毎日暑い。なんなら熱い。そんな夏場は、キンキンに冷えたビールや、さっぱりレモンサワーをぐび〜っといきたいもの。しかし、日本酒だって負けてない。実は夏場にこそ試してほしい日本酒の飲み方があるのである。読めば今夜は日本酒が飲みたくなること間違いなし!

飲み方や選び方次第で、夏だって日本酒はオイシイ!


一、 夏ならでは! 日本酒の意外な飲み方


まだまだ暑い夏の夜、須玖ヨウコ(24)は浴衣姿で
ドキドキしながらお店の前に立つ。
カラカラと引き戸をひいて、恐る恐る中をのぞく。

マスミ ヨウコ、ここここ。浴衣、かわいいー!

今宵は、同じ部署の先輩、能見マスミ(33)と、女子浴衣会なのだ。
仕事ができて人望も厚い彼女はヨウコの憧れの人で、
また日本酒を教えてくれた人でもある。

ヨウコ 先輩も素敵です!
浴衣でお酒を飲みにくるなんて、風流で大人の女性みたい!
マスミ 雰囲気でるよね! 暑いけど我慢でき…やっぱり暑いな(笑)

ここはマスミ先輩行きつけのお店だ。
ヨウコが座るや否や、お酒のメニューを広げてくれる。

マスミ 私はもう決まってるんだ(笑)
ヨウコ 先輩は、夏でも最初から日本酒なんですか?

日本酒ってちびちび飲むって感じだし、
夏なら一杯目は正直ビールのほうが気分ではないか…。
そんな気持ちが表情に出ているヨウコ。

マスミ そうねぇ、ビールの時もあるけど。
ヨウコ 何を頼むんですか?
マスミ “まんさくの花 かち割りまんさく”(日の丸醸造株式会社)。

マスミ先輩はそう言って黒板を指した。

ヨウコ かち割りって、かち割り氷とかのかち割り…?
マスミ そう。ロックで飲む用の日本酒なの。
ヨウコ えっ、日本酒をロックで飲むって、アリなんですか?
マスミ 全然ありだよ。
ヨウコ 水っぽくなりません?
マスミ そりゃずっと置いておけばね。
氷で冷やすことで、キレがよくなるから夏にピッタリ。
ヨウコ ふーん。じゃあ私もそれ飲んでみます。

やや半信半疑な表情のヨウコだが、素直に挑戦してみるようだ。
マスミは、1合の半分、90mlでかち割りまんさくを二つ頼んだ。

ヨウコ ロック専用の日本酒って他にもあるんですか?
マスミ 有名どころでは、木下酒造が造る“玉川”のIce Breakerね。
ペンギンのラベルがかわいいの。
でもロック専用じゃなくても、冷やして飲むのがおいしいタイプなら
だいたい美味しい。
ヨウコ アルコール度数が高めだから、
ロックだとアルコール度数も抑えられていいですね。

マスミ もちろんそのまま飲んだほうが美味しい日本酒もあるけどね(笑)
ヨウコ メニューにある日本酒ハイボールってなんですか?
マスミ 炭酸で割るの。ハイボールのウイスキーを日本酒に替えたものね。
純米酒とか原酒、にごり酒とか比較的味がしっかりした日本酒との相性がいいわ。
香りがあるタイプもいいわね。
ヨウコ へええ! 割る割合はどのくらいがいいんですか?
マスミ ウイスキーと同様炭酸3に対して日本酒1がいいという声と、
日本酒のアルコール度数は平均15〜16度とウイスキーよりも低いから、
1対1くらいがちょうどいい、という意見があるわね。
好みもあるけど、純米酒とかどっしりした日本酒は3対1、
純吟で香りも華やかなタイプは1対1がいいかなぁ。
ヨウコ 日本酒って結構自由に楽しんでいいんですね。
マスミ そうね〜。夏場に私がよくやるのは、
コンビニの冷凍フルーツを氷代わりにして日本酒に入れて飲むの。
パインとか苺とかブルーベリーとか。
この場合は、甘口のカップ酒とかが合うのよねぇ。


ロックにしたり、炭酸で割ったり、冷凍フルーツを入れたり…日本酒を自由に楽しもう


ニ、夏酒ってどんな味?


