健康診断では必ず血圧を測るが、そもそも血圧はなぜチェックしないといけないのか? 気になる高血圧は、上が140以上?130以上?どっちなの?……など血圧に関する素朴な疑問を「ウチカラクリニック」の院長、森勇麿先生に解説いただいた。

血圧の上と下とはいったい何?


心臓はポンプのように、収縮と拡張を繰り返して血管に圧力をかけて、血液を全身におくっています。
血圧とは心臓から送り出された血液が血管の内壁を押す力のことです。
血圧を測ることで、心臓から送り出された血液がどれくらいの力で血管の壁を押しているのかがわかります。
押す力が強いと血管を傷つけてしまい、脳卒中や動脈硬化を引き起こす原因になってしまうため、血圧を測ることは、非常に重要なのです。

そして心臓が収縮と拡張を繰り返しているので、血圧もそれに応じています。
それがよく言われる血圧の上と下の数値です。
医学用語では、上の血圧を収縮期血圧、下の血圧を拡張期血圧といいます。
上の血圧、収縮期血圧は心臓が収縮して最も強く血流を送り出しているときの値で、下の血圧、拡張期血圧は心臓が拡張により送り出した血流が心臓に戻ってくるときの値になります。



また、血圧は常に一定ではありません。
測る時間帯や季節、行動によっても変化します。
日中、活動しているときは高くなり、睡眠中は低くなります。
また、激しい運動や、喫煙すると血圧が上がりますが、安静にすればまた戻ります。

そのため、血圧を正確に把握するためには決まった時間に測ることが大切なのです。


高血圧の基準は130以上


中高年にとって、心配で身近な病気である高血圧。
放っておくと、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞に繋がりかねません。

では、高血圧の基準とはそもそもどれくらいなのでしょうか?

日本では、病院で測った場合は上の血圧が140以上、下の血圧が90以上、自宅で測った場合は上が135以上、下が85以上が、高血圧の基準です。

血圧は上と下、どちらの数値も重要で、どちらも高すぎないほうがいいのですが、上の血圧を下げたほうが心臓病のリスクを下げる効果が大きかったというエビデンスがありますので、まずは上の血圧の数値に注意しましょう。

病院で測った場合の数値が高いのは、病院という非日常空間の中で、何か病気のことを言われるのではないかと緊張してしまうためです。これは「白衣高血圧」と言われています。

また、アメリカで心臓協会において、2017年にAHA2017という高血圧の基準が定められました。

上の血圧が

140以上の人→病気のリスクが上がるので薬を飲んで血圧を下げるべき
130以上の人→高血圧です。食事や運動で血圧を下げるべき
120以上の人→高血圧ではないが、生活習慣を見直して血圧を下げるべき

と高血圧の基準が130以上に変更になりました。



これは2015年にアメリカやプエルトリコの施設の約1万人を対象に行われた「SPRINT試験」において、上の血圧が120未満だった人のほうが死亡率や心臓病の発生率が低かったというデータが発表されたからです。
また、2016年の医学誌「Lancet」で発表された約61万人を対象にしたデータでは、上の血圧が130未満だと心不全、腎不全、脳卒中のリスクが下がるという結果が出たことによります。
こうしたデータによって、アメリカの心臓協会では、上の血圧が130を超えると高血圧とされています。

なので、上の血圧が130以上の人は、生活習慣を見直して下げるようにしましょう。

対して、低血圧の基準は、WHOにおいては、上が100以下、下が60以下です。
低血圧は多くの場合、症状が激しくなければ治療の必要はありませんが、めまいやたちくらみといった症状がでることがあります。

血圧は低すぎても体によくないので、やはり正常になるように、生活習慣を整えることが大切です。


40歳を過ぎたら、血圧を日常的にチェックする


40歳を過ぎたら、できれば、血圧計を買って日常的にチェックしていただきたいです。

温泉施設などに血圧計はありますが、それで測ってもあまり意味がありません。
お湯に浸かると全身の血管が拡張するので、血圧は本来の数値より低くなります。
また、病院だと白衣高血圧で数値が高く出ることがあります。
一時的に血圧が変化しても、血管がすぐ悪い状態になるということではありません。
怖いのは慢性的に高血圧で、知らず知らずのうちに血管を傷つけてしまうことです。

なので、自分の日常の血圧を反映する「おうち血圧」を確認することが重要なのです。
自宅で測った血圧を医学用語で「家庭血圧」と呼んでいます。



「家庭血圧」の正しい測り方ですが、まず、背もたれのある椅子に座ります。かかとをしっかり床につけ、足は組まないようにしましょう。
時間があるならこの状態で1〜2分待って、体も心もリラックスした状態で測ります。
手の位置は心臓と同じ高さにして、肘を曲げないように。
また、服の上から測る人がいますが、それだと正しい数値にならないので、地肌に血圧計のカフを巻くようにしましょう。

測る時間帯は、朝起きた後や寝る前のリラックスした時間帯がおすすめです。

高血圧の状態が続くと、血管の壁を傷つけてしまい、動脈硬化が進行します。
40歳過ぎたら「家庭血圧」を測定する習慣をつけて、大きな病気のリスクを減らすようにしましょう。

取材・文/百田なつき

『怖いけど面白い予防医学 人生100年、「死ぬまで健康」を目指すには?』(世界文化社)

著者 森 勇磨

2023年3月19日

1,870円(税込)

単行本:262ページ

ISBN: 4418234004

本書は今最も熱いテーマ、「80歳まで健康寿命を延ばす」ことを目指す方のための本です。
糖尿病やがん、心筋梗塞など、年を重ねるにつれ罹患する慢性疾患を回避するために
必要な知見「予防医学」を超人気YouTube「予防医学Ch」運営する現役医師が解説します。
病気になった後の世界や、人が病気になる仕組み。大病を避ける方法について
イラスト入りでサクッと理解できます。医学教養書ファンにも訴求する一冊です。
健康診断で気になる項目の詳しい解説、病名別インデックス付き。
第1章 病気になった後 五臓六腑を失った後の世界
第2章 病気になる仕組み 人間の体の中で起きていること
第3章 大病を避ける方法
付録 健康診断チェックシート