長さ8メートルの杉カウンターで 第一列車⑦ 別府に投宿のサンケイ君に落胆の色、の巻 令和阿房列車で行こう2025 西へ東へ
産経ニュース6/7(土)10:00

2号車は杉の一枚板カウンターが売り。「かんぱち」のマドンナが、地ワインを勧めてくれた(サンケイ君撮影)
由布院駅でどっと乗客が降りた。特急「かんぱち」は観光列車なので、由布院で降りても別府で降りても1人1万9500円。終点まで乗らないなんて「もったいない」と思うのは鉄道愛好家だけだろう。
《キハ185系は同期の桜》
間もなく大分側から真っ赤なボディーが嬉(うれ)しいキハ185系特急「ゆふ74号」が入線してきた。「ゆふ」を待つ向かいのホームは、大きなトランクを抱えた外国人観光客であふれている。「ゆふ」は一時、利用客が減って2両編成に減車された時代があったが、今は5両で運転される日もあるという。インバウンドさまさまである。
キハ185系は、国鉄民営化の前年、昭和61年に登場した国鉄最後の特急形気動車だ。
同じ年に入社した小生は、キハ185を同期の桜だと勝手に思い込んでいる。来年は車(社)歴40年。お互いかなりガタがきているが、もう少し頑張ろうじゃないか。
《至福の4時間40分だった》
由布院を出発すると、あと1時間と少しで終点に着いてしまう。博多―別府間を4時間40分かけて走る「かんぱち」だが、至福の時間は、あっという間に過ぎていく。
感傷に浸っている暇はない。グズグズしないで、2号車「ラウンジ杉」に行こう。
2号車は共用スペースになっていて、樹齢約250年という杉の一枚板がカウンターとして鎮座している。
これが長いのなんの。8メートル近くあるそうで、止まり木(椅子)さえあれば、何杯でも水割りが進むところだ。残念ながら還暦を過ぎた身には、揺れる車内で立ち飲みは極めて難しい。
カウンターの向こうで笑顔を絶やさない客室乗務員の勧めに素直に従い、白の地ワインを注文し、大人しく自席で吞(の)むことにしよう。ここでサンケイ君、新聞記者らしく、マドンナ、いや客室乗務員さんの勤務状況を具体的に尋ねた。
「明日の『いちろく』に乗務するため、今夜は別府に泊まるんですか?」
解説すると、別府に着いた「かんぱち」は、一夜明けると「いちろく」に変身して博多へ向かうのである。だが、彼女の答えは極めてシンプルだった。
「いえ、本日中に博多まで戻ります」
特急「ソニック」なら博多まで2時間もかからない。
食堂車を連結し、一昼夜かけて東京と九州を結んだ昭和のブルートレイン「富士」「さくら」の時代なら乗務員は、終着駅で一泊し、翌日も同じ列車で戻ったものだが、時代が違う。別府に投宿するサンケイ君の顔にいささか落胆の色が見えたが、武士の情けで黙っていることにした。
締めの白ワインをちびちび嗜(たしな)んでいると、右手に海が見えてきた。ほどなく16時59分、終着別府駅に滑り込んだ。
第一列車は、これでおしまい、ではない。今宵(こよい)は名湯につかり、翌朝は、この国に残された数少ない長距離特急に乗ることにしよう。そのあれこれは、また明日のこころだぁ!(コラムニスト 乾正人)











