尿漏れという女性の悩みというイメージがあるかもしれないが、前立腺肥大や加齢の影響で、いまや男性にとっても深刻なお悩みである。そんな悩みに前向きに対策する男性用「尿漏れパンツ」の最前線について、クロスプラス株式会社の「Health Tech LABO」チームに聞いた。

トイレ後にちょい漏れした経験がある人が7割以上!


老舗アパレルメーカー・クロスプラス株式会社は、男性の尿漏れ対策パンツ「KEEP GUARD(キープガード)」を2022年11月より発売し、話題となっている。

同社が実施した20代〜50代の男性への意識踏査によると、健康のお悩みは1位肩こり・腰痛、2位体型、3位薄毛と並び、尿漏れや頻尿に悩む割合が多かった。

年代別に見ると、尿漏れや頻尿は、20代で7.3 % 30代で10.2% 40代で12.2% 50代で17.5 %と年齢を重ねるごとに増える傾向であることがわかる。



「私と鈴木は、マタニティ部門にて出産前後の母乳漏れ悩みを解決する吸水パット付き授乳インナーを開発・デザインしていました。それで、この吸水パットの機能を他の商品に活用できないか、考えていたんです。

そこで着目したのが男性の『尿漏れ』でした。
女性用のフェムケア商品は注目されている分、各社、さまざまな商品が販売されていますが、男性用のそういった商品はまだまだ少ないと感じていました。

『尿漏れパンツ』なら吸水パットの技術を活用できるし、いろいろ調べると私目線ですが、もっとおしゃれなものがあってもいいのでは?と思ったんです」とデザイナーの木村さん。

調査では、尿漏れは経験者のうち、77.3%がトイレで用を足し直後に、ズボンにシミができる、いわゆるちょい漏れ、追っかけ漏れに悩んでいることがわかった。

追っかけ尿漏れは男性特有の尿漏れで、排尿後に自分の意思とは無関係に、尿が垂れてしまうこと。これは加齢も原因のひとつだが、ストレスや生活習慣によることもあるので、高齢者だけではなく、30代や40代の男性にも起こりうる。



さらに開発チームを驚愕させた調査の結果は、男性は尿漏れしても何も対策していないと答えた人が6割を超えていることだった。



「まさに事件はトイレ後に起きている! 40〜50代ですら、濡れた状態のまま仕事しているのだと思うと、これはなんとか解決したいと思いました」と木村さん。


※グラフ、表はクロスプラス株式会社が実施した調査から転載


普通のパンツと変わらないおしゃれカラーを投入


トイレの後のちょい漏れで、下着やズボンにシミができるお悩みは、母乳漏れの吸水パットの機能を転用することにした。

「前側は吸水生地と防水布の3層構造で、水をスピードに吸収し、尿漏れしても肌側の生地面はサラッとするようにしました。また尿漏れの悩みに臭いというのがあります。
なので生地全体に抗菌防臭効果のあるナノファイン加工を施して、臭いの原因となる雑菌の増殖を抑制しました」とMDの鈴木さん。



尿漏れパンツ自体の機能性は十分だが、いかに男性に手に取ってもらえるかということが課題であったと、ライフスタイル販売DIV長の森永さんは振り返る。

「KEEP GUARDを実際にはいて何度も試しました。機能面はちょい漏れしてもすぐ乾いて臭いの心配もなく快適です。ただ、サンプルを渡すと“私はけっこうです”“尿漏れする歳じゃないので”と手にとっていただけないということが現場でもありました。

男性なら、年齢問わずちょい漏れして、ズボンのシミが気になった経験は誰しもあると思います。
こういった商品を使うことで解決できるはずですが、まだまだ“恥ずかしい”と考える人が多いので、そこを工夫する必要があると考えました」

一つは色の展開をベーシックカラーだけでなく、普段購入しないようなカラーを投入して、洋服の好みやライフスタイルで選べるようにした。
購入したい色の調査の、1位黒、2位グレー、3位カーキという結果も考慮に入れて、黒、カーキ、ラベンダー、ヒョウ柄のラインナップに。売れ行きは、黒が圧倒的だが、続いてはヒョウ柄が人気だとか。


KEEP GUARD ナノファイン加工 尿漏れ対応パンツ


「ほかのメーカさんだとあまりおしゃれなカラーがなかったので、ヒョウ柄などを投入しました。最近、40代以上の男性は、見た目も中身も若々しくエネルギッシュな方が多い印象なので、ファッション感覚で取り入れていただければと考えました」と木村さん。

「黒は定番色で誰でも手に取りやすい色ですが、もう1枚洗い替えとしてヒョウ柄を購入されるパターンがけっこうありますね」と鈴木さん。


おじテックを広げていきたい


もう一つの工夫点はパッケージだ。
ショーツのパッケージとは思えない、スタイリッシュなデザインにした。
パッケージに入れるフレーズは何度も試行錯誤したそう。

「はじめは“尿漏れ対策”とパッケージに入れていましたが、それだと買うのが恥ずかしいという意見が多かったのです。そこでちょっと面白くして“秘密厳守”とキャッチを入れていたのですが、それも不評で…。

思い切って、パッケージからは尿漏れの文言をとって、ブランド名だけにして、POPなどで尿漏れについては訴求することにしました。
売り場も男性用のビューティーコーナーの近くに置くことにして、30代のライト層にも手に取ってもらえるようにしたことが、今までの尿漏れパンツのイメージを覆すことができたんじゃないかと思っています」と森永さん。


シンプルなパッケージデザイン。展示はメンズコスメと並べて違和感がないようにした


今後は、夏に備えて、メッシュ素材の接触冷感が特徴の尿漏れパンツを4月から販売する予定だ。

「調査や男性社員に話を聞いて、実際に尿漏れに悩んでいる人は案外多いと実感しました。そんな男性たちの日々の生活を快適にできればと開発しました。年齢とともに尿漏れに悩む人は増えていきますが、それを恥ずかしがることなく、軽く明るく考えていつまでも元気に過ごしていただきたいという思いがあります。

今後、メンテックならぬ、おじテックが広がっていったらよいなと思います」と木村さん。

女性のライフステージに合わせたフェムテックはいまや大きなマーケットとなっている。
男性用のケア商品がトレンドになる日も近いのかもしれない。


取材・文/百田なつき