「平日の5日間は、息子たちとすれ違う日々だった」。遠鉄自動車学校(浜松市中央区)の教習指導員中津川なつ恵さんは2023年12月まで、土日休みの週休2日で働いていた。「2人の息子は放課後それぞれ習い事に出掛け、夜しか会えない日もあった。ゆとりのない毎日だった」息子の学校行事に合わせてたまの平日に休みを取ると、通院や銀行での手続きなど「平日にしかこなせないタスク」がその日に集中した。休息日のはずが、かえって疲れる日になった。

20代で事務職の社員として入社し、教習指導員の資格を取った。7年ほど勤めた頃、長男を妊娠。当時は育児休業を取得する社員はおらず、出産を前に退職した。長男が1歳半になった時にパート従業員として復職。2人目の次男出産を前に再び退職し、その後再びパート従業員として復職した。
教習指導員の資格があるため、希望すればいつでも社員に戻ることはできたが、足かせとなったのは休日の数。同社の場合は月ごとに異なり、最大11日の月もあれば、教習生が集中する繁忙月は5、6日にとどまる。中津川さんは、毎月一定の休みを確保するため、社員でなくパート従業員の働き方を選び続けた。

同社は23年6月、新たな働き方を導入した。毎月一定の休日を取得できる「週休3日社員」。
「この働き方なら、社員としてやっていける」。中津川さんは24年1月、週休2日のパート従業員から週休3日の正社員になった。息子たちも歓迎している。次男蓮君(13) は「お母さんと余裕を持って話せるようになった」と喜ぶ。 同社の一般社員の年間休日は105日、週休3日社員は156日。1日の勤務時間はどちらも7〜10時間だが、週休3日社員は年間の総勤務時間と給与がそれぞれ約15%少なくなる仕組み。24年4月時点で男女5人が利用している。入社10年以下の社員が利用すれば、主任に昇格するのが1年だけ遅れることを除いて、キャリア面で不利になることはない。週休3日は、誰でもいつでも何度でも選択できる。

同社が週休3日の導入に踏み切ったきっかけは、社員の声だった。20代の男女や幅広い世代の女性の採用が増えるにつれて、繁忙月の休日の少なさに対して「年間通じて趣味や家族のために時間を使いたい」という要望が高まっていたという。中津川さんのように繁忙期の休日の少なさがネックだったパート従業員にとって、社員として働きやすい道が開けた。同社遠鉄自動車学校の榎谷達明所長は「平日日中に働いてくれるパートももちろん戦力だが、1日7〜10時間の勤務で夜間や土日をカバーする社員が増えることはありがたい」という。選択的週休3日の導入は社員の離職を防ぐほか、人材獲得にも効果があるとみている。「働き手に選ばれる会社になりたい」

同社は「マイスタイル制度」と名付けて4種類の働き方を用意している。一般社員、週休3日社員、短時間勤務社員、そして所定労働時間限定(残業なし)社員。約230人の社員のうち、週休3日の5人のほかに、短時間勤務は4人、所定労働時間限定は9人が選択している。榎谷所長は「人それぞれ、残業をやりたい方も、所定労働時間で帰りたい方も、休みを多く取りたい方も、いろいろな方がいるので、会社がそれに合わせる。今の従業員の気持ちを大切にしたい」と話した。