咽頭結膜熱、いわゆる「プール熱」が深刻な感染拡大を見せている。国立感染症研究所の発表によると、11月の時点で全国の患者数が過去最多を更新。各地で「警報レベル」となっている。咽頭結膜熱とはどんな感染症なのか。厚生労働省が公開している予防策などと併せて紹介する。
全国規模で「警報レベル」に
「プール熱」といえば、その呼称から夏に流行しやすい病気という印象がありますが、近年において季節とはさほど関係がないようです。
特に今年は、9月から流行傾向が例年に比べて高くなっていることが指摘されていました。そして10〜11月に入り、流行が「警報レベル」を超えてからは、各都道府県や自治体が注意を喚起。東京都内でも1999年の統計開始以降、初の警報レベルとなっています。
ただし注意喚起がされている一方で、医療資格を持たない一般人の視点からすると、感染流行の状況や病気の症状や対策について把握しづらいことも事実です。
そこで本稿では、どのような情報を参照して、状況の変化を追ったり、注意事項を判断したりすればよいのか——という視点で、そのフックになるであろう情報をまとめました。
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そもそも「プール熱」とはどんな病気?
俗に「プール熱」と呼ばれるこの感染症は、正式名称を「咽頭結膜熱(Pharyngoconjunctival fever)」といいます。
厚生労働省が公開している情報によると、以下のように、原因となるアデノウイルスの感染により、発熱や、のどの痛み、結膜炎といった症状を引き起こす、小児に多い病気だと説明されています。
Q1 咽頭結膜熱とはどのような病気ですか。
A1
・アデノウイルスの感染により、発熱(38〜39度)、のどの痛み、結膜炎といった症状を来す、小児に多い病気です。
・プールでの接触やタオルの共用により感染することもあるので、プール熱と呼ばれることもあります。
・通常、6月ころから徐々に流行しはじめ、7〜8月にピークとなります。
(出典:厚生労働省「咽頭結膜熱について」)
小児の感染割合が多いのは、アデノウイルスに対する免疫を獲得していない小児が、感染・発症しやすい病気だからだとされています。つまり、アデノウイルスに対する免疫を持っていなかったり、免疫が弱まっていたりすると、大人でも感染する可能性があります。
その症状については、東京都保険医療局が公開している情報などがわかりやすいです。
・39℃前後の発熱、咽頭炎(のどの痛み、発赤など)、結膜炎(目の充血、目やになど)を3主症状とし、その他リンパ節の腫れ、腹痛、下痢などが生じることがあります。
・症状は1〜2週間でおさまります。
・頻度は高くありませんが、重症化した場合は肺炎などを合併することがあります。
(出典:東京都保険医療局「咽頭結膜熱(プール熱)が流行しています!」)
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X(旧Twitter)上でも咽頭結膜熱の感染報告が多く見られ、中には「リンパも腫れ過ぎてて痛すぎるつらい」「プール熱、コロナよりつらいかも」といった声もありました。
とにかく、疑わしい症状があるときには、自己判断せず、早めに医療機関に相談しましょう。
どんなデータで流行状況を判断できるのか?
咽頭結膜熱の流行傾向の推移は、自治体の報道発表などを確認する以外にも、国立感染症研究所が公開している咽頭結膜熱に関する「定点当たりの報告数」のグラフを読み取ることで判断できます。本記事の執筆時点(11月27日時点)においては、このグラフの値が「3.00」をすでに超えています。
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この「定点当たりの報告数」という表現は、「定点把握対象疾患」に指定された感染症に対して使われるものです。
一般的に、正確な患者数を把握するのは難しいものの、流行傾向を把握したい感染症がこれに指定されています。具体的には、感染者数の報告に協力してくれる「定点医療機関」が各週に報告した感染事例の数を、定点医療機関の数で割った値を意味します。
つまり、1つの医療機関で、1週間にどのくらいの感染者が報告されているのかを表している数値だと思っておくと、規模感がイメージできるでしょう。執筆現在、ざっくり表現すれば、小児科の定点医療機関において毎週3人以上の患者が確認されているような状況なのです。
たとえば、東京都の報道発表資料によれば、都の警報基準は次のように説明されています。
小児科定点医療機関から報告された咽頭結膜熱の患者数を保健所単位で集計し、1定点当たり3.0人/週を超えると警報開始となります。警報は1.0人/週を下回る(警報終息)まで継続し、警報開始から警報終息までの間の状態を「警報レベル」としています。
(出典:東京都 2023年10月12日 保健医療局「咽頭結膜熱(プール熱)が流行、都内で警報基準に達する」)
咽頭結膜熱にかからないためには?
咽頭結膜熱への感染リスクを下げるために、何に注意すればよいのかという情報は、多くの公式な発信でまとめられています。たとえば、厚生労働省が公開している情報では、以下のような注意点が紹介されています。
Q2 咽頭結膜熱にかからないためにはどうすればいいのですか。
A2
流行時には、流水とせっけんによる手洗い、うがいをしましょう。
感染者との密接な接触は避けましょう(タオルなどは別に使いましょう)。
衛生を保つため、プールからあがったときは、シャワーを浴び、うがいをしましょう。
(出典:厚生労働省「咽頭結膜熱について」)
なお、子どもが咽頭結膜熱だと診断された場合には、「学校保険安全法(旧称:学校保険法)」によって、学校は出席停止となります。国立感染症研究所が公開している情報では、以下のように記載されています。
学校安全法では、第二種伝染病に位置づけられており、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とされている。ただし、病状により伝染の恐れがないと認められたときはこの限りではない。
(出典:NIID 国立感染症研究所「咽頭結膜熱とは」)
特に、子どものいる家庭では、あらかじめ把握しておくと、万が一の感染発覚時にも判断がしやすくなるでしょう。
文/井上晃