同じ主張を繰り返す、感情的になる、記憶があいまいになる…。これらは脳の老化現象の一つといわれている。いつまでも若々しい脳であるために、どんなことに気をつけて生活すべきか、脳科学者の西剛志氏の『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)より一部抜粋・再構成してお届けする。

「欲のある人」のほうが長生きしやすい


歳をとると欲が減少する人が多くなります。
「最近食べたいと思うものがなくなってきた」「異性への興味が薄れてきた」そんな実感はないでしょうか。
でも、あらゆる欲が減っていくわけではありません。実は、「減りやすい欲」と「減りにくい欲」があります。

結論から言うと、食欲、性欲などの「生理的欲求」はすべて減っていきます。
なぜなら、ドーパミンというやる気を生み出す脳内ホルモンは、加齢とともに直線的に減っていくからです。ドーパミンが減ると、食欲も、性欲も低下します。
ただ、欲があったほうが長生きするという傾向があります。オーストラリア・モナッシュ大学と台湾国立防衛医科学センターの研究では、食欲のある高齢者のほうが長生きの傾向があるそうです。別の研究でも、食が細い高齢者は食欲旺盛な人たちに比べて死亡リスクが2倍以上高まることがわかっています。


長生きのためにもドーパミンを増やしていきたいところですが、欲の源になるドーパミンはどうやって増やせばいいのでしょうか。実は簡単な方法で増やせます。具体的には、こんな方法があります。
●笑顔
●好きな音楽を聴く
●体を動かす
●好きな人の写真を見る
● 予想外の嬉しいことが起きることに参加(例・スポーツをする、スポーツ観戦など)
● 複数のものから選ぶ
こういう習慣がある人は、やる気が衰えず脳がいつまでも若い可能性があります。


写真はイメージです


減る欲がある一方で、減りにくい欲もあります。「幸せに対する欲」はそれです。若いときも高齢になってからも、同じように「幸せに対する欲」はあります。


人のために何かして幸福度を得ることで老人脳になりにくくなる


この「幸せに対する欲」と密接に関係しているのがオキシトシンです。最近はよくメディアで取り上げられているので、知っている人も多いかと思います。

オキシトシンは別名「愛情ホルモン」とも言われていて、人や動物などと「つながった瞬間」に出るホルモンです。犬や猫を飼っている人や子どもと触れ合う機会が多い人は、オキシトシンが出て、幸福感を感じやすいと言われています。
2022年の最新研究では、18歳から99歳の人を調べたところ、加齢とともにオキシトシンの量は減るどころかむしろ増えることがわかっています。

ドーパミンは減っていくけれど、オキシトシンは増えていく。そこからわかるのは、人はいくつになっても幸せを求めているということと、その幸せはつながりを通して得られるということです。

若いときは生理的な欲求が強いのですが、歳とともにバランスが変わり「つながり」など社会的欲求の占める割合が高くなっていきます。この社会的欲求は、社会貢献などにもつながっていきます。ボランティアなど「人のために何かをする」ことで自分の幸福度が上がるのは、脳の変化なのです。


『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)より転載


生理的な欲が減り、人とつながること、人に貢献することを求めるようになる。これがいわゆる「人の成熟」と言えるのではないでしょうか。お金よりも人の役に立ちたい、感謝されたいという気持ちが年齢とともに高まるのは、人として成熟している証です。有名なマズローの五段階欲求説がありますが、一番下に生理的欲求があり、それが満たされていくと社会的欲求が満たされ、最終的に自己実現の欲求が出てくる。このことが最新の脳科学で証明されたわけです。これに反して生きる人は、幸福度が上がらず、老人脳も進行しやすくなると思われます。


仲がいい人がいるだけで認知機能も幸福度も上がる


日本は世界でも幸福度が高くない国です。1位のフィンランドから8位のノルウェーまで、上位8カ国はヨーロッパの国が独占しています。
一方で、日本は54位でした。
幸せになりたい! そう思っているはずなのに、なぜ日本人は幸福を感じにくいのでしょうか?