かち割りまんさくがやってきた。なんと氷は別添えだ。
かき氷屋さんのような夏らしいラベルが特徴的だ。

マスミ せっかくだから、氷入りと氷なしで飲んでみよう(笑)
ヨウコ じゃあ、氷なしから。

こくり、と一口飲んだヨウコ。

ヨウコ 美味しいです! スッキリしてるけどほのかな甘味もありますね。
マスミ うんうん。じゃ、氷入りは?

ヨウコは、別添えの氷に日本酒を注いで、カラカラと
氷を揺らしてから一口。

ヨウコ !!! ほんとに違う。さっきよりもスッキリ感じます。
なんだろ? 甘味よりも酸味のさわやかさが引き立つ感じ?
すごくサッパリ飲めます〜! 衝撃です〜! 飲み口もサラサラ。
マスミ でしょでしょ!
キレが増してガッツリ系のつまみにもバッチリ!
夏といえば、から揚げビール、餃子ビールっていうけど、
唐揚げ日本酒、餃子日本酒も試してみてほしいわ。

そこへタイミングよくおつまみが運ばれてきた。
やってきたのは鯵と夏野菜の南蛮漬け、夏野菜のポン酢ジュレ。

マスミ あ、ごめん。来る前にたのんじゃったの。
疲れに効く、お酢系のつまみ食べたいなと思って。
ヨウコ どっちも美味しそう!
マスミ トマトやジュレの出汁と日本酒の相性もいいよ。
ヨウコ 南蛮漬けと合いますね。これは食欲がわいてきます(笑)
…お酒が進んじゃう。先輩、もう飲んでしまいました。
マスミ いくら飲みやすいからって気をつけてね(笑) はい、水も飲んで。
ヨウコ そうでした。他、なにかオススメの日本酒ってありますか?
マスミ そうね。今日はまだ夏酒があるから、そこから選んでみよう。
ヨウコ 夏酒って、以前飲んだ“おばけラベル”(“文佳人”の夏酒専用ラベルのこと)とか、“ひと夏の恋”も夏酒でしたよね?
マスミ そう。覚えてたんだ、うれしいな。
ヨウコ 前とは違ったラインナップですね。
そもそも夏酒ってどんな特徴があるんですか?
マスミ 夏酒に明確な定義ってないのよね。
夏に冷やしておいしく飲める日本酒というくらいしか私も知らない(笑)
特徴としては、
1、しゅわっと発泡の生酒系
2、にごり酒系
3、ロック向き原酒系
味は甘さが控えめで、さわやかな酸味が特徴かな。
まるで白ワインのような酸味が強い日本酒なんかもあるね。
ヨウコ どれにしていいのか悩みますね。とりあえず、ロックは飲んだから…。
マスミ じゃあ、にごりで発泡系の“千代むすび しゅわっと空”はどうかな。
アルコール度数も控えめで、お米の旨味も感じるけどしゅわっとサッパリ。
ヨウコ それにしてみます! マスミ先輩は?
マスミ そうだなぁ。私は“上喜元 白明かり”にするわ。
日本酒は通常黄麹で仕込むんだけど、これは白麹で仕込んだ珍しい日本酒で、
クエン酸由来の酸味が白ワインっぽいの。なんか疲れがとれそうじゃない?(笑)
ヨウコ わー、“しゅわっと空”すっごく美味しいです!
ちょっと甘さを控えた大人のサイダーみたい。
マスミ なんだか元気が出てくるよね!


夏酒といっしょに、季節を楽しもう


三、冷えた体に優しい燗酒


マスミ 夏に日本酒もなかなかいいでしょ?
ヨウコ ホントですね。ビールほどぐびぐび飲まないし、
自分のペースで飲めていい気がします。
マスミ それこそビールは冷たいうちに飲むのが美味しいからね。
さて、冷たい日本酒もいいけど、私は最後は燗で締めようっと。
ヨウコ まさかのお燗ですか?
マスミ 冷たいものばかり飲んでると、体の内側から冷えちゃうでしょう。
じつは夏に燗酒、ちょっと流行ってるのよ。
ヨウコ うーん、お燗って匂いもきついし、
美味しいイメージがあまりないんですが…。
マスミ うん、そうかもね。
ちゃんと燗付けしたお燗はびっくりするくらい美味しいんだけど、
どこで飲むかでかなり印象は変わるわね。
まあ、無理強いはしないよ。

