「服が売れない時代」と言われ、コロナ禍でさらなる苦境に立たされたファッション業界の中で、業績好調な企業がある。スポーツアパレルメーカー大手の「GOLDWIN」だ。2022年3月期の連結業績では過去最高の売上高982億円となった。その根幹を支えるのは、同社の看板ブランド「THE NORTH FACE」(ザ・ノース・フェイス、以下ノースフェイス)。事業本部長を務める森光氏に、ノースフェイスが確固たる地位を築き上げた理由を訊いた。

90年代の「ノースフェイスを着こなせばかっこいい」という機運


1983年、GOLDWINは直営店ビジネスの足がかりとして、原宿駅竹下口に「WEATHER STATION(ウェザーステーション)」をオープン。

そして、1994年には日本国内におけるノースフェイスの商標権を取得したことで、本国アメリカとは異なる日本独自の商品開発や企画、販売戦略を立てることが可能になった。

90年代当時から、他のアウトドアブランドに先駆けてファッションやライフスタイルを意識した訴求を行い、原宿の裏原カルチャーなどストリートや音楽カルチャーと自然と結びついていったという。

特に90年代のヒップホップシーンで流行ったWu-Tang ClanやNasといったHIPHOPアーティストも、ノースフェイスを着用していたことから「ノースフェイスを着こなせばかっこいい」という機運が、原宿界隈に集まるファッションラバーを中心に高まったとも考えられる。

こうした背景はもとより、「ノースフェイスにおけるブランドの世界観を表現するため、デザインやコンセプトが異なる直営店を多店舗展開していったことが、ブランド認知拡大に大きく寄与した」と森氏は語る。

「1994年に商標権を取得し、販売戦略もGOLDWINで企画できるようになったことが、ひとつの鍵になっていると思います。日本人の感性に合うようなブランドの世界観を体現した直営店を出店したことでブランドの知名度が上がったのはもちろん、お客様のダイレクトな声がわかるので、商品開発にも役立てることができたのも、直営店ビジネスのメリットでした」


「ファッション」と「アウトドア」のいいとこどりを追求


海外と違って、日本人は商品を選ぶ際の基準が高いので、「いかに日本のマーケットにフィットするか」を考えながら、ノースフェイスを根付かせる努力をしてきたそうだ。

「海外ブランドを展開するビジネスは、基本的に本国で生産された商品を販売するディストリビューション方式の形態をとります。一方で、ノースフェイスの場合は弊社で培ってきたものづくりのノウハウを生かし、日本独自の企画・販売を手がけました。

アウトドアブランドの持つ機能性の高さはもちろん、素材やカラー、裏地にもこだわり、商品に求めるクオリティの基準が高い日本人のニーズに応えられるような商品を市場に出してこられたのが、多くの方に愛用されるブランドに成長した要因だと思っています」(森氏)

「マウンテンライトジャケット」や「ヌプシジャケット」など、ノースフェイスを代表するアウターはもちろん、“DO MORE WITH LESS(最小の力で最大限の機能を引き出す)”というブランドアイデンティティをもとに、アウトドアを立脚点とした商品を数多く生み出してきた。


ノースフェイスを代表するアウター「マウンテンライトジャケット」


「アウトドアの原点を忘れずに、機能性や使いやすさ、デザインを追求した商品開発を行っています。ある種、お客様が求めるファッションとしての『軽さや着心地・使い勝手の良さ』とアウトドア用品が備えるべき『保温性などの機能面』は相反するものだと思っていて、これらを両立する必要性があると感じています。

こうした宿命を背負いながら、素材やデザイン、スペックを試行錯誤しつつ機能面も担保することにこだわり、お客様のニーズを満たせるように努めています」


タウンユースが成長の要因に


一例を挙げると、ベースキャンプシリーズとして作られた「BCヒューズボックス」という商品は、大容量仕様のバックになっているほか、収納性にも優れている。


大容量かつ収納性に優れたバック「BCヒューズボックス」


「BCヒューズボックスは、もともと登山家がヒマラヤへ遠征する用途で作られたバックで、キャンプギアをたくさん入れても破れない生地を使用し、防水性も高いスペックを備えています。もっと薄い生地を使えば軽くなりますが、耐久性が落ちたり過酷な環境に適合しなかったりするので、あくまでアウトドアを端に発した商品として愛用されてきました」

さらに、ノースフェイスのロゴが際立つバックプリントは、ファッション性にも富んでいることからタウンユースの需要も取り込むことができ、ダンサーやラッパー、DJなどにも支持されるようになったのである。

加えて、ノースフェイスの名を不動にしたのが、ハイブランドやファッションブランドとのコラボだった。

2000年代に入ってからは、COMME des GARCONSやsacai、SupremeやVANSなどの名だたるブランドとコラボした商品を発売したことで、ノースフェイスを支持するファンの裾野を広げる工夫を凝らしてきたという。


ロゴを見たときの信頼感


順風満帆に見える道のりだが、近年では、コロナ禍初年度の緊急事態宣言下では、直営店の全店クローズやインバウンド需要の落ち込みによって、一時は売上を落としてしまった。

また感染拡大防止の観点から、日本アルプスの山小屋が相次いで営業休止した頃も、厳しい状況だったという。

しかし、こうした落ち込みは一時的なもので、テレワークにも使える快適なウェアやトレーニングウェアの消費志向が生まれ、さらには日帰りキャンプやハイキングユーザーも増えたことで、リバウンド需要の恩恵を受けることができた。

コロナ初年の2020年度は売上減だったものの、2021年度からは再び右肩上がりの成長に。そして、今年3月期の連結業績においては過去最高益を達成し、勢いを取り戻している。

「コロナ禍で再認識したのは卸売りビジネスの重要性でした。大都市の直営店が軒並み閉店を余儀なくされた時期に、これまで関係性を築いてきた取引先への卸売りが非常に肝となりました。卸売りがあったからこそ、大きな痛手を被ることなく乗り越えられたと思っています」

今後は、ランニングやトレーニングなどのアスレチックカテゴリーを伸ばし、新たなビジネス拡大にも挑む。

「ノースフェイスは初期の頃からトレイルランニングに注力してきましたが、今後はロードランニングの世界にももっと深く入っていきたいと思っています。例えば、今年開催予定の『湘南国際マラソン』では、マイボトルマラソンという新しい試みも考えています。世の中のトレンドとして『軽く、薄く』というスマートさが求められていますが、『軽くて丈夫』なタフネスさを追求したワークウェアの新製品も今秋にローンチする予定です。


湘南国際マラソンの「ランニングソフトボトル」


マーケティングでも直営店ビジネスでも、常に新しい取り組みや驚きにつながるアイデアを考えながら、お客様の期待に応えられるようにしていきたいですね」

ノースフェイスに対するブランドの安心感やロゴを見たときの信頼感。

そして、「買っておけば間違いない」というブランド価値を醸成できたことが、星の数ほどあるファッションブランドの中でも、今もなお愛されている大きな要因になっているのではないだろうか。

取材・文/古田島大介 画像提供/GOLDWIN