いまや中高生の7人に1人いるといわれるネット・ゲーム依存。その中に、発達障害の人たちが少なからず含まれていることを知っているだろうか。

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男の子はゲーム、女の子はSNSの投げ銭に依存


先日、ゲーム依存の治療を行っている医療機関を取材した。そこには16人の患者が通っていたが、うち6人は発達障害の診断を受けていた(診断は受けていないが、それと類する特性を持つ者はさらに4人いた)。

話を聞いたADHDの男の子は、まだ15歳。コロナ禍を機に中学へ行かなくなってオンラインゲームにのめり込み、ゲーム課金で数十万円を浪費した。両親がそのことを咎めてゲームを取り上げたところ、逆上して母親に手を上げて怪我をさせた。そこで一度、医療機関にかかったのだが、半年ほどでまたゲーム依存に舞い戻り、今は二度目の治療をしているのだという。

あまり指摘されないが、発達障害の子供がゲーム依存になりやすいということは以前から指摘されてきた。そしてゲームやスマホの平均使用年齢が低下すればするほど、この問題で悩む人が増えてきている。

一体、ゲームと発達障害の関係とはどのようなものなのか。

現在、日本ではゲーム依存の回復施設が年々増えてきている。2018年にWHO(世界保健機関)が正式に疾患として認めたことによって、国内でも認識が一気に深まり、クリニックや病院の精神科等で治療が行われるようになったのだ。


厚生労働省「第2回ゲーム依存症対策関係者会議」より


これらの医療機関へ行くと、そこに通っている患者に明らかな発達障害特有の特性が見られることが少なくない。同じルーティーンで行動をするとか、一つのことに強いこだわりを見せるといった人が少なからずいるのだ。その中には発達障害と診断されている人も含まれている。

西日本のある通信制高校では、発達障害の子供を積極的に受け入れている。生徒の7割ほどに発達障害の特性が見られるそうだ。ここの教員は次のように述べる。

「今の生徒はみんなゲームが好きですね。ただ、ゲーム依存と呼べる状態にまでなるのは、発達障害の生徒が多い印象があります。具体的には、昼夜が逆転して学校に来られなくなるとか、課金をしすぎて親と暴力沙汰になるとかいったことですね。男の子はゲームですが、女の子はSNSの投げ銭とかにのめり込むようです」


自己コントロールが非常に苦手な点


ゲーム依存と診断されるには、ゲーム時間の長さではなく、ゲームによって日常生活に支障をきたしているかが条件になる。

毎日ゲームをしていても、きちんと学校へ行けて、成績もよければ、ゲーム依存には当たらない。だが、学校へ通学しなくなり、栄養失調、不眠症、ドライアイ、エコノミー症候群といった症状が出たりすると、これはゲーム依存とみなされる。先の教員は続ける。

「ゲーム依存になっている子は、現実世界にいろんな問題を抱えていることが多いです。親から暴力を振るわれているとか、同級生からいじめられているとか、きょうだいとの不仲がひどいなどといったことです。そもそも発達障害の子は、人間関係を育むのが下手なのでそうしたことになりやすい。それで、彼らは現実の嫌なことから逃げようとして、二次元のゲームの世界にのめり込んでいってしまうのです」


※写真はイメージです


リアルでの生活に不満があるからこそ、そこから逃げるために二次元の世界へのめり込む。これがゲーム依存への第一歩だ。

では、なぜ発達障害の特性がゲームと結びつくのか。

まず、発達障害の人たちは、現実の生活の中で健常者の人に比べて生きづらさを抱えていることが多い。人付き合いの中で他者の気持ちを読むのが苦手だったり、自分の意思を押し通してしまいがちだったりする。家庭でも同じで、発達障害の子供は親から「自分勝手な子」と見なされて虐待を受ける率が高い。

こうしたことは、彼らのストレスにつながる。日常生活に苦痛を感じ、そこから逃れたいという思いを抱きやすくなるのだ。それがゲームにハマるきっかけとなる。さらに、細かく言えば、ADHDの人には、その特性から気に入ったことにのめり込みやすいという特性がある。ゲームを好きになると、それ以外のことが見えなくなり、体調が壊れるまでやり続けてしまうということが起こる傾向が強いのだ。

ASDの人にも共通するところがあり、彼らは一つのことに非常に執着する特性がある。ゲームの何かしらの動きに心を捕らわれると、それなしではいられなくなってしまう。親が強引に取り上げると、パニックになることもある。

