障害や病気でうまく話せない人の指のわずかな動きを感じ取って意思疎通する「指談(ゆびだん)」。山陰両県内に少なくとも20人程度が使うが、手話や点字に比べて認知度は低い。関係者は習得することで家族ですら困難だった「会話」が可能になるなど意義を訴え、伝達手段の一つとして普及するよう願う。 

 指談はオーストラリア発祥。介助者が当事者の指を手に取って自分の指の腹や手のひらに当て、わずかな動きから文字や数字、「〇(はい)」「/(いいえ)」などの記号を読み取るほか、筆記用具を動かす介助をする。

 「娘は伝える手段がなかっただけで、文字や言葉を理解していた」。松江市の母親(52)が振り返る。

 娘(26)は、神経発達障害「レット症候群」を抱え、思うように手足を動かすことができず、発語もできない。娘の意思や感情を知る手段は、表情の変化や目線でくみ取るしかなかった。

 転機は2022年秋に友人と一緒に参加した指談のワークショップだった。講師が娘の手を取って簡単な指談を指導し、質問を投げかけると、指先を動かして応答。講師から「文字や言葉を理解している」と伝えられた。母親は「衝撃が走った。指談を知っていればもっと早く自分の意思を示すことができていた。申し訳ない」と話し、娘は「伝えることができる」と喜ぶ。

 山陰両県内で指談を使う人数は不明だが、普及活動に取り組む「指談の会ゆびさき」(米子市)の天野依子代表(61)によると、周囲に20人程度おり、介助者も30人いるという。「必要とする人はもっといる」と話す。

 一方、課題もある。周りの人に「介助者は当事者の意思をきちんと伝えているのか」という疑念を持たれることもあるという。天野代表は普及していないことが背景にあるとし、「手話や点字のように当たり前の伝達手段として知ってほしい」と願う。

 行政も普及を図る取り組みを検討する。6月17日の島根県議会本会議の一般質問で、県健康福祉部の安食治外部長が「指談で自分の意思を表現できる人がいることを周知する必要がある」と答弁。まずは県職員が基本を知る研修の実施を検討する考えを示した。