『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)より転載


ハーバード大学の研究で面白いデータがあります。「人間関係での満足度が高いと幸福度が高くなる」というのです。夫婦、子ども、友人、相手は誰でもいいのですが、自分が仲がいいと思える人がいるだけで、人は幸せを実感できるのです。

夫婦であっても仲があまりよくない、お互いに関心が薄い、そんな関係もよく聞きますし、子どもとの関係は悪くなくても「仲がいい」とまで言える関係かと言われるとどうでしょうか。
友人関係も、知り合いは多くても「仲がいい」と言える友人はどうでしょうか。
そう考えると、仲がいい人というのは、簡単そうで、簡単ではない関係なのかもしれません。

人間は社会的動物なので、一人で生きるよりも周りの人たちとつながりを感じて生きているほうが幸福度が高くなるようにできています。脳内ではつながりを感じた瞬間にオキシトシンが出て、脳を活性化し、認知機能を高める効果もあります。
逆に、高齢期に感じる孤独感情は認知症の発症リスクを高めます。孤独感と認知症発症の可能性は比例しています。

たとえば、夫婦であれば、パートナーに先立たれた人が、強い孤独感で認知症を発症するという話をよく聞きます。また、異常に老けてしまう人もいるようです。孤独感は脳の大敵です。

誰かとつながりを持つことは、脳の視床下部からオキシトシンを出す以外にも脳を活性化する作用があります。脳の前頭前野を活発に利用するので、脳の老化がさらに減少する可能性があり、老人脳を改善してくれます。特に人の目を見て話すと前頭前野がより活性化することが東北大学の研究で知られています。

スーパーエイジャーの人は「肯定的な社会関係」のレベルが高いことがわかっています。つながりが生む効果ですね。
一方で、苦手な人や嫌な人とのつながりは脳のストレスになります。「否定的な社会関係」は脳にいい影響を及ぼしません。プラスになるのは肯定的な社会関係です。


大切なのはつながりの数ではなく質


もうひとつポイントがあります。肯定的な社会関係があっても、その数はあまり多くないほうがいいのです。数が多いと脳が処理しきれないからです。数ではなく、大切なのはつながりの質です。腹を割って話せる親しい人がいることが大切なのです。

すでにそういう相手がいる人はいいのですが、いない人はそういう相手をつくることをおすすめします。ただ、「妻とはなんでも話せる関係ではない」「子どもとは価値観が違いすぎる」「会社の同僚や知人は増えたけど、親友と呼べる友人は大人になるとなかなかつくれない」…そんな声も耳にします。

ちなみに、仲がいい人が一人でもいれば脳の認知機能も幸福度も上がりますが、だからといって仲のいい人が二人以上はいらないというわけではありません。複数人いることはいいことです(くり返しますが、多すぎない範囲で)。また、後述しますが新しい人間関係をつくることも脳に刺激を与えてくれます。仲のいい人が一人以上いて、さらに新しい人間関係づくりにも挑戦する。これが脳を活性化させる方法のひとつで
す。

話は少しずれますが、こんな調査結果もあります。
「こじんまりとしたパブに行く回数が多い人は幸福度が高い」

こんなことまで調べる人がいるのかと思いましたが、この結果は興味深いです。規模の大きな飲み屋さんに行く人よりも、小さめのパブに行く人のほうが人との親密度が増し、そこでのコミュニケーションが脳の認知機能も上げてくれるということです。

この調査結果は「なじみのスナックやバーがある人は幸福度が高い」ということでもあります。確かに、知人でもスナックが大好きな人が何人もいますが、みなさん、なじみのスナックがあることが喜びになっているようで、よくスナックでの話を楽しそうに教えてくれます。


『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)

西剛志
2022年8月13日

1540円(税込)

328ページ

ISBN: 978-4-7762-1214-0

いくつになっても脳が若いままの人と、老化が進んでいく人の差はどこにあるのか?
脳科学者が伝えたい「老人脳」にならないための方法。
「スーパーのレジ待ちの列に割り込む老人」「人目をはばからず、店員に怒鳴り散らす老人」そんな迷惑老人たちが目についてしまう昨今......なぜ、彼らは自省できないのか。
それは脳の老化、老人脳であることが原因です。脳の老化は、30代からはじまりますが、実は高齢になっても伸びていく機能もあることがわかっています。脳科学的には、加齢=老化ではないのです。では、なぜ前述のような老人がいるのか。
一方で、アクティブに、幸せなシニアライフを送っている人たちもいます。
70歳のシニアといっても、体の不調もそれほどなく、まだまだ元気で、知的好奇心も旺盛な方がたくさんいます。そんなスーパーエイジャー(高齢になっても超人的な認知・身体能力を持つ人)たちの脳の使い方をひも解き、いつまでも若々しく幸せなシニアライフを送るきっかけにしてもらう本をお届けします。