自分のワードローブをあされば、誰しも外では着られない微妙なTシャツの1枚や2枚はあるだろう。そんななぜか捨てられない「雑魚Tシャツ」にまつわるあれこれを、「smart」元編集長が思い出してみた。

ショッキングなバンドTシャツもなかなか着られないが、
それより厄介な“雑魚Tシャツ”


人は誰しも、人前では決して着られない、微妙なTシャツを何枚かは持っているものだろう。
たとえば僕の場合、どこかの戦場で撮られたらしい黒焦げの焼死体写真がプリントされたGAUZEのTシャツや、思い切りバンド名が書いてある原爆オナニーズのTシャツ、バニーガール風の艶かしい肢体なのに顔は目玉親父なザ・レジデンツのTシャツ、「FUCK OFF」という文字やハーケンクロイツが派手にプリントされたナパーム・デスのTシャツなどは、もう何年も人前で着ていない。

年頃の娘もいるいい歳こいたおっさんがそんなTシャツを着ていたら、人をギョッとさせてしまうだろうと思うからだ。


なかなか着にくいバンドTシャツ


だけどそれらは全て、好きなバンドのTシャツなので、着られはしないけど捨てることもできない。これから先、もっと歳を取ったらもっと着にくくなるとわかってはいても、でもやっぱり大事なので捨てない。
まるで、かつて一世を風靡したものの、レジェンドに祭り上げられてさっぱりオファーが来なくなってしまった、大御所タレントを扱うような感じだ。ちょっと違うか。

今回、僕のTシャツコレクションの中からセレクトして公開したい(というほどご大層な話でもないが)のは、そうしたレジェンドTシャツではなく、もう少し違うニュアンスによって人前で着られないTシャツだ。
それを着て出かける気にはとてもなれないけど、なぜかなかなか捨てられない、名付けて“雑魚Tシャツ”である。

雑魚Tのポイントは、前述のインパクトバンドTシャツのような思い入れはないが、デザイン的には人を驚かせたり不快にさせたりするようなものではないし、着心地が良かったりするので、部屋着や寝巻きとしてはむしろ積極的に活用中であること。
だから家族にとっては、「パパがよく着ているTシャツ」として、むしろおなじみだったりする。

でも、なんらかの理由によって自分の中で“雑魚”と分類しているので、外出する際にはわざわざ別のTシャツに着替えたりする。
言うなれば、球団在籍歴は長いけど、決して公式戦に登板することはないバッティングピッチャーのような存在である。
これも違うかな。

ね、皆さんもそんなTシャツを何枚かは持っているでしょ?
僕の雑魚Tを公開しても、社会に対してなんの貢献にもならないんだけど、まあそういうことも大切なので(なのか?)、お見せいたしましょう。


頑張れば着られるかもしれないけど、
やっぱりイマイチ着たくない雑魚レベル“弱”


まずは、雑魚レベルは“弱”のTシャツを2枚。
なぜ“弱”なのかといえば、パッと見のデザインはそれほど悪くなく、着ていて人に不審感や不快感を与えるようなものではないので、気持ちの持ちようによっては外出用にしても悪くはないかもと思えるものだからだ。
どちらとも旅行中にやむにやまれぬ事情により購入した、ご当地Tシャツという共通点がある。

① 静岡「三島スカイウォーク」ロゴTシャツ
日本最長400mの歩行者専用吊り橋がある観光施設「三島スカイウォーク」。
家族でここに遊びに行ったとき、「ロングジップスライド」という巨大ジップラインを体験した。
めちゃくちゃ楽しいアクティビティだったのだが、僕は着地に失敗して地面に敷き詰められたウッドチップに体ごと突っ込んでしまい、来ていた服がドロドロのトゲだらけになってしまった。
致し方なく、直後に着替え用として売店で買ったTシャツがこちらだ。
さっぱりしていて悪くないデザインだけど、観光名所のロゴがただプリントされているだけのTシャツなので、残念ながら“雑魚T”入りとなっている。


雑魚Tその1 三島スカイウォーク


② 千葉「ザ・フィッシュ」ロゴTシャツ
ザ・フィッシュというのは千葉の南房総・金谷にある、レストランと海産物おみやげ市場が集まった大きなショッピング施設。
何年か前にキャンピングカーで房総半島一周の旅をしていたとき、準備が甘くて服不足に陥っていた僕は、その夜の着替え用にこのTシャツを購入した。

