人口の減少とともに、日本のコメ余りは加速しており、近年は年間、10万トンを超える勢いで消費量がで減っている。ここまで急激に需要が減っている最大の原因はなんなのか。そして米離れの中、パックご飯の売上はなぜか伸びている理由を『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

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減反政策がコメ余りの原因になるわけ


日本の農業産出額は8.8兆円(2021年時点)。この30年間の推移を品目別に見ると、畜産は2.9兆円から3.4兆円、野菜は2.5兆円から2.1兆円、果実は1兆円から0.9兆円となっており、いずれも数千億円単位の変動と、そう大きくは変わっていない。

一方で、コメを見てみると、3.4兆円から1.4兆円と半分以上減っており、別次元の落ち込み方をしている。農業総産出額はこの間に2.4兆円減ったことになる。このうちの8割以上がコメの減額分なのだ。コメは、他の主食と比べても、やはり突出した落ち込みを見せる。

穀物4品目(コメ、パン、麵類、その他)の消費金額が今後どのように推移するか、公益財団法人流通経済研究所が予測しているのだ。それによると、2030年は2016年と比べ、4品目すべてで消費金額が減少する。ただし、残りの3品目がせいぜい5%台の落ち込みなのに対し、コメは17.8%の減と他を圧倒している。

人口の減少とともに、コメ余りは加速しており、近年は年間の消費量が10万トンを超える勢いで減っている。農林水産省はその要因を人口減少やコロナ禍に求めがちだが、ここまで急激に需要が減っている最大の原因は生産調整、いわゆる減反政策にある。

1970年に始まったこの政策で、コメが供給過剰にならないように作付けを抑え、米価を高く維持してきたからだ。こうして作り出された高米価が、消費をより冷え込ませてしまった。
このことは、農林水産省も認めている。



ブランド米と消費者ニーズのミスマッチ


さらに、米価が高止まりしがちな理由に、いわゆる「ブランド米」の道府県による開発競争がある。新品種を次々とデビューさせた結果、価格帯の高いコメが過剰に供給される一方で、値ごろ感があり加工・業務用に使われるいわゆる「業務用米」が品薄になりがちだった。米穀卸や業界関係者の間では、「いまやブランド米が業務用米を圧迫する一因になっている」と言われている。

ブランド米は、コメ消費の主力である家庭での炊飯がメーンターゲットだが、需要は下落傾向にある。

一方で、全体の三割を超える中食・外食で使われる業務用米は増加傾向にある。
つまり、川下にいる実需者のニーズとは裏腹に、川上の産地でコメを高く売りたい、地域のブランドを打ち立てたいという思いが先行し、ミスマッチが起きた。

その結果、「業務用米はもはや存在しない」と、中食・外食向けに米飯を提供する業者でつくる日本炊飯協会(東京都)の福田耕作顧問(当時)が宣言するほどの品薄と高騰が2016~19年に起きる。中食・外食業者はパックご飯やおにぎり、ご飯を使ったメニューを値上げしたり、価格を据え置く代わりにご飯の量を減らしたり、主食をパスタにしたパスタ弁当を増やしたりと、さまざまな対応をとった。いずれも、ただでさえ減っているコメの需要をさらに押し下げる効果を果たしたはずだ。

失政もあって、コメの消費量が年々減っているなか、それを尻目に業績を伸ばし続けているを使った商材もある。それが「包装米飯」いわゆるパックご飯。それから、冷凍米飯のなかでもとくに冷凍炒飯だ。


米離れで、パックごはんがすすむ


「米離れで、パックごはんがすすむ」。こんな刺激的なタイトルのプレスリリースが2022年10月末に公表された。こう高らかに宣言したのは、パックご飯大手のサトウ食品株式会社(新潟市)。一九八八年に世界で初めて無菌包装米飯(パックご飯)の「サトウのごはん」を発売した、このジャンルの草分けであり、パックご飯の売上額は国内最高とみられる。

「サトウのごはん」の売上は、2021年度に253億9700万円で、19年度に比べて20.8%増と大幅に伸長。直近の二二年度第一四半期は56億8600万円で、前年同期比14.0%増と過去最高の実績になったとプレスリリースは伝える。そのうえでこう続ける。

「この10年間で主食用米の需要は約90%と下降しておりますが、同期間比較での当社売上高推移は、約2倍、主力商品5食パックは2.6倍となっており、その伸長は当社の想定を遥かに上回る急伸長となっております」



主食用米は1割需要を減らし、サトウのごはんは売上高2倍に


主食用米が1割需要を減らした間に、売上高が2倍になった。その理由は主に次の3つにあるとする。

コロナ禍で家庭内食が増えたというライフスタイルの変化に適していたこと。家庭で炊くご飯以上の「炊きたてのおいしさ」を目指した「サトウのごはん」というブランドが、より多くの消費者に受け入れられるようになったこと。パックご飯の位置づけが、災害に備える備蓄用や急にご飯が必要になった時のための「お助け食品」から、主食そのものに変化していることだ。

