島根県安来市に主力工場を持つ金属部品製造などのプロテリアル(旧日立金属、本社・東京都江東区)が、グループ会社を含む国内の従業員約1万2千人のうち、1500人程度を削減する方針が明らかになった。安来市内でも工場やグループ会社の100人から300人程度の削減が想定されているとみられる。人員整理の背景、地元の雇用や産業への影響を探る。

 「極めて危機的な状況にあり、経営計画を達成できない」。4月、安来市にあるプロテリアルグループの事業所で働く中堅従業員は同僚と共に上司から今後の経営方針の説明を受けた。

 グループ計約1万2千人の1割強に当たる1500人の削減。「外資の手が入り、経営がシビアになるとは思っていたが、これほどとは」。従業員の脳裏をこんな思いがかすめた。

 上司は社内資料を読み上げ「高コスト構造が会社の将来にとって大きなリスクになっている」と続けた。ほどなくして社内では、製品製造に直接携わらない企画職や管理職など間接部門の従業員を対象に、早期退職者の募集が始まった。


▼間接部門にメス

 社員向け説明資料によると、グループの業績は2023年度まで9期連続で計画割れに陥っている。旧日立金属時代を含めてここ10年ほど、自動車用鋳物や航空機エンジンの材料製造メーカーなどの積極的なM&A(企業の合併・買収)を推進。13年度に8077億円だった連結売上高は22年度に4割増の1兆1189億円に拡大した。だが、その効果をうまく生かせず、20年度は422億円の最終赤字となり、2期連続で赤字となった。

 プロテリアル向けが売り上げの9割を占める島根県内のある企業の直近の売上高は10年ほど前のピーク時から約3割低下。経営者は「コロナ禍による航空機分野の不振や中国の不況の影響もあってか、発注量が大きく減った」と、窮状をうかがわす事実を明かした。

 旧日立金属の親会社、日立製作所は22年、米ベインキャピタルなど3社によるファンド連合に売却。ファンドのもとで経営再建を進める決断をした。

 関係者によると、プロテリアルの全従業員数に占める間接部門の人員比率は3割で、製造業の中では比較的高い。厳しい経営環境下で、ファンド傘下の経営陣は直接収益を生まない間接部門の合理化に踏み切ったとみられる。


▼主力の安来工場

 安来市内には安来工場(安来町)のほか、子会社のプロテリアルプレシジョン(恵乃島町)、プロテリアル安来製作所(飯島町)があり、計約3千人が働く。このうちの100人から300人程度が削減対象とみられる。

 主力の安来工場は自動車や航空機・エネルギー産業、工具などに広く使われる特殊鋼製品をつくり、年間約1200億円(22年度)を売り上げる。島根県の製造業の合計売上額約1兆2835億円(21年度)の約1割をなす巨大工場だ。明治期の1899年に創業し、たたら製品を生産した雲伯鉄鋼合資会社をルーツに持つ同工場は、安来に企業城下町を築いた。揺らぐ工場の行く末を従業員、関連会社、行政など多くの関係者が見守る。

 人員整理の背景についてプロテリアル経営戦略本部コミュニケーション部の担当者は「詳しいことは申し上げられない」と述べるにとどめた。合理化の果てに何があるのか、まだ見えない。


ーーー
■プロテリアル安来工場 
 明治期の1899年に創業し、たたら製品を生産した雲伯鉄鋼合資会社が前身。経営再編などを経て1967年に日立金属安来工場となった。2023年1月に米ベインキャピタルなど3社によるファンド連合の傘下に入る組織再編で、プロテリアル安来工場に工場名が変わった。プロテリアルは島根県に加え、鳥取県や埼玉県、福岡県、栃木県、三重県、茨城県などで事業拠点やグループ会社を展開する。