「三島スカイウォーク」Tシャツと同様、デザイン的にはまあまあ頑張っているので普通に着てもいいのだが、どうもやっぱりおみやげ屋さんのロゴだと思うと萎えてしまう。
ちなみにザ・フィッシュは僕が訪れた翌年の秋、台風による甚大な被害を受けて一時営業不能に陥った。
ニュースでもボロボロになったザ・フィッシュの映像がたびたび流されたので、僕は家でこのTシャツを着て「がんばれー」とエールを送っていた。


雑魚Tその2 千葉ザ・フィッシュ


意味があるゆえに人に見られるのが面倒臭い、
雑魚レベル“中”のTシャツたち


続いて、雑魚レベル“中”のTシャツを3枚ご紹介しよう。
このレベルになると、着ているだけで「そのTシャツ、何?」とか「面白いの着てるね」などと指摘を受けることがあって面倒臭いので、迂闊には他人に見せられない。

① 静岡「サンハトヤ/ハトヤホテル」のTシャツ
ハトが温泉に浸かっている図案が胸元に入る、伊東に行くなら〜のハトヤTシャツは、泊まりに行った際にノリで買ったものだ。
こういうのは、買った瞬間は盛り上がって「いいもの手に入れた」と思うのだが、家に帰って熱が冷めた後には……、まあ着られません。
気づいた人に突っ込まれるときも「何そのTシャツ。ハトヤホテルの? へえー!………」となり、それ以上の会話には発展しない。
だからどうした感を場に漂わせる、なかなか虚しき雑魚Tなのである。


雑魚Tその3 伊東に行くならハトヤ


② 東京オリンピック2020の公式Tシャツ
これもまた、いっときの熱に浮かされて買ったブツである。
コロナ禍により一年延期され、2021年夏に開催された東京2020オリンピック。
まだ記憶に新しいが、評判が悪かった開会式でほぼ唯一、「あれは良かった」と絶賛されたのが、種目ごとのピクトグラムを人が巧みに再現して見せたパフォーマンスだった。
よくよく考えると泥臭い、新入社員の宴会芸のようなものだったが、それを敢えてオリンピックという世界の檜舞台で披露したのが逆に新鮮で、一時的にピクトグラムが大きく注目される結果となった。
僕もそのときの世の空気に流され、たまたま見かけたこのピクトグラムTシャツを即決で買って喜んで着ていたのだ。
でもその手の熱は冷めるのも早く、2回ほど外出に着たのち、あえなく雑魚T入りしたのである。


雑魚Tその4 東京五輪ピクトグラム


③ 富士山みやげFujidesTシャツ
説明不要のアディダスオマージュのジョークTシャツだ。
アディダスの三角形マークを富士山に見立てようという一点突破の発想から生まれたものと想像できるが、それ以上でもそれ以下でもなくて、扱いに困る。
メジャーな観光地ほど、みやげ店にはこの手のジョーク系パロディグッズが並んでいるが、非常に雑魚化しやすいので、よく考えてから買った方がいいと思います。


雑魚Tその5 フジデス



最後に最強レベルの雑魚Tシャツを



そして最後。雑魚レベル“強”のTシャツを2枚ご紹介しよう。

① マクドナルド公式Tシャツ
こいつはいつから持っているのだろう?
確か15年以上前に、人からもらったものだったと思うのだが。
真っ赤なボディにお馴染みのマクドナルドマークとキャッチコピー。
僕はマクドナルド大好きなのだが、さすがにこのTシャツはちょっと。
て言うか、マックのスタッフ用だよね、これ?
街中でこれを華麗に着こなすことができる人がいたら逆に尊敬する。

そしてマクドナルドに入ってニコリと笑い、「ビッグマックセットを店内で。サイドメニューはチキンナゲット、マスタードソースで。飲み物はコーラゼロ。支払いはスイカでお願いします」などとスマートに注文できたら、生きるのがとても上手な人と認定してあげてもいいと思う。


雑魚Tその6 アイム・ラヴィン・イット


② 雑誌『smart』のロゴTシャツ
何を隠そう、この記事を書いている筆者は『smart』誌の元編集長。
このTシャツは、現役時代に開催した読者イベントの際、イベント会社に作ってもらい、会場内で着ていたスタッフTシャツだ。
自分が十数年前に関わっていた雑誌のロゴが堂々と胸にプリントされたTシャツなんて、いまさら着られるわけがない。
でも思い出深く、捨てがたいのも確か。
いつかそのうち、シャレで着ていける現場があればいいなと思っているんだけど、まあないだろうな。


雑魚Tその7 スマート


以上、僕が自宅の服の山から発掘した雑魚Tシャツのほんの一部だ。

恐らく二度と陽の光を浴びせてあげることもできないのだが、でもなんだか愛しくて切なく、また心強い服のお話でした。



写真・文/佐藤誠二朗