「爆買い」は過去に、訪日客の「自然観光」が脚光 新たなオーバーツーリズム生む課題も

産経ニュース6/7(土)16:00

「爆買い」は過去に、訪日客の「自然観光」が脚光 新たなオーバーツーリズム生む課題も

京都や大阪などに集中する訪日客の地方への誘客として、森や海といった自然を楽しむ観光が脚光を集めている。体験型観光「コト消費」を好む訪日客が増えていることに加え、国も地方が持つ自然の観光資源化に注力しており、双方のニーズが合致する。ただ富士山などでは観光客の増加が地域に悪影響を与えるオーバーツーリズム(観光公害)が問題になっており、生態系を守りながらの持続可能な自然観光の確立には課題も残る。

登山や釣り目当てに訪日

「登山や釣りを目当てにした来日が少なくない」。大阪市内のある高級ホテルの広報担当者は、訪日客の観光傾向についてこう話す。「日本に1カ月ほど滞在し、荷物を客室に置いたまま泊まりがけで地方へ足を延ばす人もいる」という。

自然を体験する観光市場は世界的に成長が期待される分野だ。インドの民間調査会社ReAnInの試算によると、自然観光が中心のアドベンチャーツーリズムの世界市場は2023年に7698億ドル(約112兆円)に上った。24〜30年は年平均で6・3%の成長を予想する。

日本政策投資銀行と日本交通公社が実施した昨年の調査(複数回答)では、訪日旅行で体験したい1位は「自然や風景の見物」(58・1%)で、2位に「桜の観賞」(51・3%)が続いた。かつて「爆買い」として話題になった「ブランド品や宝飾品の買い物」は30位以下だった。

新業態ホテル「LUCY」

こうした中、国は全国に35カ所ある国立公園の観光資源化を推進。滞在体験の魅力を高めることで、1回の旅行で総額100万円以上を消費する訪日客の増加を目指している。

自然体験型テーマパーク「ジャングリア沖縄」の開業を7月に控える沖縄県北部もその一つ。また星野リゾート(長野県軽井沢町)は山岳観光の初心者層を狙う新業態ホテル「LUCY(ルーシー)」を立ち上げ、1号店を9月、尾瀬国立公園(群馬県)の入り口、鳩待(はとまち)峠で開業する。

自然観光で長野県や高知県などと連携する大阪観光局は「日本列島は南北に長く、四季ごとに表情を変える豊かな自然が魅力。大阪を入り口に訪日消費をもっと地方へ広げられる」と話す。

エベレスト入山料36%引き上げ

一方、地方へ多くの観光客が押し寄せることで、自然環境が破壊される懸念もある。

訪日客に人気の富士山では、登山客によるごみの問題が深刻化している。富士山登山道の清掃活動に取り組む団体は「大型の不法投棄が少なくなった半面、空き缶やペットボトル、菓子の包み紙などのポイ捨てがなくならない。ごみの誤飲など野生動物への被害も深刻だ」と明かす。

自然観光が盛んな海外でも環境への悪影響は顕在化している。米ハワイ大海洋生物研究所の調査によると、観光客に人気のハワイ・ハナウマ湾自然保護区は新型コロナウイルス禍中に閉鎖、休業したことで水質が大きく改善。生息するウミガメも増えたという。このため同区は21年7月から入場料を約2倍に値上げし、1日の入場を最大1400人に制限している。

また、世界最高峰のエベレストは今年9月から外国人の入山料を36%引き上げ、登山者の抑制を図る。

自然観光を本格化させたい日本でも海外の先例に学びつつ、地方における観光振興と自然環境保護の両立が求められる。

観光客に気づき促す「インタープリテーション」

自然観光を地方創生につなげるには、自然環境を守りながら観光する「エコツーリズム」の浸透が不可欠だが、それには観光客がそこにある自然の意味や価値を知ることがまず重要となる。

海外では体験や教材を通してガイドが観光客に気づきを促す「インタープリテーション」の普及が進んでおり、米国では全59の国立公園で魅力や価値を来訪者に伝える「インタープリテーション全体計画」を導入する。

一方の日本では、35カ所ある国立公園のうち、昨年2月時点で計画を策定しているのは日光国立公園内の「那須平成の森」(栃木県)など、公園の一部区域や施設を対象にした4件にとどまる。米国では国立公園は国有地であり、内務省が管理して厳格な自然保護がしやすいのに対し、日本の国立公園は私有地を多く含んでいることが背景にある。

ただ日本でもホテルが独自に取り組む例が出始めている。沖縄県の西表島にある「西表島ホテルby星野リゾート」は、全ての宿泊客が島内でのマナー解説を受けた上でチェックインしなければならない。また島の生態系を客に解説する無料ツアーを実施するなど、インタープリテーションに近い仕組みを取り入れている。(田村慶子)

観光客いるからこそ守れる自然も 立命館大の遠藤英樹教授

政府が定める2030年の訪日客6千万人の目標達成にはオーバーツーリズム(観光公害)の解消が欠かせない。その打開策として、国は国立公園の観光資源化など自然を生かした地方誘客に力を入れている。

ただ、それにはそれぞれ地域の合意を得た上で生態系保全の対策が合わせて計画されるべきだ。訪日客分散の受け皿を増やすためだけに推し進めれば、地方が犠牲になりかねない。

景色を眺めて、ただ「美しい」と言って終わる自然観光も少なくない。そこでは自然や歴史・文化の価値を学びながら観光し、環境保全につなげる「エコツーリズム」の本来の意味が失われている。

環境を壊さずに観光することを客に求めるのなら、地域住民にも責任が伴う。その自然がどのように生まれ、何をどう守り育てるのかという地域のあり方を考え、実践することが求められる。

観光振興が自然環境破壊につながる懸念はある。だが関係人口が増え、運用や管理できるようになるという意味で、観光客がいるからこそ守れる自然や文化もある。地方の衰退が叫ばれる中、日本はそうしたことも考えなければならない時代にきている。

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