同社を含むパックご飯の市場規模は拡張を遂げている。農林水産省の「食品産業動態調査」によると、無菌包装米飯(パックご飯)の2021年の生産量は20万6000トンで、19年に比べて12.80%伸びた。

パックご飯は右肩上がりの成長を続けていて、まだピークには達していないとみられる。1988年の発売当時は、パックご飯に限らず、冷凍食品や惣菜のようなでき合いの食品を買うことが「手抜き」と捉えられがちだった。そうした風潮は様変わりし、電子レンジもほぼ一家に一台あるところまで普及した。


なぜパックご飯の需要が増すのか


コメの需要が減るなか、パックご飯の需要が増す。一見矛盾したこの現象は次のように謎解きできる。

コメ以外を主食にすることが増えた理由の一つは、炊くのが面倒だから。無洗米を使う場合もあるにせよ、一般的にはコメを研いで水を吸わせて、40分から50分かけて炊飯して蒸らす。食事のなかでは調理時間が長い。

ご飯を炊く時間はない。でも、あたたかいご飯を食べたい。そんな需要にピタリとはまったのが、パックご飯というわけだ。

自宅で炊飯する場合に比べて、パックご飯は高価なものだ。それでも買い求められるのは、ご飯を炊く時間と手間を買われているとも言える。

予想以上に需要が伸び、いまや「サトウのごはん」は品薄状態になっている。そこで、約45億円をかけて既存のパックご飯専用工場の「聖籠ファクトリー」に新たな生産ラインを増設し、2024年に稼働させる。増設により「サトウのごはん」の生産能力は、現在の日産約103万食から123万食まで拡大する。年間4億食が供給できる計算だ。

そもそも、聖籠ファクトリーは、同社にとって3つ目のパックご飯専用工場だ。2019年に約50億円を投じて建てられ、日産20万食、年間6500万食の生産能力を持っている。
大幅な増産を可能にする工場だったのだが、それでも間に合わず、今回生産ラインを増設するに至った。



米飯の生産能力は現在の150%まで拡大するだろう


業界関係者はパックご飯の将来をこう占う。

「市場規模は700億円程度で、まだまだ小さい。顧客は、高齢者が非常に多く、高齢化につれて、需要も増えると想定される。時短という部分でも、まだまだ使ってもらえる場面はあるはずで、将来的にはコメ全体の一%程度を使うまで拡大しうる」

パックご飯同様、主食用米の需要が減るなかで右肩上がりの成長を見せるのが、冷凍炒飯だ。炒飯のほかにピラフやおにぎり、その他の米飯類を含む冷凍米飯全体は、ここ数年伸びが鈍化している。そんななか、炒飯は成長を続けてきた。

冷凍食品大手の株式会社ニチレイフーズは、今後も冷凍炒飯の市場規模は広がり続けると予測している。船橋市に炒飯やピラフといった米飯専用の工場を持つが、「東西二拠点体制で旺盛な需要に対応」するとして、福岡県宗像市に約115億円を投じて米飯工場を建設する。完成すれば、炒飯をはじめ、炒める工程の伴う米飯の生産能力が現在の150%まで拡大するという。

2021年時点の冷凍炒飯の国内生産量は約10万トン、冷凍米飯全体だと約19万6000トンになる(一般社団法人日本冷凍食品協会調べ)。

冷凍炒飯にせよ、パックご飯にせよ、成長を続けるのは間違いない。原料としてのコメの需要は年を経るごとに拡大するだろう。こうした旺盛な需要を捉えていくことが、今後のコメ産地には欠かせない。


#1『日本の農業が危機…2024年、関東で「あまおう」が食べられなくなる!』はこちらから


『人口減少時代の農業と食 』(ちくま新書)

窪田 新之助 (著), 山口 亮子 (著)

2023/5/11

¥1,012

新書 ‏ : ‎ 304ページ

ISBN: 978-4480075543

人口減少で日本の農業はどうなるか。農家はもちろん出荷や流通、販売や商品開発など危機と課題、また新たな潮流やアイデアを現場取材、農業のいまを報告する。
日本農業にとって人口減少は諸刃の剣といえる。これまでのあり方を一部で壊してしまう一方で、変革の推進力にもなる。農産物の生産や流通は、総じて人手不足で、生産者と流通、販売、消費の間の溝やズレも明らかになっている。ピンチをチャンスに変えるべく、こうした課題に立ち向かう現場がある。生産から出荷までの合理化、消費者と直接つながる商品の開発、物流のルール変更への対応……。世間で思われているほど暗くない、日本農業の未来を報告しよう。