手のひらに収まる小さな絵本「豆えほん」。福岡県福津市のイラストレーターで絵本作家・かわばたたつやさん(60)が、10年以上にわたり作り続けています。「世界で最も小さな絵本出版社かも」というマンション一室の自宅兼仕事場を訪ねました。

中高時代の経験を生かし

 縦6.8センチ、横6センチ、厚さ1センチで、全40ページの豆えほん。ハードカバーの表紙、糸を用いた中とじなど、小さくても製本は本物のクオリティーです。かわばたさんは「1冊ずつ手作りです。”一人出版社”のつもりでやっています」と話します。

 山口県下関市出身のかわばたさん。工業高校を卒業後、福岡県内の家具会社や求人広告業界などで働きました。求人広告誌の仕事にかかわる中でイラストを任されることもあり、デザインの仕事が次第に増えて、イラストレーターとして独立しました。

 イラストレーターとして活動する一方、かねて興味をもっていた絵本の創作ができないかと、同業の仲間らと機会をうかがっていたといいます。ただ、絵本の自費出版にはかなりの費用が必要です。そこで思い立ったのが「豆本」でした。

 かわばたさんは中高生の頃、漫画『ブラック・ジャック』『宇宙戦艦ヤマト』などの「豆マンガ」を手作りしていました。その経験を生かせる豆本であれば、「費用を抑えて自分で絵本を作れる」と考えるようになったそうです。

豆本に詰まったこだわり

 2013年9月、「手づくり豆えほんやら マメカバ本舗」の屋号を掲げ、豆えほんの出版を本格的に始めます。これまでにプロ、アマを問わず計17人がオリジナルの30作品を世に出しました。絵・文ともに、かわばたさんが手がけた2作品も含まれています。

 「自分の新作を書きたい思いもありますが、製本作業が楽しい。ものづくりがやっぱり好きなのかな」。豆えほんを出版したい人を随時募集しています。

 1冊(40ページ)を作るのに必要な紙は、A3用紙1枚でまかないます。表紙には厚紙を用意し、糸でとじた本編と合わせて仕上げます。接着の時間などを含め、完成までに5日ほどかかるそうです。

 「糸を通す小さな穴を開けるには、たこ焼きピックが最適」「スプーンの背でこすると、ページの折り目がしっかりつく」――。使う道具はどれも身近にあるもの。製作の工程や工夫を知れば知るほど、小さな本に詰まったこだわりに驚くばかりです。

全国の書店に広めたい!

 豆えほんはネット販売のほか、手に取って選べる書店も福岡県内にあります。JR香椎駅(福岡市東区)そばの「テントセンブックス」は、豆えほんコーナーを設置。店によると、孫へのプレゼントだったり、海外の人が買い求めたりするそうです。

いすの上に設けられた「テントセンブックス」の豆えほんコーナー

 紙の出版物が苦戦する中、子どもから大人まで幅広く楽しめる絵本の人気は堅調とのこと。豆えほんはストーリーに加え、見た目の個性も際立ちます。インテリア雑貨としてコレクションする楽しみもあります。かわばたさんは「全国の書店に豆えほんを置いてもらえるよう、もっと広めていきたい」と語ります。

◆小竹町で原画展

 福岡県小竹町の「絵本館 木のうた」は、豆えほんの展示販売と原画展を6月18日まで開いています。