親ペナルティという言葉を知っているだろうか? 子供のいる人は子供のいない人より幸福度が低くなるというの本当なのか? その調査から見える国の福祉の違いと幸福度の関係を解説する。

先進国では「親になると幸福度が下がる」


2016年、OECDに加盟する先進国22か国で調査にて、多くの国で「親になると幸福度が下がる」という結果が出ました(この22か国に日本は含まれていません)。

この結果により、親になると不幸になるということで「親ペナルティ」という言葉がよく使われるようになりました。しかし、同調査ではあくまでも親子関係と幸福の関係性を調べており、むしろ22か国のうち、8か国は子供がいない人より子供のいる人の方が幸せという結果になっています。

なぜそのような差が生まれるのか、その差となる福祉制度について考えてみましょう。



祖父母のサポートなしでは厳しい
「家族依存型」福祉国家


同調査では、アメリカが22か国のうちもっとも親の幸福度が低く、反対にスウェーデンやフランスなど国家の家族支出の多い国ではそうではない傾向が出ています。

また、福祉国家には代表的な型があります。まずは社会保障の型を見ていきましょう。

福祉国家は大きく3つに分けて、「家族依存型」「政府依存型」「市場依存型」があるとされています。厚生労働省の資料にもあるとおり、「家族依存型」は家庭内で福祉のニーズを満たすため、金銭負担は発生しないもののそれを主に担う女性の負担が大きい社会です。まさに日本ですね。

次に「政府依存型」とはいわゆる北欧型です。高負担高福祉の国家で、多くの人がサービスを利用することができる社会です。

最後の市場依存型とは、まさにアメリカですね。国民負担率は低いですが、不足する福祉サービスを市場で購入するため、所得のない人間は利用できない、という格差の大きい社会です。


出典:厚生労働省「社会保障教育のワークシート」


日本の場合は、「家族依存型」ですので、子育てに関しても実家が近くにあり、子育てのサポートを受けられる人とそうでない人では子育ての負担が大きく異なってきます。

事実、地方などで実家の近くに住んでいる人などは保育園のお迎えなどを祖父母にお願いしているケースも珍しくありません。これは家族に負担してもらう典型的なケースと言えるのではないでしょうか。

筆者は高知県在住ですが、知人を見てもフルタイムの夫婦共働き世帯が多く、祖父母のサポートを受けている人が多いようです。逆を言えば、祖父母のサポートがなければ成立しないライフスタイルでもあると感じます。

家族依存型では国民負担率を抑える反面、環境により子育ての負担が大きく異なります。もし、家族依存型から政府依存型、つまり国がサポートを強化する場合、国民負担率を上げる必要が出てきます。


少子化を乗り越えたフランスの家族支出額は?


では、国民負担率が高い政府依存型のフランスはどうでしょうか。

同調査でも22か国のうち7番目に幸福度の高い結果となっています。フランスといえば、1994年に合計特殊出生率が1.66まで低下し、その後国家による家族関係支出を増やし、一時2.00まで回復させた少子化対策先進国として有名です。しかし、特殊出生率は2010年をピークに下がっており、今では家族関係支出を増やしたから出生が増えたとも言えないという声も挙がっています。

とはいえ、子育て支援としての現金給付などは日本でも多くの人が望んでいることです。では、今の日本がフランスほどの家族支出をするためにはどれほどの財源が必要になるでしょうか。

厚生労働省の資料によれば、フランスはGDPに対して2.73%ほどを家族関係に支出しています。一方の日本は2020年度では2.01%となっています。同資料によると日本による2020年度の家族関係支出の金額は107,536億円となっています。つまり、10.7兆円です。


出典:国立社会保障・人口問題研究所「2020年社会保障費用の概要」


金額が大きすぎてイメージができないと思いますが、2021年度の日本の消費税収は過去最高の21兆8886億円でした。10%の消費税でこの税収です。仮にフランスと同程度の家族関係支出レベルにしようとすると、さらに数兆円規模の財源が必要となります。

つまり、国がサポートする「国家依存型」の社会保障には多くの財源が必要になり、その財源をどう用意するかが問題だということになります。
必要なのはアイデアではなく財源ということです。


子供が生きやすい社会にするために


必要なのは財源と言いましたが、一番難しいのが財源の話です。日本は低負担中福祉国家であり、そもそも低負担なのですが、それでも体感としては多くを負担していると感じる人がほとんどです。


出典:財務省 国民負担率(対国民所得比)の国際比較(OECD加盟36カ国)


その中で、仮に多くの人にさらに負担をしてもらう場合、やはり納得感がないと実現できないのではないでしょうか。

そしてソロ活という言葉もあるとおり、一人を楽しむライフスタイルも定着しています。もっと言えば、自分一人の人生を生きるのに必死な人もいます。

いろんな生き方ができる現代において特定のライフスタイルの人たちを支える制度を実現するのは難しいことです。それでも今日生まれる子供が生きやすい社会にするために、子育て支援は必要なことだと筆者は考えています。

経済学では「合成の誤謬(ごびゅう)」という言葉があります。これは個人が正しいと思って行動したことが、全体にとってはマイナスになることがあるという意味です。

また社会保障というのは次の世代があってこそ持続できるものであり、子供のいない人も含めてすべての人にとって子育て支援は重要なことです。子育て支援含む社会保障の話では、自分が割を食うのは納得いかないという意見が多く出ますが、それが結果的に自分に返ってくるという点では、まさしく「合成の誤謬」ではないでしょうか。

子育て支援の大切さを子供のいない人たちにまで理解してもらうこと、そのための負担増が自分にも関係することだということを伝えること。そうして納得してもらうことが子育て支援を進めるために重要なことではないでしょうか。

文/井上ヨウスケ