「お弁当パラダイス」で“集客力”と“結束力”を高める

 9月27日、薄曇りの日曜日。JR盛岡駅から東へ、南部藩盛岡城址方面に歩くこと10分、盛岡大通商店街がある。正午過ぎの歩行者天国。幅10メートルの商店街ロードに長さ約300メートルにわたって弁当販売の29店ものワゴンがずらっと並ぶ。盛岡大通商店街協同組合が今年6月から月に1回開催している「お弁当パラダイス(第4回)」だ。
 驚くべきはその人混みである。ざっと見渡しただけでも数千人はいるだろうか。10〜20人の行列ができているワゴンも珍しくない。和食、洋食、エスニック、居酒屋、カフェなどの多彩な〝お弁当〟……。農家が出店する産直マルシェも印象的だ。クラフトビールも楽しめる。本部前の「縁日」コーナーからは子供たちの嬌声が上がり、いかにも楽しそう。
 正直、想像以上の活気に驚いた。ぶらぶらとワゴンをのぞいてまわっている年配の女性に話を聞くと、「目当てのお弁当が売り切れていて残念。もっと早く来ればよかった」とのこと。実際、オープンから30分で完売したワゴンもあった。
 
3時間半で1500個を販売
 盛岡大通商店街はこのところ逆風続きだった。昨秋、岩手医科大学が近隣から移転し、人通りが減少。そして今年に入って突然のコロナ禍に見舞われる。
 盛岡大通商店街協同組合の中村正樹事務局長は言う。
 「4月に丸乃タイルの内舘茂社長(理事=お弁当パラダイス副実行委員長)の提案で各店舗にアンケート調査を行った結果、やはり飲食店へのダメージが深刻であることが分かりました。これを受けて、真っ先に声を上げたのが菅原靴店の菅原誠社長(理事=同実行委員長)でした」
 当時、各飲食店は売り上げ減を補うために個別にテークアウトやデリバリーに取り組んでいた。それを見た菅原社長は「入ったことのないお店の弁当を注文するのにはハードルがある。実際にモノを見て、比べてから購入したいというニーズが絶対にあるはずだ」と主張。他の理事もこれに賛同し、まずは、組合の所有する「リリオ」という施設に特設会場を設けて弁当の販売会を開催することにした。「参加してくれる店舗さんがあるのか、お客は集まるのか、そもそもこのコロナ禍に人を集めていいのかなど、不安でいっぱいでした」(中村事務局長)というなか、「現状を打破するには動くしかない」とばかりに企画を進め、プレスリリースを発信するとテレビをはじめ地元メディアが殺到。ふたをあけてみると、弁当はあっというまに売り切れた。緊急事態宣言が解除される5月末まで毎日(日曜除く)、3週間続けて開催するうちに、当初、5店舗だった参加店舗も15軒まで増加。店主たちのコミュニケーションも増していく。さらに、この取り組みが終了するとの情報を聞いた利用者から「次も開催してほしい」との声が相次いだ。当然の成り行きとして、「毎週日曜日の歩行者天国を利用してもっと大々的にやってみたらどうだろう」という雰囲気が醸成されていく。
 こうして6月21日に開催されたのが「第1回お弁当パラダイス」。結果は大成功となった。3時間半というわずかな時間で、約1500個の弁当を売り上げることができたという。リピーターの獲得効果はもちろんのこと、やったことのない「お弁当」という分野に挑戦することで、参加店舗の経験値と業務の「幅」は確実に広がった。さらに、「このイベントを続けていこう」という若い組合理事たちの意欲は高まり、当然のごとくその後の継続開催が決まる。
 「当組合では以前から、執行部の若返りが課題でした。今回、若手の理事が協力し合いながらイベントに取り組むことにより、従来にはなかった〝まとまり〟できてきた。この状況を生かし、当商店街のみならず地域の活性化につなげていきたいですね」(中村事務局長)
 
郊外から顧客を取り戻す
 同商店街は組合員52名で、賛助会員や協力店を含めると120名ほどの組織。近年、長らく勢力を誇っていた物販店舗の多くが、近隣のショッピングセンターに客足を奪われて閉店し、近隣住民やオフィス街のサラリーマンを主な顧客とする居酒屋やレストランなどの飲食店が取って代わりつつある。
 「比較的新しい飲食店さんは、組合に加盟していないところも多く、これらの店舗が、お弁当パラダイスを通じて組合活動に興味を持ってくれる良いきっかけになればと思っています」(中村事務局長)
 イベントに出店するには、組合員である必要はない。このいわば〝寛容な〟方針によって「(あまり交流のなかった)店主さんたちとのコミュニケーションが深まった」と中村さんは言う。多くの店舗が協力し、知恵を出し合って集客戦略を練り上げれば、郊外に向いた人の動線をいくらかでも取り戻すことも可能なはず、というわけだ。
 さて、9月27日に戻ろう。
 12時半、地元の「うたばん流し」として活躍するポールふじむらさんが各所に出没。歌声と歓声が聞こえてくる。13時、盛岡城にほど近い商店街の東端に、何やらざわめきが起こった。盛岡大学附属高校の生徒たちによる「さんさ踊り」の実演が始まったのだ。8月に予定されていた恒例の祭り「盛岡さんさ踊り」がコロナ禍で中止され、発表の場を失った生徒たちのリベンジの場だ。そして、イベントも落ち着きを見せ始めた14時、本部前でジャズピアニスト・馬場葉子さんの華麗なパフォーマンス……。
 ファイナル間近の気配。心地よい音楽のリズムに後ろ髪をひかれつつ帰路に就いた。