ADHDの人にもASDの人にも共通することとしては、自己コントロールが非常に苦手な点が挙げられる。一度何かにのめり込んでしまうと、自分を律して別のことをするということがなかなかできない。それゆえ、どんどんハマっていってしまう。


ゲームへの課金で自己破産した人も…


先の教員は言う。

「発達障害の子ってなかなか言うことを聞かないので、親も若いうちからゲームやスマホを与えがちです。そっちに関心が向いてくれれば、手がかかりませんから。けど、子供たちが一旦ゲーム依存になると、ゲームから切り離すのがすごく難しくなるんです。

発達障害の子は、なかなか周りの言うことに耳を傾けませんし、パニックになると極端な行動に出ます。ひざを突き合わせて話し合うということが苦手。そうなると、家族や学校だけでは対処しきれず、医療機関につなげるしかなくなるのです」


※写真はイメージです


それでも、学生のうちであれば、親や教員がそばにいるので問題に気づきやすいし、深刻なことになる前に医療機関につなげられる。問題は、彼らが成人して、家庭から独立した後にゲーム依存になるケースだ。

発達障害があっても、症状が大して重くなければ、彼らは一般企業に就職するなり、事業所に入るなりして、部屋を借りて自立して生きていくことになる。

ところが、彼らは自立して社会に出ることで、よりストレスをためやすい環境に置かれる。それがきっかけとなって、ゲームにのめり込むと、なまじっか家族や支援者と離れている分、ゲーム依存に陥りやすい。家から一歩も出ずにゲームをしたり、見境なく課金をしたりするのだ。

事業所で働くスタッフは次のように語る。

「昔から発達障害の子の自立には、お金の管理が苦手という問題がありました。発達障害があると、自己コントロールするのが不得意なのです。だから欲望のままに物を買ってしまったり、言われるままにお金を出してしまったりする。それで生活がたちゆかなくなることがよくあったんです。

実は、ゲームにはこうした要素が満載なのです。ゲームの中には課金システムがあり、あの手この手で課金への欲求を刺激します。そうなると、もともと自己制御ができない発達障害の子たちが、どんどん深みにハマっていって、気がついたら自己破産しなければならないくらいの事態になっていることもあるのです」

ゲームでは、企業の優秀な開発者たちが英知を集結してユーザーが課金するように誘導している。ビジネス的な戦略といわれればそれまでだが、発達障害の人にとってはそうした戦略に誘導されやすいという特質があるのだ。



過度のゲーム依存でネグレクト(育児放棄)に…


最近は、こうしたことが当事者だけの問題で収まらなくなっているらしい。大人がゲーム依存になった影響が、その子供にも及びつつあるという。

発達障害の人の中には、結婚して子供を作っている人も少なからずいる。彼らは自分たちに足りないところを補い合いながら幸せに生きていこうとしている。だが、そんな二人が子供をつくった後に、育児のストレスなどでゲーム依存になることがあるらしい。

今回取材した医師によれば、20代後半の夫婦が、子供をもうけた後に、そろってゲーム依存になったということが起きた。二人はゲームに夢中になるあまり、おむつ交換、食事、着替えなどをほとんどしなくなった。いわゆる、ネグレクト(育児放棄)状態に陥ったのである。数か月後に夫婦の親が家に足を踏み入れた時、家の中はゴミ屋敷のようになり、子供はガリガリに痩せて栄養失調になっていたそうだ。

これを発見した親は、夫婦にこう言った。
「なぜ子供の面倒をしっかり見なかったの? 死んでしまうじゃないか」

だが、夫婦は二人ともキョトンとしてこう答えた。
「子供と一緒に家にいたので、死ぬなんて思ってもいなかった」

彼らは自分たちがゲームにのめり込むあまり、子供の命を死の危険にさらしていたことにすら気づいていなかったのである。この事例は極端かもしれないが、発達障害の人たちは、そうでない人より社会の中で様々な生きづらさを感じるものだ。そこにゲーム依存という要素が加わることで、より日常生活が困難なものになるのは明らかだ。

その時、家庭を持っていれば、そのしわ寄せは最も弱い立場の子供に及ぶ。

私はゲームがすべて悪いとは思わない。使い方さえ間違わなければ、適切なストレス解消のツールとなるだろう。だが、社会的に弱い立場の人たちが、自覚もないままにのめり込み、より生きづらさを抱えることになっているのだとしたら、それはそれとして別に考えるべき問題であることは確かだ。

取材・文/石井光太

★取材対象者募集
シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症など様々な社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報をお守りすることはお約束しますので、取材を引き受けていいという場合は下記までご連絡下さい。

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