巨大地震が起きる可能性が普段よりも高まったときに発表される「南海トラフ地震臨時情報」。初めて発表されたとき、どう対応すれば良いのか。日本一高い津波が想定されている高知県の町が考えました。

<京都大学防災研究所 矢守克也教授>
「臨時情報に対する準備を非常に具体的なレベルで行っている自治体は、全国見回してもほとんどないと言ってもいい状況だと思います」

2024年1月30日、高知県西部の町、黒潮町で開かれたワークショップです。「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたとき、町役場がどう対応するのかを考え、防災情報の専門家が監修しました。

南海トラフ巨大地震の想定震源域は、静岡から九州の沖まで広がっています。この領域で「マグニチュード6.8以上の地震が起きたとき」や「地殻変動を観測するデータに通常とは異なる変化があった場合」に、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報調査中」を発表し、専門家による検討会を開くことにしています。

そして、調査の結果、さらなる巨大地震に注意・警戒すべき時には「巨大地震注意」または「巨大地震警戒」とキーワードをつけた「臨時情報」を発表します。

津波高34m想定の町が考える「臨時情報」への対応

<岩﨑大輔記者>
「高知県黒潮町です。全国で最も高い34mの津波が襲うという想定が発表されて以降、いざという時に備える様々な取組みを続けてきました」

高知県黒潮町は、南海トラフ巨大地震への備えに、最も熱心に取り組んできた自治体の一つです。屋根付きの津波避難タワーを複数整備したほか、住民との話し合いも続けてきました。臨時情報への対応の検討にも、率先して取り組んできましたが、まだ十分とは言えません。

1月のワークショップは、平日の午前8時、静岡県沖で大地震が発生。高知県にとっては「遠くで起きた地震」で被害はありませんが、その後、臨時情報が発表されることをイメージするという内容でした。

役場の健康福祉課では、避難に手助けが必要な人に対し、どの段階でアプローチを始めるのか、議論になりました。

<健康福祉課の職員>
「遠くで起きた地震で高知県は被害が出ていなくても、どこまで要支援者の名簿を確認するのか」
「臨時情報が出るかも知れない、出たときに動けるように事前準備が必要ということかなと」

教育委員会も、学校の対応について、基本的な方針をあらかじめ定めています。

<教育委員会の職員>
「保育所、小学校は休園、休校とせず受け入れ、運営を行う。これは各家庭の判断による避難行動をとどめるものではなく、児童、生徒が登校しない場合は忌引き扱いとする」

「バンバン判断していかないと」町の幹部から厳しい指摘も

SBS

一方、対応に悩んでしまったのが防災を担当する部署です。

<情報防災課の職員>
「臨時情報が出た場合に、巨大地震警戒、え〜と、事前避難の呼びかけをする。普段よりも高まっていますとか言っちゃったほうが良いのか」

SBS

<黒潮町情報防災課 村越淳課長>
「バンバン判断していかないと、すべてのことが後手後手に回ってしまう。臨時情報の発表までに考える時間は少ない」

約2時間議論した後、災害対策本部の会議で発表しました。

<情報防災課の職員>
「どの人員が対応にあたるのか、本部長とも確認しながら進めていきたいと考えております。事前準備に皆さんもう一度チェックをしてくださいという内容で(町民に)放送し周知したいとも考えております」

<高知県黒潮町 西村康浩副町長>
「さっきから、検討する、取り組む、考える、要は決まっていないということだね。その場の状況に合わせて」
<情報防災課の職員>
「そうですね」

町の幹部から、厳しい指摘が入りました。

<京都大学防災研究所 矢守克也教授>
「考えれば考えるほど、今やっておくべきことが多いということが分かりました。事前に臨時情報が出たとしたらこういう風にやりましょうねと臨時情報が出る前にやるべきこと、できることがかなりたくさんある」

南海トラフ地震臨時情報は、まだ1度も発表されたことがありません。初めて発表された時に混乱するのか、落ち着いて対応できるのかは、普段からの備えにかかっています。

地震発生の可能性が普段より高まっているとはいえ、実際に起きる確率は、巨大地震警戒でも7%程度、十数回に1回程度とされています。地震が発生しなかったとしても、何ができるのか、事前の備えを考えておくことが大切です。