公開中の作品から、映画担当の記者がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。

「フェラーリ」

主人公はフェラーリ創業者、エンツォ・フェラーリ。エンジンは強力だが安全対策は貧弱だった時代のレースに、文字通り命懸けで挑む男たちを描く。

1957年。エンツォ(アダム・ドライバー)は財政難や妻、ラウラ(ペネロペ・クルス)との不和、愛人との間にできた息子の認知問題で追い込まれていた。彼は起死回生の策として公道レース「ミッレミリア」に社運を懸ける。

「ヒート」のマイケル・マン監督らしく、衝突しながら目標に向かう男たちを生き生きと描く。

ドライバー演じる冷徹で確信に満ちたエンツォは見応えあり。甲高いエンジン音に激しくブレる映像など、荒々しいレース描写と、再現されたレーシングカーの曲線美が魅力的だ。

だが、次第に当時のレースが濃密な「死の影」に覆われていることに気づく。作品の主題はむしろそこにあったのだ。山場で起こる大惨事の映像は壮絶で言葉を失う。

一方、ラウラの造形は浅く、魅力を感じられない。

12歳以下の鑑賞には保護者らの助言・指導が必要。米映画。

5日から全国公開。2時間12分。(耕)

「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」

漫画家で絵本作家、やなせたかしの、おなじみのアンパンマン。その映画シリーズの35作目だ。

「クレヨンしんちゃん」のように大人も泣ける劇場版というわけではなく、子供の「映画館デビュー」のための作品という位置づけで、一緒に歌い、踊れる場面から始まる。

敵役のばいきんまんが主役なのが話題。妖精から助けを求められたばいきんまんが、絵本の中で暴れる凶暴なゾウと戦うが、とうていかなわない。そのとき、ばいきんまんは…。

負けても負けても立ち上がるばいきんまん。身をていして他人を救う無私のアンパンマン。すべての子供たちに伝えたいことが、ここにはある。

公開中。1時間4分。(健)

「潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断」

伊潜水艦が題材の珍しい作品。エドアルド・デ・アンジェリス監督が第二次大戦中の実話に基づき、海の男たちの絆を描く。

1940年、伊潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、ベルギーの武装貨物船カバロ号を轟沈。トーダロ艦長(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)は、投げ出された多数の乗組員を見て、救助を決断する。

実物大の潜水艦を造っての撮影とあって、リアルな質感、重量感が魅力。敵の救助で狭い艦内外に人があふれ、潜航もできずに敵海域を進む。艦長への反発、敵味方の反目、さらに英海軍との遭遇…と見せ場満載の作品。ただ、感傷的なモノローグの多用は頂けない。伊・ベルギー合作。

5日から全国公開。2時間1分。(耕)

「メイ・ディセンバー ゆれる真実」

36歳の女性教師で既婚のグレイシー(ジュリアン・ムーア)は、アルバイト先で知り合った13歳の少年、ジョー(チャールズ・メルトン)と情事を重ね、児童レイプ罪で逮捕される。

獄中でジョーとの間にできた子供を出産。刑期を終えると2人は結婚し、平穏な日々を送っていた。そんな中、事件の映画化が決まり、グレイシーを演じることになった女優、エリザベス(ナタリー・ポートマン)が2人のもとを訪れ、リサーチを始めると…。

1990年代、米国で実際にあったメイ・ディセンバー事件を題材に、23年後の当事者たちの深層心理に迫った作品。監督はトッド・ヘインズ。15歳未満は鑑賞不可。米映画。

12日から全国公開。1時間57分。(啓)