグ)として回収する方法である。

はじめに、熱消磁を行っていないネオジム磁石を含有するローターを加炭材とともに1,400℃程度で溶融する。次いで酸化鉄を加え、磁石中のレアアースを選択的にNd2O3などのレアアース酸化物にする。Nd2O3の融点2,270℃に代表されるように、レアアース酸化物の融点は極めて高温であるため、レアアース酸化物の融点を低下させる目的でNa2B4O7フラックスを添加し、Na2B4O7-RExOy系(RE : Nd,Pr,Dy,Tb)の溶融スラグとする。ローターとネオジム磁石の主成分である鉄は加炭材と反応して溶融Fe-C系合金となる。スラグは溶融Fe-C系合金に比べて密度が小さいため、密度差でFe-C系合金の鉛直方向上部に分離され、溶融分離したNa2B4O7-RExOy系スラグを炉から回収する。ローターから分離されたFe-C合金中のレアアースは0.1mass%以下であり、97〜98%の回収率で磁石よりレアアースを回収することが可能である。Na2B4O7-RExOy系スラグは現行法の湿式処理を施すことで、高純度のレアアースの複合酸化物として回収される。

湿式処理により回収された複合レアアース酸化物を写真2に示す。ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムなどのレアアース酸化物の合計の濃度は99.3mass%程度であった。また、溶融処理と湿式処理を通したローターからのレアアースの理論的回収率は97〜98%程度である**3。

乾式製錬法を用いることで熱消磁や解体を簡略化することができ、電動車モーターからレアアースを回収する作業時間を従来比50%削減することが可能となった。また、本技術は、今後予測される市中から回収される使用済みモーターを大量に処理することも容易にする。

■今後の方針と課題
大学設備の100kg溶解炉を用い、実際の電動車用モーターからレアアースを回収する技術を確立した。今後は2020年代中ごろの実用化を目指し、学外の1,000kg程度を処理可能な溶解炉で実証実験を継続していく予定である。また、市中の使用済み電動車に搭載されたモーターを回収、輸送するスキームの構築を進め、電動車モーターからのレアアースリサイクルのシステムを確立していく必要がある。

参考文献
**1:
国立研究開発法人国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィス:日本の温室効果ガス排出量データ(1990〜2019年度)確報値

**2:
一般社団法人日本自動車工業会ホームページ:日本の自動車産業

**3:
和田浩樹,荒井誠也,小川和宏、山口勉功、日本金属学会誌,85(2021),pp.395-365

**4:
環境省産業構造審議会産業技術分科会廃棄物・リサイクル小委員会自動車リサイクルWG中央環境審議会循環型社会部会自動車リサイクル専門委員会第37回合同会議資料,(2015)

**5:
T.Elwert, D.Goldmann, F.Roemer and S.Schwarz,J. Sustain. Metall. 3(2017), pp.108-121

**6:
日産自動車ホームページ

注)仕様上、写真、図表の掲載が1点のみとなっています。他の写真図表は、産学官連携ジャーナルでご覧ください。