マスミはさっそくマスターおすすめの燗酒をオーダーしている。

マスミ お燗ってハードル高いよね。
最初は燗付けの上手なお店で飲むのが断然いいと思うよ。
私も最初、本当にびっくりしたから。イメージが180度変わるくらい。
ヨウコ そんなに!? 先輩は自分でもお燗付けるんですか?
マスミ 最近少しずつね。冬場に自宅でしっぽり!したいじゃない?(笑)
ヨウコ 鍋を囲んで(笑)
マスミ そう。そんな時はしっかり滋味深い日本酒がピッタリ。
でも夏場は、穏やかで優しい味わいの燗がいいわね。
ヨウコ お燗も季節によって日本酒の選び方が変わるんですね。
マスミ もちろん好みもあるけど。
私は香ばしい麦茶とか、清涼感のある白湯を飲む感覚に近い燗酒が夏に合うように思うわ。

そこに徳利に入った燗酒がやってきた。

マスター 少し熱めにしてありますので、
だんだん温度が下がってくるのも含めて楽しんでみてください。
マスミ さすがマスター。なんて日本酒ですか?
マスター 十字旭(じゅうじあさひ)の生酛(きもと)純米です。
口の中でベタつかないよう、少し加水しています。

ヨウコ 先輩…“キモト”ってなんですか?
マスミ 昔ながらの造り方のことで、時間も手間もかかるの。
ヨウコ うーん、難しそうですね。日本酒の味にどう影響するんですか?
マスミ その質問はすごく難しいな。
一般的にはコクがあって味に厚みがあるイメージかな。
ヨウコ わかるようなわからないような。
マスミ こればっかりは生酛造りのお酒を、たくさん飲んでみないとね(笑)

徳利からお猪口よりも平たくて飲み口の広い、平杯に注ぐ。
ふんわりと優しいお米の香りが漂う。ニコニコしながらマスミは、すいっと口に含む。

マスミ ああ、美味しい。優しい酸味と甘みで、まさにお茶飲んでる気分だわ。
ヨウコ えええ〜。あの、一口もらえますか?

マスミは笑いながらもうひとつ平杯を頼み、それにゆったりとお酒を注いだ。

ヨウコ あ、あのツンとした香りがないですね。
…ん⁉ え、あれ? 口当たりも柔らかくて、優しい味です。
マスミ でしょう〜。もうちょっと飲んでみる?
ヨウコ ハイ。えー、お燗って美味しいんですね。なんかもうびっくりです。
暑くてつい冷たい飲み物ばかり飲んでたんですけど、
体にすうっと吸収されていくみたいです。
マスミ 温かいお酒だと、アルコールの吸収も早く始まるから
あとから急に酔いが回ることも少ないの。悪酔いしづらいというメリットもあるよ。
ヨウコ 恐るべし燗酒。
マスミ 温度もいろいろあって、5度おきに呼び方が変わるの。
普段私たちが「熱燗」と呼んでいるのは、50度の燗酒のこと。
ヨウコ へええ。他はどんな呼び方があるんですか。
マスミ そうねぇ。一度にあれこれ覚えるのは大変だから、特徴的なものから。
35度が人肌燗。まあちょっと平熱としては低めよね(笑)。
それから40度がぬる燗。ちょうどお風呂の温度くらいだけど、ぬるいってほどじゃないね。
ヨウコ 面白いです〜!
マスミ そうだ。スパイスと燗酒の相性もいいの。マスター、カレーください!

カレーと日本酒!?と驚きながらも、運ばれてきたカレーを食べた後に日本酒を飲んで
ヨウコは何か悟ったような顔をした。それを見て、すかさずマスミが言う。

マスミ スパイスの香りと日本酒の香ばしい味が口の中で溶け合って
なんとも…合うでしょう?
ヨウコ それ、それです! 私、もう先輩についていきます!

日本酒の新たな魅力をまた見つけたヨウコ。
ペロリとカレーも平らげて、すっかり夏を満喫した模様。


第1回「日本酒を飲んでみたらオイシイことだらけだった」はこちら
第2回「〜日本酒と料理のオイシイ関係〜」はこちら
第3回「夏のホムパ! 先輩にお呼ばれされた時の賢い日本酒の選び方」はこちら

イラスト/藤原基央
編集/株式会社ナート
文/小野寺涼子