1990年代から2000年代にかけて人気を博した俳優が、なんと2023年の現在も人気を独占中のハリウッド。集客が期待できる俳優が中年・熟年世代になってしまった理由を、ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・中島由紀子さんが解説する。

時が止まったような衝撃のランキング


57.8。
この数字は、NRG (national research group)が行った「映画館で見たいスター」の調査で、トップ20に選ばれた俳優の平均年齢です。


1 トム・クルーズ(60歳)
2 ドウェイン・ジョンソン(51歳)
3 トム・ハンクス(66歳)
4 ブラッド・ピット(59歳)
5 デンゼル・ワシントン(68歳)
6 ジュリア・ロバーツ(55歳)
7 ウィル・スミス(54歳)
8 レオナルド・ディカプリオ(48歳)
9 ジョニー・デップ(59歳)
10 ケヴィン・ハート(43歳)
11 キアヌ・リーヴス(58歳)
12 サンドラ・ブロック(58歳)
13 ライアン・レイノルズ(46歳)
14 アダム・サンドラー(56歳)
15 ハリソン・フォード(80歳)
16 ジョージ・クルーニー(62歳)
17 ロバート・ダウニー・ジュニア(58歳)
18 アンジェリーナ・ジョリー(47歳)
19 モーガン・フリーマン(86歳)
20 クリス・ヘムズワース(39歳)

テクノロジーとエンターテインメントを専門とする分析会社NRG (national research group)が2023年2月、12歳から74歳までの人を対象に「映画館で見たいスター」を5人ずつ挙げてもらった調査結果。
(年齢は2023年6月2日時点)


1位が大スター、トム・クルーズだというのは納得です。膨大な興業収入にマッチする世界的な人気を保っています。ぜいたくな希望をいえば、『ミッション:インポッシブル100』まで見たいくらいですが、彼の才能でいろいろな役柄にもチャレンジしてもらいたいです。


今年60歳になったトム・クルーズ
AP/アフロ


トムほかベテラン勢の息の長い活躍は称賛に値するとはいえ、全体を見渡すと衝撃です。
1990年代〜2008年の休刊までに映画雑誌「ロードショー」の表紙を飾ったトップスターたちが、2023年のハリウッを支えるトップスター・ランキングにそのまま登場しているなんて……。時間が止まってしまったようなラインナップに頭がクラクラします。

40歳以下はクリス・ヘムズワースたったひとり(彼も8月には40歳に)。ちなみに40代もレオナルド・ディカプリオとライアン・レイノルズのふたりです。

トップ20をトップ100に広げると、かろうじて『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)で興業収入20億ドルをあげたトム・ホランド(26歳)が37位に顔を出します。相手役のMJを演じたゼンデイヤ(26歳)は47位。ティモシー・シャラメ(27歳)は94位です。


アメコミ作品が興行収入の王者


このリストがそんなに重要かと疑問を持つ人もいると思いますが、重要です。
なぜなら「好きなスター」の調査ではなく、「映画館で見たいスター」という調査だからです。
ハリウッドは興業収入の数字に頼って回転している業界なので、映画スタジオは経済的リスクを避けるために、このデータを信頼することになるからです。

若手スターが生まれない理由は、映画スタジオがスターの輩出に励まなくなったのが大きな原因のひとつでしょう。スターを世に送り出すには、本人の才能やスター要素にプラスして、時間と戦略とお金と人力を投入した宣伝活動が必須です。

ところが現在のメジャースタジオの映画製作は興行収入を上げることのみに注力しています。いい映画、感動できる映画を作ってもお金にならないため、独立系スタジオに人間ドラマの製作と人材育成を任せっきりにしてしまったのです。

現在の興行収入の王者はアメコミ映画。マーベル・コミック、DCコミックはマネー・マシンです。『スーパーマン』が初めて映画に登場したのが1938年ですから、アメリカンポップカルチャーとして歴史に深く根づいています。

製作費も興行収入も桁外れです。『アベンジャーズ』シリーズ4本の世界総興行収入が80億ドルを越し、製作費はそれぞれ3億ドル前後。ゼロの数を数えるのに苦労する額ですが、製作費の2〜3倍の興業収入を上げてしまえば、あとは楽々純利益だそうです。作れば売れる人気作をシリーズ化し、リブートし続けているのが現状です。

そういった莫大な興行収入を上げるアメコミ映画でスターになった人は、トップ20の中でクリス・ヘムズワースだけ。そのことが、アメコミの興行収入の高さとスター誕生が結びついていない、わかりやすい例だと思います。ヒーローたちも世代交代、あわせて新人や若手が主演を務める続編たちが大勢を占めてきましたが、アメコミ映画への倦怠感が漂い始めていると見聞きすることも多く、時すでに遅しな感もあります……。


ストリーミングサービスも若手不在の要因


劇場に行かずして家で映画が楽しめるストリーミングサービスもスター誕生の足を引っ張っています。
劇場公開作は少し待てば、リビングルームで家族みんなで見られます。わざわざ大金をかけて見に行くのは、ワクワクが保証されている超大作のみ。新人が出ている中規模・小規模の作品にお金をかける観客がいないから、そういうものは作られなくなり、若い俳優起用のチャンスが減るという悪循環になっているのです。

ちなみにランキングに女優が圧倒的に少ないのは、ハリウッドの悪しき伝統。女性が主人公のストーリーは興行収入に繋がりにくいため、映画化される脚本も少なく、女優の出番が少ないのです。

今年もせめぎ合う夏休み向け大作の中心が、またもやトム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(7月21日公開)。そして、80歳にして15年ぶりに最新作に挑戦するハリソン・フォードの『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(6月30日公開)。


5月のカンヌ国際映画で生涯功労賞を授与されたハリソン・フォード
AP/アフロ


マット・デイモン主演の『オッペンハイマー』(全米公開は7月21日)や、ライアン・レイノルズ出演の『バービー』(8月11日公開)も控えています。

今活躍する大スターたちは、はたして10年後もハリウッドを牽引できているでしょうか? そろそろ本気で、若い世代のスターを発掘・応援してほしいと思います。


文/中島由紀子