SNSやYouTubeなどを巧みに利用して話題を集め、人口3万人にも満たない広島県安芸高田市の知名度を全国区に押し上げた石丸伸二市長(41)が、7月に小池百合子知事の任期満了を迎える東京都知事選への「鞍替え」出馬を表明し、話題を呼んでいる。京都大経済学部から三菱UFJ銀行勤務を経て、出身地の首長に転身したエリート青年は、学歴詐称疑惑をいつまでも払拭できない「女帝」とどう戦うのだろうか。ネットでは得ることのできない地元の生の声を取材した。

日本一バズる市長が「東京を変えて、日本を変えてみたい」

安芸高田市は前任者の第3代市長が2020年7月、前年の参院選広島選挙区の大型選挙違反事件で河井克行元法務大臣から現金を受け取ったとして引責辞職。同8月に市長選が行われ、銀行を退職して臨んだ石丸氏が副市長だった竹本峰昭氏との一騎討ちを制した。

第4代市長に就任した石丸氏は、議会の一般質問中に居眠りしていた議員をX(旧ツイッター)で晒して「恥を知れ」などと罵倒。

議会との対立を鮮明化しただけでなく、地元紙の中国新聞記者に「失礼が過ぎる」「偏向報道」と発言、その後続いたバトルの様子をYouTube配信し話題を呼んだ。

“汚職体質”を引きずる旧態依然とした議会や、それに付き従ってきたオールドメディアの“記者クラブ体質”を正論で袈裟斬りにする手法は、かつて郵政民営化を声高に叫んだ小泉純一郎元首相や、大阪府知事・市長時代の橋下徹氏を彷彿とさせる。

ともあれ、「日本一バズる市長」として有名になった石丸市長は、任期満了を待たずして「東京を変えて、日本を変えてみたい」との理由で、首都に舞台を移すことに決めたようだ。

7月7日投開票の都知事選には、現職の小池氏をはじめ、目ぼしい対立候補はまだ出馬表明していない。

「今後はようやくまともなことができる」と石丸氏対立派 

石丸氏の都知事選出馬表明について石丸氏と近い議員は「他をあたってくれ」と口が重かった。いっぽう対立構造の中心にいた安芸高田市議会のベテラン市議はこう感想をもらした。

「石丸氏はご存知の通りSNSなどを使っての自己プロデュースが上手な方でしたから市民には人気はあったかと思います。あと市議会の中にも石丸信者が何名かいるので、その方たちは『東京転出』を残念に思っているかもしれません。

ですが、真っ向から対立していた市議や市役所職員からすると、祝賀会で万歳三唱してもおかしくないレベル。実際、ようやく今後はまともなことができると一部の市議で集まって意見交換会を行っていたくらいです。

我々からしてみれば、ロシアからプーチンがいなくなったみたいなもんですよ。石丸市長がもし都知事にでもなろうものなら『東京都民のみなさんご愁傷様です』と言わざるをえないです。あの手のタイプは時として勝ってしまう可能性もありますからね……」

「さすが元銀行マン。大したもんだ」と評価する向きもあったんですが…

ベテラン市議から見て、石丸氏の市政運営はそんなに危ういものだったのか。

「あれはね、政治家というより銀行マンなんですよ。もう10年近く前から平成の大合併で、安芸高田市に弁当の惣菜工場を建てるという市町村合併推進事業が進められていたんですが、石丸氏は就任早々それをバッサリ切ったんです。

『あんたら10年も今まで何しとった? こんなもんやっても成功なんてしませんよ』と。採算は取れないだろうと言われていましたが、事業者の社長に着任挨拶でそう言い放ったんですわ」

民間出身者ならではの、しがらみに絡め取られない政治的決断のようにも見えるが…。

「そう。たしかに最初のうちは『さすが元銀行マンじゃのう。大したもんだ』と評価する向きもあったんですが、徐々に『やり方がエグすぎる』に変わっていきました。

市が管理していたグラウンドをなくす計画が浮上し、そこを使っていた中学校の野球部員が『あのグラウンドがなくなったら僕たちは練習ができなくなってしまいます』と存続を直談判に来たことがあったんです。

ところが市長は『バレー部や剣道部と部活はたくさんあるけど、野球部だけが市の税金を使っていいんですか? 市は野球部だけに投資するわけにはいかんのです』とカマシたんです」

 「税金がかかっているところをバサバサ切る冷酷なコストカッター」

対立するベテラン市議から見た石丸氏は「税金がかかっているところをバサバサ切る冷酷なコストカッター」と話す。

「石丸氏が都知事に当選したら都庁の職員も大変になるでしょう。つい最近、市役所を辞めた職員は、石丸市長に『ぜひ調べて報告してください』と指示されて数日がかりでまとめた調査データを『こんな事調べて何の意味があるんね?』と突き返されるということを繰り返されたそうです。

自分で言ったことすら忘れてるんですわ。まあ、我が道進むって人は、こんなもんなんでしょうな」

「市長の職務としての投稿は名誉を毀損している」

市議会との対立の実態は、どのようなものだったのだろう。別の「反・石丸派」の議員はこう話した。

「石丸氏が市長に就任したときはまだ37歳だったから、まわりの議員はほとんどがおじいさんみたいな年齢のもんばかりで『若いもんが頑張ってるんだから多少のことは目をつむって見守ろう』って言ってたんですけどね。

例の『恥を知れ』ってやつも、本人が『3日も前から言うタイミングを狙っていた』と言ってたくらいでね(笑)。居眠りはもちろん問題と思いますが、何かを考える際に目をつむるようなタイミングだってあるでしょう。

いずれにせよ、注意なら本人に直接すればいいのにSNSにいきなり投稿するのはやりすぎじゃないか、と議員らで話していたところに市長本人が乗り込んできたんですよ。

それを『呼び出しを受けた』と言い出して『議会の批判をするな。選挙前に騒ぐな。敵に回すなら政策に反対するぞ、と説得? 恫喝?あり』とまた投稿する始末ですわ」

SNSで「恫喝した」と名指しで批判された山根温子市議は「虚偽の発言で名誉を傷つけられた」と石丸市長を相手取り損害賠償を求めて広島地裁に提訴。

昨年12月26日の判決公判で光岡弘志裁判長は「市議の恫喝発言は認められず、市長の職務としての投稿は名誉を毀損している」などとして、市に33万円の損害賠償を命じている。

「石丸市長が作った話にマスコミが飛びついて、本人も取り上げられて有頂天になってしまったんでしょうね。もちろんSNSなどを駆使した発信力もあるし、若いし顔もいい。表面的には人気はありますわ。東京で頑張るというなら、それでええんじゃないですか」

学歴と職歴は立派だが“敵”も多い”ユーチューバー政治家”。トランプ前大統領を想起させる発信力に長けた石丸氏は、はたしてエースなのかババなのか。

ある都議会関係者は「カタブツな人も多く利権も絡む地方より東京のほうが石丸さんの賛同者は多いはずだ」と期待する。また、石丸氏の出馬表明には、実業家でインフルエンサーの西村博之氏や堀江貴文氏もエールを送っている。
「女帝」との闘いはまもなく幕が開くー。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班