毎年9月28日は「国際セーフアボーションデー(安全な中絶・流産のための国際デー)」である。産婦人科医・高橋幸子先生と、自らも高校生の頃に中絶を経験し、今は性教育の啓蒙活動を行う新橋みゆ氏の対談から、人工妊娠中絶を切り口に日本の性教育について考える。

性教育スタートの国際基準は5歳から、なのに…


高橋幸子先生は、現在埼玉医科大学病院にて思春期外来を担当するほか、各種学校で性教育を行っている。一方、新橋みゆ氏は自身の高校時代の人工妊娠中絶の経験を基に、性教育の必要性について国会議員との意見交換会に参加し、政策提言を行うなど積極的に活動する現役大学生だ。

それぞれ異なる立場で性教育の発展に向けて活動するお二人に、人工妊娠中絶や性教育について、日本の実態や海外の制度との比較などをお話しいただいた。

新橋氏(以下、新橋):中絶は、身体的、精神的、金銭的に、女性に大きなダメージがあります。特に精神的なダメージが強かったという声がよく聞かれます。

その内容は後悔が多く、中絶手術から5年が経ってもうつ病など精神的な不調に悩まされている方もいます。当時のケアが十分ではなかったために辛い状況が続いている人、「本当は産みたかったけれど産めなかった」という苦しみを感じている人もいますね。

高橋先生(以下、高橋):実は、日本の人工妊娠中絶を受ける方の数は年々減っています。昭和30年には117万件以上だった件数が、令和2年には約14.5万件にまで減少しています。数値だけを見ると、日本の性教育がしっかり機能しているためであるかのようにも感じられますが、日本の性教育ではそもそも「性行為」について扱わないという課題があります。


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国際的な性教育の指針「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5〜8歳の時点で妊娠は計画できるということ、9〜12歳の時点で避妊について、15歳以上では「ちゃんと避妊していても、意図しない妊娠は起こるものであること、サポートにどうつながるか」を学ぶことが望ましいと示されています。

しかし日本では、高校でようやく避妊について学びます。それまでに月経・射精や妊娠・出産・性感染症については学びますが、その中で性交についての学習は一切行われません。日本でも、予定外の妊娠があることを想定した教育や制度、人材の整備が早急に求められるところですね。


妊娠の知識も、中絶の決定権も持たない日本の若者


新橋:若者の実態に合った性教育が足りないことは私も痛感しています。私立の中高一貫校に通っていたこともあり、その6年間の中で初めて性教育を受けるのが高校2年生の3月でした。中絶当時のパートナーは私が妊娠した当時、高校2年生になりたてだったので、避妊についても本当に知識がなかったのです。

それも影響し、当時、彼に避妊をしてほしいと訴えましたが、その重要性を知らなかったがために避妊をしてもらえませんでした。また、中絶を決意したとき、私の親、医師、パートナーに加え、パートナーの親にも中絶の許可を取らなければなりませんでした。私の意思以外に委ねられるところが大きすぎると感じましたね。

高橋:本来ならば、自分の体についての意思決定は自分でできなければいけませんよね。中絶に当たっては未婚の場合、法律上パートナーの同意は必要ないんです。妊婦が未成年の場合は保護者の同意が必要とされることが多いですが、それだけのはず。

今、世界では、一人一人の「SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ=性と生殖に関わる健康と権利)」が守られるべきだという価値観やその動きがとても高まっています。その考え方で言えば、本来は「産むも産まないも、自分の体について周りにとやかく言われる筋合いなんかない!」のです。


スウェーデンの充実した性と避妊に関するサポート


日本の現状に対して、性教育や性に関するサポートが進んでいる海外ではどのような制度があるのだろうか。

高橋:2019年、スウェーデンのユースクリニックの視察に行きました。日本との違いは様々ありましたが、思春期用のミレーナ(子宮内避妊器具)があったことには驚きました。従来のものより少し小さいんです。

ミレーナは、挿入するときの困難さから、経産婦向けの避妊具というのが我々の認識でした(出産経験のない方でも使うことは可能)。そのような意識のものに「思春期用」が開発され、使われていることに大変驚きました。

この背景には、スウェーデンの性教育やサポートの姿勢があると思います。スウェーデンの性的同意年齢は15歳。それまでにしっかりと性教育をして、15歳になったら「あなたたちはセックスをする権利がありますよ」というスタンスで、それ以降の避妊のサポートが無料なんですよ。

新橋:すばらしいですね。日本は性的同意年齢13歳にも関わらず性交については教えてもらえないし、それなのに高校生で妊娠をしたら周りからものすごく責められるのに……。

高橋:ものすごい差ですよね。



若くして出産することでキャリアの選択肢が狭まる日本


新橋:私は社会の受け入れ体制にも海外と日本の差を感じます。

日本では、妊娠して高校を中退してしまうと、その後育児と生活を安定させることの両立はとても難しいものになってしまいます。そのため、将来のキャリアのために産みたいのに産むことを諦めてしまう方も少なくありません。海外には子どもを妊娠して産んでからも通える学校がある国も多くあるので、日本にもそういった学校が増えてほしいなと思います。

アメリカには子どもをもつ女性が通う学校から積極的にインターン生を採用する企業があるそうです。理由は「守るものがある人の方が、より意欲的に働いてくれる傾向があるから」。

子どもがいるからこそ分かることや経験を生かしてもらいたいという理由で、ベビーカーやミルクのメーカーなどが積極的に採用しているそうです。そのような感覚を日本の企業にももってもらえたら、若くして妊娠した女性の選択肢が増えるのに、と思いますね。


日本の制度の現在地と、教育現場の課題


高橋:そんな中でも、令和元年に「成育基本法」という法律が施行されました。これは、「子どもやその保護者、妊産婦に対し、必要な成育医療等を切れ目なく提供するため」の法律です。成育基本法に沿った政策の中にプレコンセプションケアという言葉が用いられています。これは、「将来の妊娠に備えて健康な体を保とう」という考え方です。

この考え自体はとてもすばらしいし大事なのですが、これだけだと妊娠して産むことだけを勧められているように感じる人もいるんですよね

「産む」か「産まない」かの二択であるという前提の下、「産む」ことを選択した場合に必要になってくるのがプレコンセプションケアだという理解になるためには、「SRHR(性と生殖に関わる健康と権利)」という土台が必要です。この性に対する意識の土台を耕すために、外部講師として我々医師や助産師などが学校に入り、性教育を行なっています。

新橋:厚生労働省でこのような研究や法律の制定が進められている一方で、その情報が文部科学省から全ての学校にしっかりと行き渡らないことも大きな課題ですよね。

私は教育学部生なのですが、平成29年に改訂された学習指導要領では、性教育に関して「保護者の理解を得る」などの配慮が必要と書かれていることを知って驚きました。ほかの指導内容にはそんな留意点は書いていないのに。世の中の流れに伴って、性教育がタブーという学校現場の風潮が変わってほしいなと思います。

一方で、同世代の教育学部生には、性教育やジェンダーについて「知っておかなきゃいけない」「将来子どもから相談されるかも」と考え、必要感をもつ子は多いと感じます。そのような考えをもつ先生が教育現場に増えてほしいですね。

後半では、日本で性教育や中絶がタブー視されるワケと、お二人が考える理想の性教育の在り方に迫る。


参考資料
「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(性を学ぶセクソロジー)
「令和2年度の人工妊娠中絶数の状況について」(厚生労働省)
「10代の妊娠 友だちもネットも教えてくれない性と妊娠のリアル」著者:にじいろ、監修:高橋幸子(合同出版)
セーフアボーションジャパンプロジェクト


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