「これって正しい指導なの?ひょっとしてパワハラでは?」そんな会社にまつわる「グレーゾーン」について社労士の村井真子さんが解説した『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)。今回はハラスメントに関する一部を抜粋・再構成してお届けする。

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パワハラ類型について



職場におけるパワハラは三要素を満たし、六類型のいずれかに該当するものをいいます。厚生労働省では三要素を次のように定義しています。

「優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われ、業務の適正な範囲を超えて行われるものであり、身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること。」

これを分解するとこの表になります。



三要素では特にIIが問題になります。例えば、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者に対して一定程度強く注意することや、その企業の業務内容や性質に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意することはパワハラに該当しないとされています。



ハラスメント行為は複数の類型を伴うこともあります。例えば、厳しすぎる営業ノルマを課し、全社員の前で未達状況を罵倒する(②+④)、歓迎会で飲酒を強要し、断った社員には仕事を与えない(①+⑤+⑥)です。

パワハラは時間の経過とともに状況が悪化します。「パワハラかも?」と思ったら、一人で悩まずに信頼できる上司や先輩、社内窓口に相談しましょう。


高額案件をバンバン取ってくる上司。
部下への要求も多くてつらいです


いわゆる「仕事ができるタイプ」の上司を持つと、自分ができるだけに周囲にも同じ水準を要求しがちです。販売成績や顧客からの評価がよければ会社からも評価されている場合が多く、部下への指示・指導の内容自体は問題ないので発覚しにくいのですが、言い方がきつかったり、自分と同じやり方を強制するなどの課題が隠れていることが多いのです。

このタイプの上司は、誰よりも会社に貢献して成果を出しているという自負があります。また、それが事実であるために、会社も重宝な存在として扱います。しかし、だからといってパワハラが許されてはなりません。このような上司は、自分がパワハラをしている自覚はないことが多く、「育てているんだから、自分についてこられない相手が悪い」と被害者意識を持っていることさえあります。こうした上司を持った場合は、速やかにそれがパワハラであることを本人や会社に自覚してもらうようにしましょう。



そのためには録音やメール文面の保存など、パワハラの証拠を集めておくことも重要です。指導内容がいかに正しくとも、声を荒げたり、机をたたく、モノを投げるなどの行為があれば、言われた側は苦痛を感じます。人格否定をする言葉を使っていないか、仕事の指導の範囲を超えていないかを確認するためにも、証拠をきちんと押さえておきましょう。

ハラスメント行為によって部下が精神疾患になる可能性は少なくありませんが、ハラスメント問題で深刻なのは、被害者だけではなく加害者への影響も少なからずあるということです。自分としては善意で行っている熱い指導の結果、部下が精神疾患を患うことになった場合、加害者側もなんらかの処分を受けることになります。

自分としては誠実に勤めてきた会社に裏切られた気持ちになるでしょうし、そこではじめて自分の行為を自覚し、加害者も病んでしまうケースもあります。深刻化する前に、パワハラであるということを加害者や会社に認識させることが重要です。


アドバイス:
行き過ぎた要求はパワハラにあたる可能性があります。


身に覚えがないのに、
「上司と不倫している」という噂を流されました


身に覚えがない噂を流されるのは非常に迷惑なことですね。職場でそうした噂が流れること自体苦痛であり、職場の人間関係が壊れたり、人的信用が傷つけられるなどの二次的な被害も想定されます。こうした事実無根の噂を流すことは、モラル・ハラスメント(モラハラ)といえます。

また、このケースは名誉棄損行為にも該当する可能性が高いと考えられます。噂を流した相手には毅然とした態度で対応しましょう。例えば「おかしな噂を流されていると、〇〇さんより聞いた」「これは事実ではなく、仕事に支障が出て困っている」ということを会社に相談することも考えられます。



基本的に、会社は社員同士のトラブルに関与しませんが、社内で嫌がらせが行われていることを知った時点で、対策する責任が生じます。会社には安全配慮義務があり、その中には労働者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務も含まれると解されています。

モラハラは、倫理や道徳に反した嫌がらせを行うことです。物理的な暴力は伴わないものの、言葉や態度で相手を精神的に追い詰める行為全般が該当します。他のハラスメントと比較して発覚しにくく、被害者も自分に非があるのかと受け入れてしまうことも少なくありません。しかし、労働者の職場定着に大きな影響を及ぼす部分であり、対策が必要です。

職場におけるモラハラの代表例は「いじめ・嫌がらせ」です。個別労働紛争で扱われる内容として最も多く、令和三年度は約86,000件もの相談が寄せられました。職場は労働者にとって一日の大半を過ごす場所なので、そこでのいじめや嫌がらせは仕事だけでなく心身に大きな負荷を与えます。そのため、会社はハラスメント対応用の窓口の設置が義務づけられています。

社外の機関であれば総合労働相談コーナーのほか、法務省が実施している「みんなの人権110」を利用することもできます。職場でのモラハラは一人で抱え込まず、周囲に相談しながら解決することが重要です。


アドバイス:
モラハラです。会社または外部の機関に相談しましょう。


#1『「SNSが原因で懲戒免職?」「子どもの発熱を理由に休んだら罰金?」その社内規則はここがおかしい、ここがグレーだ!』はこちらから


『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)

村井真子

2023/5/23

1870円
216ページ

ISBN: 978-4757440128

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「テレワーク中のケガは労災?」
「業務指導をパワハラ呼ばわり!」
「会社に内緒で副業できる?」
「休日出勤って断れるの?」
「昇進拒否でペナルティ?」
「過去の病気で内定取り消し?」

例えば、何はセーフで、何がアウトでしょうか?
本書は、職場の問題に悩むビジネスパーソンのみなさんの参考になればと書きました。
知識を武器に、自分の環境を整えたり、トラブル時に応急処置ができることを願っています。
今日も明日も明後日も、みなさん一人一人が安心して働き続けていけますように。