「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングスが、4月8日に、「ラー麺ずんどう屋」(現地名称:寸屋拉面)」の1号店を上海にオープンした。同社は2012年3月に「丸亀製麺」の中国1号店を上海に出店して拡大するも、2023年3月期に撤退を決定。中国事業整理費用12億円を計上したという苦い過去がある。うどんからラーメンに変えての再進出だが、成功への道は険しそうだ。

吉野屋の売上を追い抜いた丸亀製麺

トリドールの2024年3月期の売上高は前期比23.2%増の2319億円、事業利益は前期の2.1倍となる145億円だった。

トリドールは国際会計基準であるIFRSを採用している。そのため、決算書に記載されている営業利益は、日本の会計基準の営業利益に営業外損益を加えた数字だ。事業利益が日本基準である営業利益を示している。

事業利益率(営業利益率)は5.0%だ。

日本基準を採用し、「はなまるうどん」を運営する吉野家ホールディングスの2024年2月期の営業利益率は4.3%。吉野家もコロナ禍から力強く回復したが、稼ぐ力はトリドールに及ばない。

コロナ前の売上高は、吉野屋がトリドールを大きく上回っていた。今では逆転している。2024年2月の吉野家の売上高は2000億円に届いていない。

トリドールの増収に寄与しているのが海外事業だ。

2024年3月期における国内事業の売上高は1149億円、海外事業が886億円だった。およそ4割を海外事業が占めている。一方、吉野屋の海外売上は270億円ほどで、2割にも満たない。

トリドールの国内売上成長率は12.5%。海外が44.1%だ。2026年3月期には売上構成比率が逆転。海外事業が業績をけん引するという青写真を描いている。

少子高齢化に加え、中間層の消失、インフレによる消費意欲の減退などマイナス要因が重なる日本において、外食産業のマーケットの拡大や、過度な値上げによる増収に期待することはできない。

トリドールのように成長著しい外食チェーンにとって海外市場、特に巨大な胃袋を持つ中国は、何としてでも攻略したいエリアである。

ラーメン最大の敵であるフードデリバリーが急拡大

ジェトロによると、2023年の中国外食市場規模は5兆元(105兆円)。2019年の水準を上回り、初めて5兆元の大台を超えた。

2013年のやや古いデータだが、ジェトロは中国の消費者に好きな日本食を尋ねており、ラーメンは6.5%で、寿司(8.8%)、刺身(6.6%)に次いで割合が高かった(「日本食品に対する海外消費者意識アンケート調査」)。
 

現地で圧倒的に人気があるのは豚骨ラーメンだ。その味を広めるのに寄与したのが、熊本県発祥の「味千ラーメン」である。うどんからの撤退を決めたトリドールは、「ラー麺ずんどう屋」で市場開拓が進んだ豚骨ラーメンのシェア拡大を狙っているのだ。

しかし、かつて中国で行列のできる店として知られた「味千ラーメン」も失速気味だ。香港市場に上場する味千控股有限公司は、2023年に黒字転換したものの売上高は18.2億元。コロナ禍を迎える前の2018年は24億元近い売上があった。需要が回復しきっていないのだ。

今、中国のラーメン店は逆風下にある。その理由はフードデリバリーの台頭である。

中国のシンクタンク・艾媒諮詢は国内のフードデリバリー市場が32兆円となり、2020年比で2.3倍に増えたとの調査結果を出している。ラーメンは配達中に麺が伸びてしまい、美味しさが失われるなどのイメージが強い。外食市場の1/3ほどがフードデリバリーに代わり、ラーメンが忌避されているのであれば、「味千ラーメン」の売上が回復しない理由もわかる。

さらに景気の悪化も深刻だ。かつて中国は中間層のプチ贅沢が流行していたが、現在は手軽なファーストフードにシフトしている。

この消費動向の変化に取り残されたのが、スターバックスだ。2023年、手軽なコーヒーを販売する中国のラッキンコーヒーに1.2倍の売上差をつけられた。2021年の売上高は、スターバックスの半分にも及ばなかった会社だ。

「ラー麺ずんどう屋」の主力メニューである「味玉らーめん」は920円ほど。中国のファーストフードの相場は400〜500円だ。

また、たとえヒット業態に育っても、模倣店問題が根深いのも厄介。日本の「一蘭」にロゴや店舗のファサード、提供方法、メニュー構成までそっくりな店舗が中国にあったことは有名である。

「味千ラーメン」が人気を獲得できた理由は?

差別化を図るという点においては、味を追求する以外にないだろう。「ラー麺ずんどう屋」を中国人の舌に合わせ、そのうまさを伝える巧みなマーケティング活動(ローカライズ)を行うスペシャリストが必要なのだ。

実は「味千ラーメン」は1994年に一度台湾に進出するが失敗に終わっている。現地で設立した合弁会社によって販売されていたラーメンは、味や質がまったく異なるものだったのだ。

その後、香港の実業家が日本で食べた「味千ラーメン」に感動し、その味にほれ込んで現地で広めたいと熱心に店づくりに励んだという経緯がある。

当時、日本と香港の経営者は互いに信頼しあい、マーケティングや商品開発は中国のパートナーに、ラーメンそのものの味の管理は日本法人にと役割を明確に切り分けた。その相互補完が現地の需要を開拓するに至ったのだ。

逆風が吹く中国でのラーメン店の成功は、その一杯に熱を込められる店長や経営者と出会えるかにかかっているだろう。

取材・文/不破聡 撮影/集英社オンライン