7月7日投開票の東京都知事選の論戦を通じ、都と地方の格差が浮き彫りになっている。圧倒的な財政力を背景に、3期目を目指す小池百合子都知事が高校授業料の実質無償化を始めたほか、候補者の選挙公約でも地方では実現が難しい政策が並ぶ。島根、鳥取両県や首都圏の知事は東京一極集中の加速を懸念し、国に格差是正を求めている。

 小池知事は昨年末、年収910万円未満の世帯に限っていた所得制限を撤廃し、私立高を含めた高校授業料の実質無償化を表明。関連費用として計641億円を確保し、都知事選告示日の20日に申請が始まった。

 異論を唱えたのは隣接する埼玉、千葉、神奈川の3県知事だ。都内在住の生徒は隣県の私立高校に通う場合も対象となる一方、隣県在住で都の私立高校に通う生徒は対象とはならず、「地域間格差が拡大し、東京一極集中の流れを加速させる」と懸念。5月上旬に格差是正を国に要望した。

 ただ、国の反応は鈍く、盛山正仁文部科学相は会見で「各自治体が独自の支援に取り組むべきものであると思う」と話した。

▼財政力の差歴然

 都と地方の財政力の差は歴然としている。都の2024年度一般会計当初予算は8兆4530億円で、自主財源が76%(6兆3865億円)を占める。一方、島根県は当初予算4617億円のうち自主財源は32%(1477億円)にとどまり、政策に投資しにくい構造にある。

 財政の体力を表し、高いほど余裕があることを示す「財政力指数」は、22年度に島根は0・25で47都道府県の中で最下位、鳥取県は0・27となる一方、都は1・06と唯一、1を上回った。数値が高いほど自由に使える財源が少ないことを示す「経常収支比率」は同年度、島根県90・1に対し、都は79・5だった。

 都の高校授業料の実質無料化の費用641億円だけで、島根県の年間の人口減少対策関連予算(774億円)の8割以上に上る。

 小池知事が2期目に1200億円をかけて実施した0〜18歳全員への月5千円支給を島根県で実施した場合、60億5700万円が必要になる。それぞれの自主財源に占める割合は都1・8%に対し、島根県は4・1%と高く、実現の壁は高い。

 無所属新人の蓮舫氏が選挙公約に掲げる学校給食無償化は、島根県によると、県内の全小、中学生を対象に実施した場合、28億3千万円が必要という。

▼大盤振る舞い

 首都圏3県の懸念を受け、関東地方知事会は5月下旬、国に財政措置や就学支援金の拡充を求める要望書をまとめた。会長を務める小池知事も「高校授業料の実質無償化は国が責任を持って取り組むべきだ」と同調した。

 財源の格差が子育て環境の格差につながる現状に、島根県の丸山達也知事は今月4日の定例会見で「税源の偏在によって生じている問題で、どう是正するかが解決方法の一つだ」と主張。鳥取県の平井伸治知事は今月6日の定例会見で「国全体で考えるべき課題だ」と強調した。

 国全体で人口減少が進む中、都の女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は23年に1を割り込み、0・99となった。丸山知事は6月定例県議会の質問戦で「地方から人口を吸引した上で減らしている」と述べ、日本が抱える構造的な問題を指摘した。

 「大盤振る舞い」が全国最低の合計特殊出生率の引き上げにつながるのか。地方は都知事選を歯がゆい思いで見つめている。